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特集
農林水産業のミライ
野菜や魚の生産・供給、森林の活用・保全など国民の生活を支える「第一次産業」。しかし、現場では深刻な人手不足や従事者の高齢化によって、これまで通りの生産維持が危ぶまれる地域も生まれています。そんな窮地を救うべく、発展目覚ましいテクノロジーの導入や、ブレイクスルーを目指す人々の取り組みを紹介します。

コメが余っているのにコンビニやフードチェーンは不足で悲鳴?業界の矛盾の実態と農家の生き残り戦略

  • 2020年01月17日 07:04
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日本人のコメ離れが言われて久しいが、実はそのコメが不足しているーー。今、そんな矛盾するような異変が起きている。近年、全国各地で新たなブランド米が相次いで誕生するなど、活気づいているように見えるコメ業界。どうやら、実態はそうでもないらしい。口にする量が減ったとはいえ、多くの日本人にとって主食のコメの世界で、一体何が起きているのだろうか。

写真AC

コメ需要は毎年8〜10万トン減少。農家は2030年に約10分の1に?

「今、コメ不足なんですよ。コメの生産量がどんどん減っていて、外食チェーンや弁当、給食業者は『コメが足りない』と騒いでるんです」。こう話すのは、農業やコメの流通事情などに詳しい宮城大学の大泉一貫・名誉教授だ。

コメの生産量の減少は、国の統計でも明らかになっている。農林水産省の調査によると、主食用米の生産量は2008〜2017年の10年間で、年平均13.7万トン減少している(下記グラフ参照)。同様に農水省が算出しているコメの需要量についても、過去10年間の推移を見ると毎年8〜10万トンずつ減少。1人当たりの年間消費量も1962年の118キロをピークに減り続け、2016年には半分以下の54キロにまで落ち込んでいる。消費者のコメ離れが加速しており、さらにそれを上回る勢いで生産量も大きく減っているのだ。

提供:大泉教授

さらにもう1つ、驚くべきデータがある。コメ農家の数だ。下記グラフにあるように、2015年に95万戸超いた農家は、「統計的に最も当てはまる可能性が高い」(大泉教授)という線形近似の線を辿ると、2020年に65万戸を下回り、2030年には10万戸近くになるというのだ。いくらコメを食べる消費者が減ったとはいえ、このままのペースで農家が減った先にどんなことが起こるのか。不安に感じる人も少なくないのではないだろうか。

提供:大泉教授

一体、コメを巡って今何が起きているのだろうか。

ブランド米は小さな市場の奪い合い。取り残された業務用米が不足

「みやぎ米の夢をかなえた、これぞ天下をとる旨さ」。宮城県が昨年10月に販売を開始した新たなブランド米「だて正夢」。人気お笑いコンビ・サンドウィッチマンを起用したTVCMや、パナソニックの炊飯器とコラボした販促を行うなど、県を挙げて大々的にPRしている。

近年、各地でこうしたブランド米が相次いで誕生している。どれも味や食感、香りなどにこだわり、品種改良を重ねた個性的なコメだ。日本穀物検定協会が発表している「2018年産米の食味ランキング」で、最高評価の「特A」に選ばれたブランド米の数も過去最多の55(前年比12増)に上る。

では、なぜブランド米が次々と誕生しているのか。背景の1つにあるのが、2018年の減反政策(コメが余って価格が低下しないように、国が生産量を制限する政策)の廃止だ。産地や農家間の競争が活発になり、差別化を図ろうと独自のブランド米が各地で販売されるようになった。大泉教授はブランド米について、「コメの消費量が減る中、各自治体が威信をかけて高い価格帯で売り出すのが主流で、地域おこしや農家の所得向上につなげたい狙いがある」と説明する。

大泉教授によると、現在のようなブランド米競争が動き出したのは2000年代に入ってから。成功例の1つに挙げられるのが、2010年にデビューした山形県産の「つや姫」だ。以降、作付面積を順調に増やし、年間を通して全国で販売している。大泉教授が構想段階から主導的な役割を果たしたブランド米でもあり、販売後は「県民のプライドになり、観光のアピールにもなっている」と一定の成果があるようだ。

山形「つや姫」「雪若丸」ブランド化戦略推進本部

「つや姫」が販売された2010年以降だけでも、青森県の「青天の霹靂」や岩手県の「金色(こんじき)の風」、富山県の「富富富(ふふふ)」、高知県の「よさ恋美人」、鳥取県の「プリンセスかおり」など、次々と新たなブランド米が登場。さらに、各ブランドともTVCMや都心の百貨店でのPRなどに熱心に取り組み、産地間のプロモーション合戦も過熱している。

山形「つや姫」「雪若丸」ブランド化戦略推進本部

こうした動きを見ると、ブランド米市場は盛り上がっているように映るが、実態はどうなのか。大泉教授は「うまくいっているケースは少ない」と話す。実際に農家の所得向上につながっている例は少なく、「今は自治体の財政バブルで盛り上がっている状態」とブームは長続きしないとの考えだ。

それもそのはず。大泉教授によると、こうしたブランド米の価格は5キロで2500円前後と通常の商品と比べて高く設定されている。高価格帯のコメの市場は小さく、そこで各地のブランドが互いにパイを奪い合っている状況なのだ。通常なら参入が増えれば価格競争が起こりそうだが、どうもコメはそうもいかないらしい。

減反政策が廃止された後も、地方自治体などが実質的な生産調整を行っていたり、飼料用米への転作に補助金を支給するなどして供給量を抑えているため、価格が下がりづらいという。コメの生産量そのものが減少している中で、高価格帯の小さな市場へのアクセスが集中している影響で、比較的安価な価格帯のコメ、つまり外食や中食で使われる業務用米が不足する状況が生まれているというのだ。

