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ファストファッションの裏側に虐待まがいの労働環境ー衣料の生産拠点がアジアから東欧の旧共産圏へ移行しつつある現状

ファストファッションは多くの人の犠牲の上に成り立っていることを、どのくらいの人が意識しているだろうか。近年、アパレル産業の生産拠点がアジアから東欧の旧共産圏に移す動きが起きていることを受け、セルビアのストリート誌『Liceulice』がその実態を取材した。アパレル業界の世界的労働組合「Clean Clothes Campaign(以下、CCC)」のセルビア支部、ボヤナ・タミンジヤとステファン・アレクシッチに話を聞いた。

*1989年にオランダで設立されたアパレル業界における世界的な非政府系労働組合。世界の250以上の団体と連携し、労働環境改善を働きかけている。
https://cleanclothes.org



ー 近年、アパレル産業の生産拠点がアジアから東欧の旧共産圏に移す動きが強まっています。セルビアではどういった影響が見られますか?

大手スポーツ用品ブランドの生産が旧ユーゴスラビアで行われていたなど東欧における生産は今に始まったことではありませんが、共産主義体制の瓦解で当地域の経済が崩壊してからは、東欧の位置づけは大きく変わりました。

大半のアパレルブランドは「できるだけ生産コストを下げる」ことに余念がなく、セルビアをはじめとする東欧諸国がその要求を甘んじて受け入れてしまっているのが現状です。

Okan CaliskanによるPixabayからの画像

法的な最低賃金はここ何十年も不当なまでに低く、雇用にまつわる権利は雇用側に都合のよいものばかり。外国企業には(事業展開しやすいよう)助成金が与えられ、税金も低く抑えられている。

さらに、輸送コストとスピードも大手ブランドにとっては大きな魅力です。西欧諸国まで商品を運搬するのにアジアからだと数か月かかるところ、東欧からだと1~2日で済みますから。コストが安くつき、シーズンごとの新作発表にも間に合わせやすいのです。

ー 労働組合「Clean Clothes Campaign」ではどういった取り組みを行っているのですか?

私たちの取り組みを理解するには、まず昨今のアパレル業界が置かれている状況をグローバルな視点で知る必要があります。

消費者からすると、有名ブランドは毎シーズン新商品を発売し、その広告を目にしています。その一方で、世界中の工場では、何百万人の労働者がなけなしの低賃金で、華やかさとはほど遠い環境で服や靴を作っている。

PexelsによるPixabayからの画像

アパレル産業というのは世界的なサプライチェーン*によって成り立っており、セルビアはじめ安い労働力を提供する国々もこのネットワークに組み込まれています。しかし大手ブランドは工場と直接取り引きしているわけではないので、製造現場の状況に責任を負いません。そこでCCCは、その資金力にあかせて生産工程を牛耳っている大手ブランド企業に対して、サプライチェーンの透明性を高めること、すべての生産工程における労働環境に責任を負うことを要求しています。

*製品の原材料・部品の調達から、製造・在庫管理・配送・販売までの全体の一連の流れのこと。

労働者というのはそもそも、正当な労働条件の下で働き、労働組合を利用する権利がありますし、何よりも、稼いだお金でまっとうな生活を送る権利があるはずです。こうした基本権すらも求めていかなければならないことに、アパレル産業の製造現場がいかに厳しいものかを物語っています。CCCでは実地調査によって労働環境を明らかにし、ブランド企業に改善を求め、国内外の関係機関にも対策を講じるよう求めています。

ー セルビア国内の繊維産業における労働環境について大規模な調査を実施されたそうですね。労働者へのインタビューからどんなことが分かりましたか?

労働者が置かれている屈辱的な現状がよく分かりました。設備の安全性が低いこと、環境としても不十分で夏は暑く冬は寒い、生産性を上げろとプレッシャーをかけられ、虐待まがいのひどい扱いを受けている……どの工場も問題は似たりよったりでした。

残業や週末勤務も常態化しているのに、それに応じた賃金は支払われない。対する雇用側は「ノルマを達成していないから」と主張する。国際労働機関(ILO)は、このような労働形態を「強制労働」と定義しており、CCCからもそのような条件を受け入れてはならないと労働者たちに繰り返し伝えています。

査察が入ったときに女性労働者を建物内の一室に隠した事例、夏の暑い日に労働者たちが意識を失いかけていても救急車を呼んではいけないとするなど、犯罪の域に達するようなケースもありました。その会社は一応は「何らかの医療措置を施した」とのことでなんとかイメージダウンを免れたものの、決して適切な措置ではありませんでした。

ー 労働者が実際にもらっている賃金と「まともな生活」に必要とされる金額にはどれくらいのギャップがありますか?

かなりのものです。労働者の大半は女性で、その所得は最低賃金をはるかに下回り、まともな生活を営める額には遠く及びません。休暇もありませんし、食費などもかなり切り詰め、農場の仕事などと掛け持ちする人たちも多くいます。

gianfrancofalconeによるPixabayからの画像

そういった諸々の事情を踏まえて、法定最低賃金で働いている人たちは「まともな生活」を最低限営むのも本当に大変なんです。法定最低賃金にも満たないケースが多いアパレル業界では、状況はもっとひどいものでしょう。

ー 労働組合が組織されることの影響をどう見ていますか?

セルビアの繊維産業には約1800の工場が登録されていますが、労働組合があるのは50工場ほど。工場レベルできちんと労働契約が結ばれているのも5工場しかありません。労働者たちが声を上げることを恐れている、これは国と企業にとっては何とも都合がよく、外国企業が安い労働者を食い物にして巨大な富を生み出せる「肥沃な土地」になってしまっています。政府がいう「外国直接投資」とは実のところ、労働力の搾取であり、国内経済を痛めつけているのです。

Hans BraxmeierによるPixabayからの画像

ー 雇用側への圧力、労働者の支援はどれくらい可能なものでしょうか?

現状は雇用主に圧力をかけられる状態になどなく、労働者が本来持っているはずの力や権利を行使できていないことが問題です。「組合をつくる」という労働者の最大の武器を、雇用側が封じ込めているケースが多いのです。さらに言うと、「労働組合」という言葉自体が禁句になっているのです。

労働者が結束し、組合をつくり、自分たちの権利を守れるようになれば、状況は変わっていくでしょう。賃金が支払われない残業や週末出勤もなくしていけるはずです。CCCでは、組合を作るということが当たり前になるまで、大手ブランドが牛耳っている労働者たちを支援していくつもりです。緊急支援の仕組みを整備し、労働者が直面している問題を大手ブランド側に報告し、事態改善を求めていきます。

By Bojan Marjanovic
Translated from Serbian by Katya Ven-Vujetic
Courtesy of Liceulice / INSP.ngo

Photo: CCC/Yevgenia Belorusets

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