記事

「プラットフォームビジネス」構造転換の足音。

いわゆるサービスプラットフォーム型ビジネスを支えてきた「個人事業主」たちを「労働者」として保護しよう、という動きが、昨年くらいから全世界で劇的に広がってきているのだが、年明け早々、本場US西海岸から、ビジネスモデルそのものに影響を与えかねないようなニュースが飛び込んできた。

「米ウーバーテクノロジーズは8日、米カリフォルニア州で一部のライドシェアサービスについて料金の前払い制を廃止すると明らかにした。今後は実際の移動距離やかかった時間に基づいて降車時に価格を決定する。ネットを通じて単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」らを保護する州法が1日に施行したのに伴う措置としており、規制の影響が表れ始めた。」
(日本経済新聞2020年1月10日付朝刊・第12面、強調筆者、以下同じ。)

以前にもどこかのエントリーで書いたかもしれないが、他の配車アプリと比べた時のUberのメリットは、「予約時に価格が固定されている」という点にあった。

もちろん、どのアプリでも予約する時点で「おおよその料金」は提示されるから、日本で流しのタクシーを捕まえた時のように、降車時に「えー」と叫びたくなるような経験はしなくて済むのだが、ドライバーの側に「幅」の下限に近づけるインセンティブがない以上、Grabなどでは結果的には上限に近い料金になることも多く、そこがちょっと嫌な気分になるポイントでもあった。

だから、最初の料金できっちり確定。あとは乗って目的地に届けてもらうだけ、というUberのシステムは、非常に快適だったのだが・・・。

記事によると、

「ウーバーは自社のサービスを担う運転手について、AB5の下でも従業員には当たらないと主張。前払い制を廃止して運転手らに対する報酬額の透明性を高めるとともに、どの業務を請け負うかを運転手が選びやすくすることで、彼らが独立した事業主であることを訴える狙いとみられる。」(同上)

ということ。

「ギグワーカー」の問題は、生活にも時間にも余裕があって”ボランティア”や”小遣い稼ぎ”で仕事をできる人たちだけが「担い手」だった時代ならともかく、サービスが普及・定着し、それを生活の糧とする層が増えれば増えるほど顕在化することは分かっていた話だから*1、法律までできてしまった以上、何らかの対応をしないといけない、というのは分かる。

だが、その対応の方向性がこれか、と思うと、何とも言えない気持ちになるわけで・・・。

これまでのサービスのメリットを維持しつつ、イレギュラーな事態により、ドライバーが実際に要した時間・労力と実際の報酬との間に生じたギャップを埋め合わせる、というのであれば、固定料金制は維持したまま、Uber側でドライバーに差額補填する方式を採用するのが筋だろう。

もしかしたら、カリフォルニア州の新法が「実績に応じた報酬の精算」を労働者性を肯定する一要素として挙げているがゆえに、Uberとしてはあえて硬直的な方向にサービスを”改悪”せざるを得なくなったのかもしれないが*2、そうだとしたらもはやサービスプラットフォーマーとしての責任の放棄に等しく、ユーザーとしては到底許容しがたい話になる*3

今の契約慣行のままでは「ギグワーカー」を現状の形では維持できない、という話になった時に、法の趣旨に沿って契約ドライバーを「労働者」化するか、それとも引き続き「請負個人事業主」と認められるような建付けにビジネスを変えるか、は、良い悪いという話ではなく、あくまでそれぞれの会社が経営判断として選べる話ではある。

「労働者」として扱う方向に舵を切った場合に、別の規制(いわゆる各国のタクシー業法に係る規制)にもストレートにぶつかる可能性がある(そして、アプリを通じた移動手段提供、というサービスの根幹が崩れる可能性がある)ことを考えると、事業者サイドが前者より後者を選ぶ方が合理的と考えるのは決して不思議なことではない。

ただ、それはあくまで、「規制当局との関係」だけを考えた場合の話で、「自らのブランドの下で実質的にサービスを提供する」事業者として行うべき対応と、「規制当局向けの対応」とでは意識すべき方向性が全く異なる、ということは看過できない問題であるように思われる。

日本でも、いろんなサービスの世界に「IT系プラットフォーム」型の事業者が登場して、この10年、20年の間に、それなりのインパクトを残してきたし、新しい時代の画期的なビジネスモデルとして、もてはやす人も多かった(もちろん、今でもいる)。

