記事

民進党に「塩を送った」習近平の失敗、台湾総統選でさらに虚構化する中国の台湾政策 - 野嶋 剛 (ジャーナリスト)

1/2

[画像をブログで見る]

中国の台湾政策において、大きな挫折だと言っていい。

1月11日の台湾総統選で、蔡英文総統は817万票を集め、再選を果たした。立法委員選でも、民進党は過半数を上回る61議席を獲得。2018年の統一地方選挙で大敗を喫した民進党は大逆転といえる立ち直りを見せ、中国から軍事、経済、外交で圧力を受け続けたなかでの勝利となった。中国が隠に陽にサポートしていた国民党は、公認候補となった韓國瑜・高雄市長が統一地方選挙で起こした「韓流ブーム」の再現はならず、目指していた4年ぶりの政権復帰の夢は、泡と消えた。

印象的だったのが中国側のコメントであった。1月10日の深夜、国務院台湾事務弁公室は談話を発表した。そのとき、私は台湾のテレビ討論番組に出演していた。司会者がすぐに内容を読み上げた。

「我々の台湾に対する大方針は明確で、一貫している。『平和的統一、一国二制度』の基本方針を堅持し、一つの中国原則を堅持し、国家主権と領土完全を堅く守り抜き、いかなる形式での『台湾独立』分裂行為の策謀と道筋に堅く反対し、台湾同胞の利益と福祉を堅く増進する」

スタジオに失笑が広がった。「何も言っていないに等しい」と誰かが言って、全員がうなずき、そして議論はまた台湾の選挙に戻って行った。本当ならそこから中国の台湾政策に関する議論に広がっていってもおかしくない。無視したというのではなく、「何も言っていないに等しい」ことに何か口を挟むのも変だな、という雰囲気があった。

その後、12日に中国国営通信の新華社がこのような評論を掲載した。

「台湾地区は西側の民主選挙を行なった。もし優れた執政で選挙に勝ったなら言うことはないが、蔡英文と民進党の政治に良いところが乏しく、政策は乱れ、社会の分裂を招き、民主は苦しく、民主は後退し、論争を招き、民の不満は止まない。社会の批判の焦点をずらすため、執政のリソースを恣意的に使い、党・政・軍のシステムを全力で活用して票を集めた。

蔡英文の選挙手法は秘密でもなんでもなく、選挙の過程で台湾内の世論か疑問を呈されていた。第1に資金のばら撒き。数千億台湾ドルの政策で票を買った。第2に手段を選ばず相手を攻める。ネットアーミーを作って偽情報を広げ、ネガティブキャンペーンを展開した。第3に大陸脅威論を広げ、大陸敵視を扇動し、民衆を脅した。

これは明らかに正常の選挙ではないことは台湾の有識者とメディアの述べているとおりだ。蔡英文と民進党は嘘と圧政と恐怖などの手法で選挙票を集め、自分勝手で貪欲で邪悪な本性をあらわにした」(野嶋訳)

内容の是非はともかく、ここから明らかなことは、台湾政策について、中国は自ら作り上げた虚構の世界に入ろうとしていることだ。自分たちは正しい道を歩んでいる。しかし、彼らは間違った道を歩んでいる。いつか、正しい道に戻ってくるはずだ、と。そのため、今回のように台湾において「正しい道」以外の結果が出た時、それを台湾の現実社会とは関係のない虚構のロジックで否定するのである。

香港と同じ「虚構」を押し通す習近平

香港について、思い起こしてみれば、まったく同じことが起きたのが2019年だった。半年間にわたる激しい抗議行動。香港人の血が流れ、涙も流れ、香港経済も一国二制度の信用も傷ついた。その香港で陣頭指揮を撮っていたキャリー・ラム行政長官が中国を訪れた時、習近平・国家主席は「高度な信頼を寄せている」と讃えて見せた。

香港人はこの光景がテレビで流れた時、中国は香港において「一国二制度はうまく行っている」という虚構を作り上げていることを思い知った。虚構であると中国人も解っていたとしても、習近平氏の周囲で「それは違います」と誰も言わなければ、少なくとも中国国内という閉ざされた空間では一つの現実として受け入れられるのである。だが、そうすることによって、中国と台湾や香港との間の現実における距離は、埋まることはなくなる。今回の台湾選挙でも、さらに中国と台湾の距離は広がった。

もちろん中国は今後も対策を、経済、軍事、外交のあらゆる面で、講じてくるであろう。経済的には、台湾への締め付けを強める可能性がある。中国人観光客の台湾訪問は蔡英文政権発足前と比べると、すでに人数は半数に近づいているが、ますますその人数を絞られてくるだろう。軍事的には、昨年12月に国産空母「山東」が台湾海峡を通過したが、それ以上の威嚇行為をとってくることもあるだろう。

外交的にも、台湾の友好国をさらに断交へと切り崩してくる可能性がある。今年4月に習近平・国家主席が訪日するとき、日本に対して、台湾問題で何らかの妥協や発言を求めてくる可能性もある。中国は、自らの実力に自身を持っており、いつか台湾が自分たちに折れてなびいてくるはずだ、という風に考えているので、圧力さえかけ続けていれば時間の問題という認識で一貫している。

だが、台湾の総統選は、1996年に始まり、今年で7回目を迎える。そのうち、中国が望まない候補の当選は、1996年の李登輝、2000年と2004年の陳水扁、そして2016年の蔡英文と、4回を数えている。そのつど、中国の圧力の強化や武力介入を心配する声も上がったが、民主化と本土化に進んでいる台湾の現状を変えることはできなかった。

中国よりもはるかに小さな台湾は、世界の超大国の圧力に負けず、民主選挙で自らのリーダーを選び続けている。それはつまり、中国の台湾政策が20年以上にわたって成功していない、ということを意味しているのだが、そのことは虚構のペンキで塗り込まれて見えないようになっているのだ。

あわせて読みたい

「台湾総統選」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    小池氏2選で怒り 自民は何してた

    やまもといちろう

  2. 2

    738票届かず 小野氏は供託金没収

    鈴木宗男

  3. 3

    日本は悪くないと 韓国の反日観

    文春オンライン

  4. 4

    野党に振り回された宇都宮健児氏

    田中龍作

  5. 5

    貧乏国・日本 全員停滞で幸せか

    fujipon

  6. 6

    休むと3万円 ホテル支配人の実態

    紙屋高雪

  7. 7

    小池知事が当確 朝日朝刊に苦言

    常見陽平

  8. 8

    都知事選 落選者らの敗因を分析

    ヒロ

  9. 9

    レジ袋未精算で人生棒に振る人も

    佐々木康彦 / ITmedia オルタナティブ・ブログ

  10. 10

    小池氏の変節 五輪支持派が危惧

    WEDGE Infinity

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。