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学校がいじめを隠ぺいする本質的理由〜教育現場に成果主義を導入した悲惨な結果

ついに滋賀県警察本部は、生徒が通っていた市立中学校と、市教委事務局が入る市役所(同市御陵町)を強制捜査いたしました。
「いじめ」で強制捜査は異例 7月11日 21時35分
滋賀県警察本部は、男子生徒が受けたとされるいじめと自殺との関連について究明すべきだとして中学校などに捜索に入りましたが、生徒の自殺を巡って中学校に強制捜査が入るのは異例です。
(後略)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120711/k10013516831000.html
教育現場への警察介入には異論もあることは承知ですが、アンケート結果を公表しないなどの一連の学校側・市教委の不誠実極まりない隠蔽体質を考えると警察の介入は止むを得ないことと、支持いたします。

正直、文部科学省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、学校という中央集権的ピラミッドの教育行政の人達にまかせても自己保身に走ってばかりで真相究明に至るとは到底思えません。

なぜ、彼ら、学校、教育委員会はここまで醜い自己保身、隠蔽体質を晒し続けるのでしょうか。

今回のいじめ自殺事件を通じて日本の教育行政の「いじめ対策無能」問題を過去の数値データをもとに、徹底的に検証いたしましょう。

ここに文部科学省が作成した調査レポートがあります。
平成22年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について
平成23 年8 月4 日(木)
文部科学省初等中等教育局児童生徒課
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/08/__icsFiles/afieldfile/2011/08/04/1309304_01.pdf
このレポートから過去26年間(昭和60年〜平成22年)における我が国の小中高におけるいじめ件数の推移をグラフ化してみます。

■表1:いじめ事件件数推移
年度60年度61年度62年度63年度元年度2年度3年度4年度5年度6年度
総件数155066526103506729786290882430822062232582159856601
7年度8年度9年度10年度11年度12年度13年度14年度15年度16年度
60096515444279036396313593091825037222052335121671
17年度18年度19年度20年度21年度22年度
20143124898101097846487277875295

■図1:いじめ事件件数推移 リンク先を見る

上図で2箇所で折れ線グラフが切れていますがこれは、平成5年から平成6年に掛けてと、平成17年から平成18年にかけて、いじめの調査方法・アンケート方法が大きく変更になったことを意味しています。

さてグラフで水色に示されているいじめ件数の総数の推移に注目してください。

3箇所で大きくいじめ件数総数が対前年度に比較して激しく変動していることが見てとれます。
1箇所目は、昭和60年度から昭和61年度に掛けてです、15万5066件から5万2610件に三分の一に激減しています。
2箇所目は、平成5年度から平成6年度に掛けてです、2万1598件から5万6601件に2.5倍に激増しています。
3箇所目は、平成17年から平成18年に掛けてです、2万0143件から12万4898件に6倍以上に跳ね上がっています。
2箇所目と3箇所目は調査方法が大きく変更されたタイミングと重なっていることも留意ください。

