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「大量閉店」の幸楽苑の今後が不安視されるワケ

ラーメン店「幸楽苑」が不採算店51店舗を閉鎖する。19年夏までは好調だった業績が、台風19号の影響で下り坂になったことから、「環境の変化に左右されない利益体質を構築する」と説明している。店舗運営コンサルタントの佐藤昌司氏は、「閉鎖する店舗の一部は業態転換し、リスク分散化を図るのだろう。だが業態転換は別のリスクを伴う」と分析する――。

都内にある幸楽苑=2019年6月5日 - 写真=アフロ

■関東・東海地方中心に約1割を閉鎖

1月6日、ラーメン店「幸楽苑」を展開する幸楽苑ホールディングス(HD)は、全店の1割に当たる51店を2019年12月から20年4月にかけて閉店すると発表した。関東や東海地方の不採算店を中心に閉鎖する。一部の店舗は業態転換を進めるという。

少し前まで、幸楽苑の業績は悪くはなかった。国内直営既存店売上高は、19年8月まで11カ月連続で前年を上回っていた。大幅増を達成した月も少なくなく、18年12月は前年同月比9.8%増、19年2月は11.1%増、3月は10.1%増とそれぞれ大きく伸びている。前年同月が悪すぎた面もあるが、いずれにせよ業績が上向いていたことは間違いない。

ところが、19年9月から12月までの4カ月は前年を下回ってしまった。10月に至っては30.7%減と大幅マイナスだ。それまでの好調から一転して悪化している。

■台風19号で福島県の工場が操業中止

10月が大幅マイナスだったのは、台風19号の影響が大きい。台風19号は土砂災害や河川の氾濫などを引き起こし、東日本を中心に各地に甚大な被害をもたらした。幸楽苑HDも福島県郡山市にある工場が浸水被害に遭い、10月13日に同工場の操業停止を余儀なくされている。これにより東北を中心に約240店が休業に追い込まれた。これは全店のほぼ半数に当たる。

翌11月に郡山工場は操業を再開することができ、休業した店舗は営業を順次再開した。ただ、休業の影響や食材の供給がしばらく滞ったことなどが影響し、11月の既存店売上高は11.8%減と大きく落ち込んだ。12月も6.7%減とマイナスが続いている。

もちろん、こうした状況に対して幸楽苑HDは手をこまぬいていたわけではない。これまでにいくつか対策を講じてきている。例えば、通常税込み440円の「中華そば」を、期間と数量を限定して10円で販売するなどして集客を図った。だが、客足は完全には戻らず、抜本的な対策には至っていない。一度離れた顧客を取り戻すことは難しく、当面は厳しい状況が続きそうだ。

■ラーメン事業が全売上高の9割を占める

1カ所の工場が操業停止するだけで、経営が大きく傾いてしまう――これは、特定の対象に依存することの危険性がわかる事例といえるだろう。投資の世界には、これを表す「卵を1つの籠に盛るな」という格言がある。同じことが経営の世界でも言える。

幸楽苑HDは台風19号による被害を受けて、「いかなる局面でも利益を確保しうる利益体質の構築を推し進める」方針を表明している。この危険性を意識してのことだろう。その一環が、今回の51店の閉鎖と業態転換だ。同社は「幸楽苑」を中心としたラーメン事業が全売上高の9割を占めている。これは特定の対象に依存している状態で、リスク分散化ができていない水準と言えるだろう。そこでラーメン店の一部を業態転換してラーメン以外の事業を育て、「いかなる局面でも利益を確保しうる利益体質の構築」を実現したい考えだ。

■業態転換はすでに進めてきた

もっとも、幸楽苑HDはこうした考えを以前から持っていた。対策のひとつが、他の外食企業とフランチャイズ(FC)契約を結んで複数ブランドの外食店をFC展開を行うことだ。「その他外食事業」において、19年9月末時点でステーキ店「いきなり!ステーキ」直営店16店、焼肉店「焼肉ライク」直営店3店、からあげ店「からやま」直営店1店を展開している。今後は閉鎖する51店の一部をこうした業態に転換し、収益性を高めるとともにリスク分散化を図るものとみられる。

