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大阪の芸人がヤクザと接近し「闇営業」に手を染めるまでの歴史

闇営業問題は世間を騒がせた(時事通信フォト)

 大阪を象徴する芸能文化といえば、「吉本のお笑い」を思い浮かべる人が多いだろう。吉本新喜劇をはじめ、大阪の市井の人々には、吉本のお笑い文化が深く根付いている。その吉本にとって、2019年は闇営業で揺れた一年だった。事務所を通さず反社会勢力の忘年会に出席し、ギャラを受け取っていた問題で、雨上がり決死隊・宮迫博之とロンドンブーツ1号2号・田村亮の号泣会見は連日メディアを騒がせた。

 吉本芸人と反社会勢力の近さを露呈させる出来事となったが、「本来、大阪の芸能文化は闇社会とはほど遠いものだった」というのは、立命館大学名誉教授で上方芸能に詳しい木津川計氏だ。

「江戸時代の元禄期あたりから大阪が文化の中心となりますが、この時期の大阪は近松門左衛門や井原西鶴が出て最高に進んだ文化・芸能の都市でした。江戸の歌舞伎も文化・文政期あたりまでは、大阪弁でやっていたほど。江戸時代は大阪弁が標準語のようなものだったのです」(木津川氏)

 そうした“上質な文化”を支えたのが、「天下の台所」と呼ばれた大阪の富であった。だが、その優位性も明治時代になると東京に奪われてしまう。天皇が東京へと移り、政治、経済、そして文化とすべてが東京を中心とするようになったのだ。

「東京に対抗するには経済しかないと、大阪は工業化に邁進し、煙の都となって経済力を高めた。その結果、大正時代になると大阪は工業生産力で東京をはるかに凌駕しましたが、一方で経済を重視したことは文化の軽視にも繋がりました」(木津川氏)

 工業都市となった大阪を嫌い、江戸時代から文化人のパトロンとなってきた船場の豪商たちが離れてしまう。その結果、芸能文化も市井と密着するものになっていった。『大阪的』の著者で国際日本文化研究センター教授の井上章一氏が指摘する。

「工場の煤煙や空気汚染を避けて、ブルジョアジーたちが神戸や芦屋の六甲山麓に移ってしまった。そうして空洞化した大阪中心部には、河内や和泉、さらには九州や四国から続々と労働者が流れ込み、芸能文化も彼らに寄り添うものになっていきました」

 かくして人形浄瑠璃に象徴されるたおやかな大阪の芸能文化は、吉本新喜劇に代表される大衆文化に変わった。芸人たちはドサ回りに精を出し、その土地で興行を仕切るヤクザたちとも距離が近くなる。そしてヤクザを利用し、また利用される芸人たちが出てきた。

 島田紳助がヤクザの組長との「黒い交際」を理由に引退したのは記憶に新しい。40年以上吉本に所属した大阪在住の漫談家・前田五郎は、本誌『週刊ポスト』(2019年8月16・23日号)でこう告白している。

「1980年代に吉本にいた頃は、週に何回もヤクザから仕事をもらっとった。ヤクザの営業で30万円や50万円のカネがどんどん入ってきて、まさに濡れ手に粟や。中にはギャラ100万円という仕事もあった。当時、会社の仕事とヤクザの仕事は4対6くらいやった」

 前出の井上氏が語る。

「メディアの作る“大阪的イメージ”もそうした土壌形成を後押ししたのではないでしょうか。テレビ受けするようにどんどん大阪芸人の言葉がきつくなり、品格がなくなっていきました」

 一連の吉本の闇営業問題は、大阪の芸能文化の変質を象徴するものと言えるかもしれない。(文中一部敬称略)

◆構成/竹中明洋(ジャーナリスト)

※週刊ポスト2020年1月17・24日号

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