さてこのグラフに3つの象徴的な悲惨ないじめによる自殺事件・死亡事件を重ねるとある事実が見えてきます。

■図2:いじめ事件件数推移と象徴的ないじめ事件の関係 リンク先を見る 起こったことを時系列にトレースしておきます。
昭和61年2月1日、岩手県盛岡市の駅近く男子問いrウェで東京都中野区立中野富士見中学2年生男子が首をつり自殺します。
(遺書)
家の人、そして友達へ
突然姿を消して、申し訳ありません
(原因について)くわしいことは●●とか××とかにきけばわかると思う
俺だってまだ死にたくない。だけどこのままじゃ「生きジゴク」になっちゃうよ、ただ、俺が死んだからって他のヤツが犠牲になったんじゃいみないじゃないか、だから君達もバカな事をするのはやめてくれ、最後のお願いだ。
10月上旬、「ふざけ」が急速にエスカレートし、顔にマジックでヒゲを書かれ、廊下で踊らされ、服にマヨネーズを掛けられます。
11月には2日にわたってクラスメイトや教師も加わって「葬式ごっこ」が行われています。
1月の始業式では10人ほどのグループにひざ蹴りやパンチなど暴行を加えられ、靴を便器に投げ込まれます。
この事件は大きく報道され、「教育委員会・学校は何をしているんだ」と世論から激しい怒りとともに大批判が起こります。
すると文部科学省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、学校という中央集権的ピラミッドの教育行政機関は、号令一下、いじめ撲滅を強化、昭和61年度の報告ではグラフの通り、いじめ件数は前年度比三分の一に激減することになります。
その後いじめ件数は平成5年度の2万1598人にまで、統計上は減り続けます。
2万1598人という数字は全学校数の半分ほどです。
つまり2校に一校は年間を通じていじめ発生はゼロであったと報告している状態です。
ところが、平成5年に山形県新庄市でいじめを受けた男子生徒が体操用のマットに押し込まれて死亡した事件が起こります。
あまりに悪質で残忍な行為から、警察が同じ学校の複数の生徒を傷害致死などの疑いで逮捕したり補導したりした先駆けとなる事件でありました。

教育行政はまたしても世間から激しい批判を受けます、「統計数字はぜんぜん現状から乖離しているのではないか」「文科省のいじめ調査はザルではないか」と批判され、教育行政はこの年大きく調査方法を変更いたします。

翌年、いじめ件数は2.5倍に膨れ上がります。
これからのち、数年後に文科省は「いじめを五年間で半減を目指す」という目標を掲げます。
答申自体は以下で公開されていますが、確かにこの中で具体的な政策目標の例として、いじめ、校内暴力の五年間で半減を目指すと明記されています。
新しい時代にふさわしい
教育基本法と教育振興基本計画の在り方について
(答 申)
平成15年3月20日
中央教育審議会
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/030301.htm
各校校長に今年度のいじめ件数を報告させ合わせて次年度のいじめ件数の「目標数値」を提示させると言う「成果主義」を導入するのです。

結果、いじめ件数の報告は暫時減り続け、平成17年には2万0143件にまで減り続けます。
またしても2校に一校は年間にいじめ発生がゼロという状態に報告書上はなります。
当然ながら多くの学校が次年度のいじめ件数の「目標値」はゼロといたします。
平成17年、大阪府富田林市立第一中学校1年の女子生徒がいじめが原因で自殺をいたします。
北海道の中学でも同様にいじめによる自殺が発生いたします。
文科省のレポートでは何年もいじめによる自殺は発生していないと報告されていたのにです。
「成果主義」による虚偽に近い報告に基く統計数値はまたしても現状から乖離していたのです、世論から大批判を受けます。
文科省は調査方法をまたしても全面的に改正します。
翌年、いじめ件数は2万0143件から12万4898件に6倍以上に跳ね上がります。
そして報告書上はいじめ件数は暫時減り続ける中で、今回の事件が発生したわけです。

・・・

こうして過去の数値で検証する限り、文科省の統計数値が正しく学校現場におけるいじめの実態を反映しているとは、到底思えません。 象徴的な事件が発生すると翌年件数が三分の一まで激減したり、調査方法を変更すると翌年6倍以上に件数が跳ね上がったり、どう考えても数値は統計的意味を有しているとはいえない、少なくともいったん増えた件数が毎年ほぼ減り続け事件が発生すると跳ね上がると言う繰り返しは、世論を意識してのかなり恣意的なデータの隠蔽が起きていると解釈せざるを得ません。

・・・

まとめです。

平成18年の毎日新聞記事から(リンクは切れています)
いじめ:「教育委員会は役立たず」中学校長が本音語る
学校現場はいじめになぜ向き合わないのか。東京都内の現職の公立中学校長が、多数の都道府県に広がりつつある「成果主義」に近い人事考課制度も原因になっていると本音を語った。人事評価でバツがつくのを恐れる「事なかれ校長」がおり、そんな校長から評価される教員たちも委縮する−−との指摘だ。文部科学省の統計で「いじめ自殺ゼロ」が続いてきたが、いじめを報告し難い背景が浮かび上がった。【井上英介】