実際、最近もこうした業態転換を行っている。2019年10月に「幸楽苑国分寺西店」(東京都国分寺市)を閉店し、12月には跡地に「焼肉ライク立川通り店」(同)をオープンした。

また、今回の大量閉鎖・業態転換には、自社競合を解消する狙いもある。同社はこれまでに「幸楽苑」の店舗同士の競合の解消を進めてきた。例えば、先述の「幸楽苑国分寺西店」は「幸楽苑国立府中インター店」(東京都国立市)と「幸楽苑武蔵村山店」(同武蔵村山市)に挟まれていた上に、店舗間の距離はそれぞれ車で約20分程度と近接していた。ここで顧客の奪い合いが起きていたため、「幸楽苑国分寺西店」を「焼肉ライク立川通り店」に転換したとみられる。ラーメン店と焼肉店の競合度は低いので、自社競合の解消につながる。

■いきステとFC契約を結ぶも、いきステ側が不調に

このように幸楽苑HDは業態転換を進めて収益性を高め、リスク分散化を図る方針だ。だが、こうした方針には危うさも漂う。リスク分散はできるだろうが、収益性が逆に低下する可能性がある。

幸楽苑HDはこれまで主に「いきなり!ステーキ」への転換を進めてきた。2017年にフランチャイズ契約を結び、業態転換を始めた当時は「いきなり!ステーキ」は勢いがあった。だが、最近はブームが去り、勢いが急速に衰えている。「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスは、不振を受けて同ブランドの不採算店の大量閉鎖を決めた。

閉店する「いきなり!ステーキ」の一覧を見てみると、郊外ロードサイド店が多い。その理由は、郊外ロードサイドの飲食店でメインターゲットとすべき家族連れを取り込めるようなメニュー構成と店舗構造になっていないためだ。家族連れにそっぽを向かれ、収益が低下して大量閉店に追い込まれたと筆者は分析している。

■焼き肉、からあげ、鍋への転換が増えている

ひるがえって、「幸楽苑」はもともと郊外ロードサイド店が大半だ。「いきなり!ステーキ」の現状を見るに、郊外ロードサイド立地の「幸楽苑」を「いきなり!ステーキ」に転換しても、収益性が高まることは見込みづらい。そのためか、最近は「いきなり!ステーキ」への転換を行っていない。増えているのは「焼肉ライク」や「からやま」、鍋料理店「赤から」への転換だ。だが、この動きも危うさをはらんでいる。

「焼肉ライク」は1人1台の無煙ロースターで気軽に焼き肉を食べられる「一人焼肉店」の店として注目を集め、繁華街を中心に店舗網を拡大してきた。確かに勢いはあるが、一人焼肉を郊外ロードサイドで展開して成功するかは未知数だ。前述した通り、郊外ロードサイド店は家族連れを取り込めないと厳しい。「焼肉ライク」も郊外ロードサイド向けのモデル店を開発してはいるが、イメージが邪魔をしてファミリー層を取り込めない可能性は捨てきれない。

■トレンドに左右されて経営が傾くリスク

一方「からやま」は、からあげブームに押されて勢いがある。だが、ブームが去った後にからあげが外食店の定番で居続けられるかは不透明だ。また、辛い鍋料理を売りとする「赤から」も激辛ブームに乗って勢いがあるが、同様に今後も勢いを保つことができるかは未知数といえる。

トレンドに乗って勢いがある外食店をFC展開することは、収益性を一気に高めるチャンスが得られる一方で、ブームが去った後の対応を誤れば経営が一気に傾くリスクも抱え込む。「いきなり!ステーキ」のように、急に不振に陥らないとも限らない。幸楽苑HDは今後こうした点に気をつける必要があるだろう。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)

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