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高額商品は消費税増税後に買え ~価格は市場が決める~

消費税増税を含んだ「税と社会保障の一体改革」が昨日、参議院で審議入りした。このまま順当に行けば、消費税は2014年4月に8%、2015年10月には10%へと増税される。

これを受けて早くも「高額商品は増税前に買え」といったいい加減なアドバイス(というか流言飛語)を口にする輩がいる。その中には一部のファイナンシャルプランナーも含まれているので、正直言って一緒にしないで欲しいといいたくなる(大体裏を探ると住宅ローンの仲介をしていて家を買わせたいだけ、というポジショントークである事が分かる)
商品の価格は消費税のような人為的な要素で決まるのか。そうでない事は液晶テレビの価格推移を見れば容易に分かる。これに関しては個人的に苦い思い出がある。

家電エコポイントが始まったのは2009年5月だ。自分はこの頃、二つの意味で怒り心頭だった。まずはこのような無駄な事に税金が使われる事に関してだ。液晶テレビは当時生鮮食品といわれるほど急激な価格下落に見舞われていた。つまり、こんな余計な制度を導入するまでもなく、半年もすればエコポイント分位は十分値下がりする事が確実だったからだ。

二つ目はそれにもかかわらず、多くの消費者がこぞって液晶テレビを買いに走った事だ。それによって液晶テレビの価格は横ばいとなり、制度導入後に価格下落は完全に止まった。

完全に買い時を逃した自分はカカクコムを時折見ながら、こんな制度が無ければもっと値下がりしていたのに、と思っていた。2010年に入ると価格は再度下がり始め、エコポイント導入時には10万円以上していた40インチの液晶テレビは7万円前後でうろうろするようになった。自分としてはエコポイントが終わるまで絶対に液晶テレビは買わない、この制度が終わればエコポイント分は確実に下がるのだから、と考えていた。

しかし、あるとき「エコポイントが終わったら価格が大幅に下がると言う人が居るけど、それは間違い。今でも利益率は高く無いのだから、これ以上値下がりしたら家電メーカーは赤字になる。赤字価格まで下がるわけがない」といった記事をウェブ上で読んだ。言われてみればそうだなと思い、過去の悔しさも忘れてエコポイント終了前に40インチの液晶テレビを買ってしまった。価格は7.5万円程度だった。

その後どうなったかは多くの人が知っている通りだ。エコポイントが終わると液晶テレビは更なる価格下落に見舞われ、地デジ化終了後は再度加速がつき、40インチの液晶テレビは国産メーカー物でも一時4万円を切るまで値下がりした(現在はある程度持ち直して国産ならば5万円程度)。価格下落と出荷台数の大幅減によって、家電メーカーは合計で1兆円を越す大赤字に転落した。

そう、自分は「赤字価格で売るわけが無い」という間違った情報を鵜呑みにしてしまった結果、価格は製造コストで決まるのではなく、市場で、つまり買い手が決める事を忘れてしまったわけだ。

いまだにエコポイント制度の経済効果は非常に大きかった、あの制度は正しかった、とトンチンカンな意見を散見する。6929億円の税金が投入され、その7倍・約5兆円の経済効果があったといわれているが、昨年だけで家電メーカーには1兆円の赤字が発生し、税金投入分はほぼ打ち消された。プラスの経済効果を言うならばマイナスの経済効果も当然考えるべきだろう。エコポイントをいまだに褒め称える人は1兆円の赤字によって、マイナスの波及効果がどれだけあったのか、ぜひ考えて欲しいものだ。

そして本来であればもっと早く業態転換、業界再編が進むべき家電メーカーを逆戻りさせてしまった事で、お金に換算できない程のダメージを各社は被った。

自分が間違った情報を鵜呑みしてしまった事に関しては、製造原価の仕組みを考えれば、赤字でも売らざるを得ない事情が家電メーカーにあった事を理解すべきだった。

例えば原価10万円の液晶テレビがあったとして、そのうち固定費が6万円、変動費が4万円だったとする。本来であれば売値は10万円以上でなければ赤字だ。
だが、家電メーカーは最悪でも4万円以上で売れるならば、この液晶テレビを作り続けるしかない。

変動費は商品を1つ作るたびに発生するコストなので、これ以下の価格でしか売れないならば、製造をやめる事が正しい判断になる(いわゆる限界利益の話)。しかし、5万円で売れるのならば、赤字であっても固定費を1万円分は回収出来る事になる。固定費とは工場の建物費や製造設備にかかったコスト、人件費など、一個も商品を作らなくても、発生するコストの事だ。この固定費は工場を売却する、事業を完全に辞めるなど、大規模なリストラを行わない限り発生するので、赤字でも作り続けるインセンティブがメーカーにはある。

エコポイントというカンフル剤によって大量生産をしていたわけだから、各社とも生産設備だけは大量にある。すると作れば作るほど赤字になる液晶テレビが大量に市場へ出回る事になる。結果として家電量販店の店先で行われるタイムセールで液晶テレビが売られる事になった。液晶テレビは衝動買いするものになったのか、と唖然とした事を覚えている。

エコポイントの話ばかりで消費税の話をするんじゃなかったのか、と突っ込まれそうだが、ここからが消費税の話だ。エコポイントの導入および終了後の価格変動を見ていれば分かるように、人為的に価格が歪む事があっても、長期で見ればそれはならされる事になる。

液晶テレビはエコポイント終了後、駆け込み需要が終わった事により、急激な価格下落に見舞われた。消費税導入でも同じ事が起きるだろう。特に車や不動産などの高額な買い物は価格下落に見舞われる可能性が高い。

上で説明したとおり、メーカーや小売店が固定費をまかなわなければいけないからだ。駆け込み需要が終わったからといって、住宅メーカーや自動車メーカー、そしてそれらを取り扱う販売店は仕事を辞めるわけではない。日々発生する固定費を減少した売上げでまかなうには、利益を削る、場合によっては赤字にしてでも売らざるを得ないかもしれない。住宅の販売業者に関して言えば資金繰りのためには仕入れた土地を仕入れ値を下回る価格で売る場合すらあるだろう。そうなると限界利益がうんぬんなどという理屈すら言っていられなくなる。

もちろん、将来の価格変動を読む事は簡単ではない。特に不動産のような資産価格に関してはなおさらだ。一度売れれば消費されてしまうモノに対して、資産価格は株も不動産も買い手が買った途端に売り手になる。しかもいつ売り手として売りに出すかは本人ですら分からないので、一般的なモノと比べて価格変動はより複雑だ。

結局買い手は、損得より支払いが出来るかどうかが重要でリスクを重視すべきだ、という話は「持ち家は資産か?」から始まる一連の議論で説明したとおりだ。多少の得だからと無理に高額商品を買うほど危険な事は無い。

なお、今回書いたような話に関しては、「消費税が上がる前に買うべきもの、すべきこと」という記事で日経新聞のウェブサイトが正しい情報を伝えている。

以前の記事「日経新聞の勘違い・その1」と「日経新聞の勘違い・その2」では日経新聞の記事(というより記事に出てきたFP)を批判したが、今回のように真っ当なFPに話を聞けば真っ当な結論が出てくる。

高額商品の買い物は、ぜひ正しい知識・情報を元に判断して欲しいところだ。

中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長
ファイナンシャルプランナー
シェアーズカフェのブログ
ツイッターアカウント @valuefp 

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