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いま多くの人が自分はリスペクトされていないと感じている。国中に蔓延する停滞感や閉塞感の元はそこにある。 - 「賢人論。」第107回(後編)小熊英二氏


現在、少子高齢化が止まらない日本では、年間30万人、1週間で6,000人の人口が減り続けているという。こうした状況下、労働力不足の切り札として外国人の受け入れが政府主導で進められている。彼らに熱い視線を注いでいるのは、介護、農林水産業、建設、飲食といった低賃金セクターの業種である。が、はたしてそう都合よく事は運ぶのか──「誰にとっても生きやすい社会とは何か」を模索する小熊英二氏に〝外国人との真の共生〟について意見を伺った。

取材・文/木村光一 撮影/公家勇人

待遇が悪くても転職できない、良心的な雇い主に当たるかは運次第。それが実態です

みんなの介護 コンビニなどで見かける外国人アルバイトの姿も、すっかり日常の1コマになった感があります。いまや、アジア圏からの留学生や実習生が日本の介護現場などを支えていると言われています。

小熊 おっしゃるとおり、留学生の数は増えています。2012年の約16万人に対し、2017年は約27万人にまで伸びた。それもこれも、日本が就労ビザのない留学生でも週28時間まで〝働ける国〟だからです。アメリカでは留学生の就労は原則禁止。他の国でも、就労を認められたとしても時間制限が厳しい。そういうわけで、途上国の苦学生たちが日本に集まってきているわけです。

みんなの介護 途上国の苦学生といえば、技能実習生の名目で来日した外国人が、不当に安い賃金で働かされているというブラックな話もときおり耳にします。本来、彼らの立場はどうなっているのですか?

小熊 外国人技能実習生が日本国内で働く場合、労働法や労働基準法が適用されます。就労時間は1日8時間。週40時間が規定労働時間。それを超過した場合、雇用主は時間外割増賃金を支払わなければならない。日本人と条件はまったく一緒です。

ただ、技能実習生制度には縛りもあり、滞在期間の3年は勤務先が変更できない。さらに、実習生の側は企業や業界を選べず、どんなに待遇が悪くても転職できない。そういう制度にすることで、政府は産業界の求めに応じて彼らを振り分けている。

良心的な雇い主に当たるかどうかは運次第。人手不足のため、労働基準監督署によるチェックも、現場までおよんでいない。それが実態です。

「こう書いてあっても忖度しなさい」は、異文化の人たちには通用しない

みんなの介護 実は、次に「日本は外国人労働者に対して寛容な国なのか?」という質問を用意していたのですが、つい、言葉を失ってしまいました…。

小熊 個々の日本人の偏見や差別意識はそれほどでもないと思います。ただ、労働現場に関する法律の規定が曖昧で、労働協約や契約も明示的に提示されないことが多すぎる。また、それらを監督指導する役目を果たす行政も人手不足を理由に機能していないことが問題です。

そもそも日本では法律に細かいことが規定されておらず、個別の事柄は過去の判例と行政の裁量に任されている。公務員が少ないのに政府の存在感が大きいのも、行政の裁量権が大きすぎるからです。

それに対し、例えばドイツでは、日本なら法律の変更で済んでしまうような事柄まで憲法に規定している。ドイツが憲法改正を頻繁に行っているのは、そういう作業が繰り返されているからなんです。

みんなの介護 移民大国といわれるアメリカやカナダといった北米では、外国人労働者を迎え入れる際、どんな取り組みがなされているのですか?

小熊 外国人労働者を迎え入れる際の、あらゆる手続きが決まっていて明示化されています。日本の法務省のサイトは、永住権や国籍取得は「納税状況や社会の迷惑への有無等を総合的に考慮」すると書いてあるだけで、基本は行政の裁量です。

ところがアメリカ政府移民局のウェブサイトを見ると、国籍や市民権を取得するためには何が必要か、どういう条件を満たさなければならないかという規定がびっしり細かく書いてある。逆に言うと、それさえクリアすればいい。

みんなの介護 行政や雇用主の思惑というブラックボックスによって判断が下される余地は微塵もないんですね。まさに開かれている。

小熊 これまで、日本では労働者と雇い主は阿吽の呼吸で関係を保ってきたわけですが、外からやって来る人たちの目にが、そういう関係は極めて〝ずさん〟で〝不透明〟なものに映ってしまう。

外国人と共存していくには、徹底したルールの明確化と透明化が不可欠。「こう書いてあっても忖度しなさい」は、異文化の人たちには通用しません。


日本は職場として、日本人が考えているほどの魅力はない

みんなの介護 とはいえ、日本は世界第3位の経済大国。これからさらに外国人労働者は増えていくのではないですか?

小熊 日本人は労働市場においても、まだ、自分たちが経済大国としてのアドバンテージを持っていると思っているかもしれません。が、すでに最低賃金はソウルや台北の方が高くなりつつある。

つまり、急速に出生率低下が進んできている韓国や台湾も日本と同じように労働力を海外に求めようとしている。昔は多産だったメキシコやインドでも出生率は低下しており、世界中で外国人労働者の獲得競争が始まろうとしています。

例えばベトナムの農村の人は、地元の工業団地で働くか、オーストラリア、シンガポール、韓国、台湾、日本のいずれの国で働くかを選択できる立場になっている。日本の最低賃金で稼げるのは月額約1,000ドル。仮に他国より賃金が多少高かったとしても為替レートによってそれも変動するため、必ずしも決め手にはならない。

そうなると労働条件も重要なアピール要素になってくるわけですが、今はSNSで世界中からナマの情報を集めることが可能ですから、嘘をついてもすぐにバレてしまう。もはや、日本という働き口には、日本人が考えているほどの魅力はない。それがリアルな現実です。

「外国人材から見た魅力度ランキング」日本は63ヵ国中51位

みんなの介護 外国人労働者にとって日本は特別に稼げる国ではなくなり、多様な選択肢のひとつに過ぎなくなっていたとは…。ショックです。

小熊 ちなみに2017年の調査(スイスの国際経営開発研究所調べ)では、〝外国人材から見た魅力度ランキング〟で日本は63ヵ国中51位。2015年の移民統合政策指数(MIPEX)では、38ヵ国中の総合27位。差別禁止規定では37位。実際、日本を見る目はかなり厳しくなっています。

みんなの介護 それが事実なら、日本人も、これまでと違う態度で外国人労働者と向き合わなければなりませんね。その際、一番大切なことは何だとお考えですか?

小熊 やはり〝透明性〟です。繰り返しになりますが、何を基準に採用が行われ、どのようにして賃金や昇進が決められるのかを明示的に提示すること。そこを誤魔化しながらやりすごそうとしている限り、外国人は絶対に納得してくれません。

みんなの介護 最後に、小熊さんの考える理想の共生社会とは。

小熊 日本人であれ外国人であれ、誰もがリスペクトされる社会です。今の日本では多くの人たちが自分はリスペクトされていないと感じている。国中に蔓延している停滞感や閉塞感の元を辿っていけばそこに行き当たる。

つまり、リスペクトとは〝人権の保障〟。もっと具体的に言えば、あまりにも貧困な状態にある人、誰からも構われずに死んでいくような人をなくすこと。人が人として生きるうえで最低限の保障がしっかりしていて、誰もがリスペクトされていると実感できるようになれば、必ずしも仕事で高賃金を得られなくても、それほど不満は生まれないはず。私はそう思っています。

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