いじめ報道を受けて取材に応じた東京都内の公立中学校長は、「親に対し、いじめがあったとはなるべく認めたくない。教育委員会にもできれば報告したくない。報告しても問題の解決には役立たない」と本音を打ち明けた。

親に認めたくない理由は、いじめる側もいじめられる側も教え子で、一方の言い分を重視するともう一方の親から激しいクレームを受けることがあるため。自ら生徒指導の怠慢を認めることにも等しく、訴訟となった際に不利になることも懸念されるという。

一方、教委に報告したくない理由は、いじめを報告すれば、生徒の学校生活の状況や指導方法などについて膨大な調査が学校に課され、肝心の生徒指導がおろそかになるからだ。また、人事評価への悪影響を心配し、報告を嫌がる校長や教頭も多いという。 都教委や都内市区町村教委は95年度、都の管理職に適用された人事考課制度をそのまま教育管理職(校長、教頭)にまで広げ、評価によって給与に差をつける制度を初めて導入した。一部を除く大半の道府県教委が採用する。

都教委の現行ルールは校長、教頭をA〜Fの6段階で相対評価し、定期昇給額について、評価A(上位10%の校長ら)では50%アップさせ、D〜F(下位20%)は昇給を25〜100%カットする。

校長は「いじめや不登校の件数を多く報告すれば『学校経営能力』にバツが付き、相対評価が下がると言われている。考課制度は教委の顔色をうかがって現場に教委の方針を伝える『ヒラメ校長』を増やすだけ。教育現場にこれほどなじまないものはない」と嘆く。

一方、考課制度について都教委は「年度当初に決める目標の達成度を測るもので、教委の一方的評価ではない。『いじめ解消』を掲げて実現できなければ考課に反映される。だが、例えば前年までいじめゼロだった学校が真摯(しんし)な調査で多数のいじめを報告したとしても、それで評価が下がるというのは誤解だ」(職員課)としている。

毎日新聞
2006年11月15日3時00分
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20061115k0000m040157000c.html
東京都内の公立中学校長が「親に対し、いじめがあったとはなるべく認めたくない。教育委員会にもできれば報告したくない。報告しても問題の解決には役立たない」と本音を打ち明けたそうでありますが、「いじめや不登校の件数を多く報告すれば『学校経営能力』にバツが付き、相対評価が下がると言われている。」とは、いじめられている子供やその親からすれば無責任にもほどがある呆れた「本音」なのであります。

しかしながら事態が深刻なのは、そもそもこのような事なかれ主義の教育行政は、この中学校長から「役立たず」と名指しされている「教育委員会」も、事なかれ主義そのものであり自分たちの評価が落ちないように「臭いモノには蓋をする」体質なのであります。

過去に起こっていることを検証する限り、私は文部科学省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、学校という中央集権的ピラミッドの教育行政の人達では、いじめ問題を解決することは不可能だろうと考えます。

調査方法や報告内容をどんなに改良しても、彼らは結局は自分の点数を下げないために「いじめ」を隠してしまうのです。

諸悪の根源は「5年間でいじめを半減する、そのために(いじめ件数の来年度の)目標を提示させる」という「成果主義」にあると考えます。

教育と言う現場に、しかも「いじめ」という深刻な犯罪的行為の抑制に、安直な「成果主義」を導入しても問題の解決にはならないことはこの26年間に起こっていることが証明しています。

教育行政がこのような体たらくである以上、残念ですが警察の介入はやむを得ません。

犯罪事件として加害者生徒、教員、教育委員会も含めて、関係者に厳しい捜査を警察によって断行していただくしかありません。

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