では、外食や中食業界はどうしているのか。大泉教授が「米価が高いと、輸入が増える傾向にある」と指摘するように、業務用米にはアメリカなどから輸入されたコメが使われるケースが増えているという。

このままブランド米競争が激化していけば、産地も農家も疲弊しかねないうえに、米不足も解消できない状態が続いてしまうーー。農家はどんな策を打てばいいのだろうか。

農村に根付く米価至上主義。狙うべきはブルーオーシャン

「外食などで使う業務用米はブルーオーシャン、家庭用やブランド米はレッドオーシャンなんです。もしコメをつくって経営を成り立たせるなら、伸びる市場の業務用米にアクセスしたほうがいい」。大泉教授は、そう提言する。

今、業務用米の市場はどんどん伸びているという。下記のグラフが示すように、現状はまだ家庭用米が消費量、供給量ともに多くを占めているが、需要量を見ると業務用米が供給不足に陥っていることがわかる。すでに業務用米の需要量は250万トンと4割に上り、今後そのニーズはさらに拡大していくことが予想される。大泉教授は、「そこに農家もアクセスすればいいのに、縮まっている高価格帯のブランド米市場にアクセスが集中している」と話す。

提供:大泉教授

それにしても、なぜ農家はブルーオーシャンである業務用米市場に飛び込もうとしないのか。それには、「米価至上主義」が影響していると大泉教授は指摘する。

「価格が低い業務用米で生計を立てるには、収量を増やさないといけません。ところが、長らく続いた減反政策の影響で、農家には収量を増やす技術が乏しいうえ、価格を下げて安いコメをつくることへの抵抗感が強い。収量を増やすことではなく、米価を上げることが農村の常識になってるんです。だから、みんな(業務用米市場に)なかなか行きたがらない」

それでも、業務用米の市場に成長性を見出そうとする動きも活発になりつつある。例えば、琵琶湖のほとりにあるフクハラファーム(滋賀県彦根市)。農薬と化学肥料を使わないアイガモ農法でコメをつくる同ファームは、家庭用だけでなく小売店や食品業者との契約栽培にも熱心で、作付面積をどんどん増やしているという。新潟県上越市の穂海農耕も、2005年の設立から10年で経営面積が100ヘクタールを超え、2019年には約150ヘクタールにまで拡大。大手卸とタッグを組んで、業務用米の販路を広げているそうだ。

琵琶湖のほとりに広がる「フクハラファーム」の畑。作付面積をどんどん増やしているという(提供:フクハラファーム)

産地発の動きだけでなく、企業が新たな品種開発などに乗り出す動きもある。三井化学アグロが開発した品種「みつひかり」は、他の一般的な品種と比べて収量を増やしやすい特徴があり、業務用米として好評で各地で栽培エリアが広がっている。住友化学も拡大する業務用米市場をにらみ、農薬・肥料の提供から栽培管理、販売などを一貫して支援する事業を進めている。

これらに共通するキーワードは、「フードチェーン農業」(大泉教授)だ。これは、農家が卸などの流通や小売と連携して、生産・販売を伸ばす農業経営のあり方だ。大泉教授は、「農家だけでは収量も販売もなかなか増やしづらいが、卸や小売、外食業者などと組んで、フードチェーン全体で商売をすれば、農家の産出額も増えていくだろう」とし、こうした体制をつくって業務用米市場に攻め込む必要性を説く。

海外輸出も「グローバルフードチェーン」が鍵を握る

コメ農家の生き残りの策としては、海外への輸出も一手だろう。政府も、コメをはじめとする農産物の輸出を成長戦略の一環に掲げている。

ただ、その壁は厚い。大泉教授によると、世界の市場から見た日本のコメは「ほとんどマイナー」。農水省の調査では、世界のコメの生産量に占めるジャポニカ米の割合は2割に満たない。近年は輸出実績が増えているものの、世界全体の流通量からするとまだ僅かなのが実態だ。

世界のコメの生産量のうち、約8割を占めるのがインディカ米だ。粘り気が少なく、炊き上がりもパラパラとしているなどジャポニカ米とは異なる特徴をもつ。そのため、インディカ米の味に慣れている国や地域に、単にジャポニカ米を売り込んでも難しいというのが大泉教授の見立てだ。

そこで鍵を握るのが、「グローバルフードチェーン」(大泉教授)だという。「日本食のレストランをつくり、食文化を定着させてから、そこにコメを供給するような仕組みを構築する必要がある」。昨年、「カレーハウスCoCo壱番屋」がインドに進出すると発表して話題となったが、そのように「パッケージでカルチャーを売る」(大泉教授)ような取り組みが必要だという。もちろんそれは、コメ農家だけで実現できるものではない。商社や外食などと組んで、文字通り「グローバルフードチェーン」を築いて攻勢をかける。大泉教授は、そうした戦略構築が欠かせないと話す。

「これから日本のコメ農家が生き残っていくための道。それは、基本はフードチェーンを築いて売れ筋の市場にアクセスすること。国内は業務用米、それと海外への輸出です。輸出に向けては、商社などと提携してグローバルフードチェーンをつくる。団体戦でやっていく必要があります」

苛烈を極めるブランド米競争。そして、その足元で起きている業務用米の不足。農家はそれにどう立ち向かうのか。そして、日々当たり前のようにコメを口にしている私たち消費者は、この状況に無自覚であっていいのか。小さな1粒のコメの向こう側に広がる世界に、思いを巡らせたい。

(文・近藤快)

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応募受付期間

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・当選者発表後の流れ/当選者様にはBLOGOS編集部から1月24日(金)中に、Twitterのダイレクトメッセージでご連絡させていただきます。2020年1月27日(月)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。

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