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医師の苦悩「疑似医療への転院希望を断れない」

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大学病院の医師たちが「疑似医療」に手を焼いている。闘病で不安な患者は、怪しげなクリニックであっても、ウソと科学的根拠を巧みに混ぜた口上に欺かれてしまう。患者がそうした治療を受けたいと言い出せば、止める方法はないという――。

※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 3杯目』の一部を再編集したものです。

医師側は「嘘っぱち」とは言いづらい

鳥取大学医学部附属病院 呼吸器内科の阪本智宏助教は疑似医療に手を焼いている医師の一人である。

「ぼくたちがよく治療しているのは、Ⅳ期の肺がんの患者さんです。つまり一番進行している肺がんです。まずはⅣ期の肺がんですと伝えます。その後、言葉遣いには気をつけながらも、根治はもう望めない状態であることを理解してもらった上で、延命と(症状の)緩和を目的とした、いわゆる抗がん剤を含む薬の治療をすることになります。そして、患者と話し合って、具体的にどのように治療を進めて行くのかを決めます」


鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 3杯目』

ところが、あるとき患者からこんな風に相談を受けた。

――こんなものを見つけました、ここを紹介してほしい。

疑似医療を行うクリニックだった。

「選ぶ権利は患者さん側にあるので、『こんなのは嘘っぱちです』とは言いづらい。とはいえ目を覚ましてほしいので、散々オブラートに包んだ話をした後、『あなたが私の親だったら殴っても止める』と強い言葉を使うこともあります。それでも行きたいというのならば止めることはできないので、手紙(紹介状)は書きます」

嘘とエビデンスのある事実を「サンドイッチ」

ことを複雑にしているのは、そんななかに医師免許を持った人間が運営しているクリニックがあることだ。

阪本はそうしたクリニックの「宣伝文句」はずる賢いと嘆く。

「“これでガンが治ります”と書いてあると流石に嘘っぽいから、そうはしない。嘘とエビデンスのある事実をサンドイッチにしている。ここまでは合っているけれど、さらっと嘘が入っている。疑似医療には裏付けとなるデータがないのだとよく言われますよね。それに対して、データはある、論文はこれだけ出ていると広告を打っている。でも金を払えば論文を出してくれるところがある。ぼくたちは“ハゲタカジャーナル”と呼んでいます」

退官間近の有名大学教授の看板を利用することもある。

「データがないっていうけれど、こんな有名な大学の先生が論文を書いている。(阪本)先生はどれだけ知っているんだって言われると、この(疑似医療の)治療法については全く知りませんと答えるしかない」

また、医療現場で使われている「標準治療」という言葉が誤解を招くこともあるのではないかと阪本は感じることがある。

「これが一般的な標準治療ですと言われると、標準ではないもっと上の治療があるのではないかと思う患者さんがいる。(金銭的に)余裕のある方は特に『いくら掛かってもいいから、一番いいのをやってくれ』とおっしゃることがある。標準治療というのは、今までのデータの積み重ねで決められたものです。これが(現時点で)一番いい治療なんだということを納得してもらうのが大変」

プラセボ効果が疑似医療を守ってきた

金銭を払えば、現時点で病院が行なっていないもっといい治療が受けられるのではないかという、藁(わら)をも掴(つか)もうとする患者の気持ちにつけいるのが疑似医療である。

疑似医療の歴史は古い。それどころか、科学的根拠に基づく医療が広まる前には、疑似医療が主流だった時期がある。

例えば「瀉血(しゃけつ)」である。古代ギリシアでは、病気の原因は血液が淀むことだとされていた。そのため、肝臓の病気ならば右手の血管を切る、あるいは脾臓(ひぞう)の病気ならば左手の血管を切る――瀉血が有効だとされていたのだ。この瀉血は長く効果があると信じられていた。アメリカ初代大統領のジョージ・ワシントンは瀉血により死亡したとされている。風邪をこじらせた彼は、繰り返し瀉血を受け、大量の血を失ったのだ。

また、プラセボ(偽薬)効果も結果として疑似医療の守り神となってきた。プラセボとは〈私を喜ばせるであろう〉という意味のラテン語だ。中世イギリスの詩人たちは、このプラセボを〈気休め〉の意で使っている。

臨床実験さえも逆手にとられる

プラセボ効果がはっきりと示されたのは第二次世界大戦末期のことだった。野戦病院に勤務していたアメリカ人の麻酔科医ヘンリー・ビーチャーが、傷ついた兵士にモルヒネの代わりに、生理的食塩水を注射。鎮痛剤であるモルヒネが不足していたのだ。するとモルヒネと同じような効果があった。プラセボ効果は猛烈な痛みさえ押さえ込んだのだ。

人間と他の生物を区別するのは想像力である。人間は信じ込むことで何ら効能のない処置に対しても身体が反応する。もっとも、プラセボ効果は一時的に症状を好転させることはあるが、根本的な治療にはつながらない。プラセボ効果を過信して、治療を放置、症状が悪化する場合もある。

プラセボ効果を排除し、本来の効果があるかを臨床実験で測定することが、医学界の大きな課題でもあった。

ただし、疑似医学に手を染める人たちは、こうした臨床実験さえも逆手にとってきた。

阪本はこう指摘する。

「改ざんとはまでは言わなくとも、作為的なデータは出せる。このデータを拾うと不利になるからやめよう、そしてよくなったように見えるデータを引っ張ってくることは可能なのです」

問題の根は深いのだ。

免疫療法は効果が証明されていない

とりだい病院内には「がん相談支援室」が設置されている。臨床心理士の資格を持つ、吉岡奏がん専門相談員は自らの仕事をこう定義する。

「医師に治療についての説明を受けたけれども、なかなか理解しきれない。そうした患者さんに対し、もう少し詳しく知るためのツールの紹介や、医師に質問する際に正確に伝え、聞くための事前準備のサポートなどが私たちの主な仕事です。そういったなかに免疫療法などの代替医療についての相談もあります」

代替医療とは現代西洋医学以外の医療行為の総称である。

「免疫療法をやっていますかという相談に対し、どのような治療をイメージしているのかを聞きます。その上でいわゆる自由診療で行う免疫療法はここではやっていないと説明します。そして国立がん研究センターのがん情報サービスというサイトの“免疫療法”などの情報を紹介しています」

〈免疫療法 まず、知っておきたいこと〉というページではこう書かれている。

〈これまでの研究では、残念ながらほとんどの免疫療法では有効性(治療効果)が証明されていません〉

そして免疫療法を2つに分けている。

効果が証明されている免疫療法と、さまざまな治療法を含む「広義」の免疫療法である。この広義の免疫療法は効果が証明されておらず、保険治療が認められていない。そのため患者が全額治療費を支払う自由診療である。この選択をする場合は〈公的制度に基づく臨床試験、治験などの研究段階の医療を熟知した医師〉にセカンドオピニオンを求めるように注意を促している。

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