それらの事業者のスタンスは、多少程度の差はあれど、自分たちはあくまで「プラットフォーム」に過ぎず、その上で提供されるサービスに関する責任は、やり取りする当事者間で完結する or プラットフォーム上でサービスを提供している個々の事業者が負う、というものだったから、 ”お客さま対応の厳しさ”をいやというほど味合わされてきた旧来のサービス業にいた者から見て、「こんな顧客対応でよく会社としてやっていけるな」と思わされることもたびたび。

それでも、最後は”これがグローバルスタンダードだから”的な論調で、ユーザー側が何となく押し切られ、何となく受け入れてきてしまった、というのが、これまでの実情だったように思う。

でも、プラットフォーマーを対象とした競争法、労働者保護法、著作権法といった国際的なルール強化の流れの中で、そんな事業者たちが依拠してきた”本場”のビジネスモデルが揺らぎ始めている現実がある中で、それまでと同じ発想で、ビジネススキームに固執することが合理的な選択なのかどうか、ということは、今後厳しく問われることになるような気がする*4

一度成功したビジネスモデルほど発想を切り替えるのは難しいと言われているし、それは100年、200年続いた商売だけでなく、この十数年の間に広まった商売にも共通する問題だと思う*5。そしてだからこそ、契約スキームをコントロールする部門が、もっとも柔軟な発想で目の前の課題に対処し、そこから得られた知見を活かして、最後の「山を動かす」ところにまで口を挟んでいく必要があるように思うのである*6

*1:もちろん、一部の新興国では、それでもお金がもらえるだけましという人々がそれなりにいるので、成り立っていたところはあるのだろうが、それでも何年も続けていれば当初想定していなかったアクシデントに直面することもあるし、サービスの要求水準が引き上げられたり、報酬条件が切り下げられたりすれば、当然不満は爆発する。個人的には「ギグワーク」のような形態が成り立つのは、コンサルタントとか士業のような報酬単価が高い層の仕事だけだと思っていて、報酬単価が安い単純労働型の仕事をこのスタイルで請け負わせ続けるのは、”ボランティア”レベルのニッチサービスを除けばほぼ不可能だと考えている。

*2:もしそうだとすれば、”偽装請負”をめぐる日本の労働法制の問題とも共通するトピックになりそうである。

*3:「ドライバーがどの仕事を請け負うか選びやすくする」という点についても、この方向へ舵を切れば切るほどユーザーにとっての利便性は損なわれるわけで、サービス的観点からは到底合理的な方向性とはいえない。

*4:伝統的な法務的発想でいえば、「自分たちがリスクを負わない」というビジネススキームで契約を組み立てている以上、プラットフォーム上で生じたトラブルとか、ユーザーor「担い手」が直面した損害等についても、自らは免責されるという前提で行動するのが一貫した対応、ということになるし、そこで「一切の例外を認めない」というのが正しいルールの運用、ということになるのだが、サービスの規模が大きく拡大して社会的なインパクトも大きくなってきたときに、頑迷固陋にその建前に固執するのが合理的なのかどうか。Uberの問題にしても、これだけ燎原の炎のように世界各国のドライバーからの声が燃え上がって”社会問題”化する前に、うまく対処する方法はあったのではないか、と思わずにはいられない。

*5:コンビニのフランチャイズモデルなども、まさに過去の成功体験にはまって泥沼に落ち込んでいる典型事例のようになってしまっている。日本に登場してから、たかだか50年くらいのスキームに過ぎないのに。

*6:特に、これから「量」だけで稼ぎを生み出すのがますます難しくなってくるこの日本では、自社提供のプラットフォームのブランドが周知されたところで、主体的な「サービス提供事業者」へとポジションを変える、という転換は十分あり得ると自分は思っている。近年、フランチャイズ展開で勢力を拡大していた事業者が「直営店」主体のビジネスモデルに切り替えるケースが目立つのと同じで。そして、新しいビジネススキームを生み出すことも、生み出された新しいビジネススキームを、その価値を維持したまま永続可能な従来型のビジネスに組み戻すことも、同じくらい価値があることだと自分は思っている。

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