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正月の福袋商戦に異変 「鬱袋」批判に怯える経営者たち

「福袋」はショップ側にも商機だったはずが(写真はイメージ)

2008年、渋谷109前の路上で福袋の商品の交換を求める女性たち(時事通信フォト)

2008年「渋谷109」新年初売り。一番乗りの女性3人組は元日の朝10時から並び、ビル側は午前11時の開店予定を7時半に繰り上げた。午後1時までに4万人が訪れた(時事通信フォト)

 正月の初売りで売り出される福袋といえば、早くから行列をつくって購入を楽しみにするお客さんのために、ショップ側も全力で準備し、完売を目指して販促活動を行うのが常だった。ところが、最近では福袋を中止するショップやブランドが出現している。一部のインフルエンサーがSNSで「#鬱袋」として拡散することも理由の一つだという。インフルエンサー対策に悩むアパレルショップの苦悩を、ライターの森鷹久氏がレポートする。

【写真】かつて大混雑した「渋谷109」初売り

 * * *
「今年は名指しでディスられなくてホッとしてます…」

 都内や近郊のファッションビルに入るアパレル店運営会社の取締役・須藤梨乃さん(30才・仮名)は、クリスマスセールから年末セール、年明けの初売りという怒涛の二週間を経て、やっと休暇が取れた。しかし、束の間の休息を取れたことよりも「ディスら」れなかったことの方に安堵している、というのである。どう言うことか。

「これまで毎年、うちの店の福袋がネット上で“鬱袋”と酷評されていたのです。ネットの話だろう? と、最初は社長も会社のオーナーも鼻で笑っていました、私も一緒に。ネットの怖さは翌年、翌々年と痛いほどよくわかりました……」(須藤さん)

 須藤さんの会社が運営するブランドとショップでは20年ほど前から毎年正月の初売りに合わせて「福袋」を用意しており、この10年ほどは、ネットショッピングサイトでもブランド毎の福袋を販売するようになった。筆者がかつて女性ファッション雑誌の編集者だった頃に有名だったのは、ギャルの聖地と言われる「渋谷109」の初売りである。前夜から女性客たちが行列を作り、人気ショップの福袋に殺到する。福袋を購入した客は、109周辺の路上で福袋に入っていた“不要なもの”を他の客と物々交換し始めるのだ。購入者にとっては不要でも、他の人にとっては欲しかったものであることが少なくないからだ。

 もっとも、そのなかでも人気や不人気は存在するので、初売り当日の109周辺の路上では「あのショップの福袋が当たり」「あそこのブランドの福袋は買わない方が良い」と客同士による情報交換もされていた。まさにそれが、今ではネット上で行われるのである。

「正直に言えば、昔の福袋は"売れ残り品"が多かったのも事実です。中には、福袋用に安価なアイテムを作りブランドに卸す業者さえいました。でも今はネットですぐバレてしまいます。ネット上には毎年、福袋を買ってすぐに中身を晒す、というような動きがあり、中身がよければお得な福袋として、中身がひどければ“鬱袋”として、そのブランドやショップが笑い者になるのです。ひどい品が入っている、と名指しで糾弾された年、翌日以降のネットショップでの福袋の売り上げが30%落ちたこともあります」(須藤さん)

 ネットウォッチャーの山本マユさん(二十代)は当初、お得な福袋選びの情報収拾のために、ネット上の「福袋、鬱袋」に関する掲示板やブログ記事を読み漁っていた。だが、いつの間にか手段と目的が変わってしまったと笑う。

「毎年中身がひどい雑貨店の福袋などは、買って中身をアップするだけで拡散されるので、ブロガーやユーチューバーにも人気です。商品の安っぽさをディスって笑ったり、福袋に入っていたひどいアイテムを使ったコーディネートを晒してみたり、用途はいろいろです。私も毎年、2~3千円の福袋を買いますが、もはや中にどんなお得なものが入っているか、と言うよりは、ひどいものを期待している気がします」(山本さん)

 売れ残りを集めて「福袋」と称して販売するのは、客から見れば「誠実な売り手」とは言えないかもしれない。ただ、以前に比べれば、前述のことなどから売り手の誠実さは可視化されただろうし、販売店側も相当な苦労をしている。にも関わらず、もはや福袋は「ネタ」であり、福袋を買うのは「情弱(情報弱者)だ」という空気が蔓延っていることに、須藤さんは頭を悩ませる。

「昨年だったか、店頭では9千円で販売していたワンピースを5千円の福袋に入れて売りました。こちらとしては"当たり商品"のつもりだったのが、体の大きなお客様が着用した写真をネットにアップされたようで"ゴミのような商品だ"と晒されていました。そのワンピースのパタンナー、デザイナーは泣いていましたし、実は翌シーズンも同じようなものを販売する予定だったのですが中止しました。お客様に喜んでもらえるように、どこに出しても恥ずかしくない中身だと自信を持って売っているし、この数年はほとんど赤字。それでもこうなってしまうのは悲しいです」(須藤さん)

 別のアパレル関係者は、こうした現状を憂い、今年から福袋の販売をやめた。

「何をやってもクレームしかこない。ネット文化が発達して、我々は売りやすくなりました。しかし、何をやっても怒られる、笑われるようにもなりました。客は何を言っても良いという雰囲気が、ネットのおかげで強くなった気さえします。昨年まで福袋の販売をしていましたが、苦労して作っても利益はないし、誰か一人でも、声の大きいユーザーにうちの福袋が"鬱袋だ"と言われたら、とんでもないダメージなのです。だからやめました」(都内のアパレル店経営者)

 今年もネット上をのぞいてみれば「福袋、鬱袋」といって、バイラルサイトや個人サイト、掲示板に情報がまとめられている。ほとんどは「鬱袋」っぷりを晒し笑うものばかりで「徳だった」と言う情報は少ない。苦労して福袋を作り販売している側のことを思えば、少し残酷な気もするが、いつかは善良な売り手のまごころが、ネットユーザーにも理解される日がくる、と信じたい。

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