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アングル:揺らぐイラン指導部の正統性、旅客機撃墜に憤る国民


Parisa Hafezi Tuqa Khalid

[ドバイ 11日 ロイター] - ウクライナ旅客機が墜落したことへの対応に国内で怒りが広がり、イランのイスラム政権が正統性の危機に直面している。墜落はイランがミサイルを誤射したことが原因だったが、軍が撃墜を認めるまでに3日間を要した。

最も影響力のあったイラン革命防衛隊の司令官が米軍に殺害されて以降、イランでは国内に一体感が広がっていたものの、撃墜を巡って国内外で批判が強まる中、そうした機運は失われつつある。

8日に墜落したウクライナの旅客機を巡り、米国とカナダが早い段階でイランによるミサイルが原因と指摘すると、ソーシャルメディアではイラン指導部への批判があふれた。テヘラン発キエフ行きの旅客機に乗った176人は全員死亡した。

今の情勢は、2月に控えるイランの国会議員選挙に暗い影を落とす。選挙結果が政策を左右するわけではないが、イラン指導部は政権の正統性を主張するため、高い投票率を目指すのが常だ。

昨年11月の反政府デモで数百人が死亡してから、指導部は人々の不満の声を耳にしている。

「指導部にとってとても敏感な時期だ。深刻な信用問題に直面している」と、イラン政府の元高官は匿名でロイターに語った。「真実を隠しただけでなく、事態への対応を誤った」

1979年のイスラム革命以降、イランの政権は自らの権力への挑戦を退けてきた。しかし、11月の抗議活動で生まれた政権と国民の溝は深まっているようだ。

「政権の指導部にとって短期的な痛手となるだろう。米国との対立が今回高まる前から抱えていた政治的、経済的な問題による負担がさらに強まるだろう」と、米ブルッキングズ研究所のダニエル・バイマン上級研究員は指摘する。

<「独裁者に死を」>

ツイッターに投稿された動画は、抗議参加者がテヘランで11日、「独裁者に死を」と叫ぶ様子を映している。最高指導者ハメイニ師を指したものだ。ロイターは動画が伝える抗議の内容を確認できていない。

イランの国営通信社は抗議活動が起きたことを確認している。

革命防衛隊は撃墜に対する謝罪声明を出し、高い警戒態勢の中で防空システムが誤って撃ったと説明した。司令官殺害の報復にイラク領内の米軍拠点を攻撃したイランは、米国の反撃に備えていた。

ある強硬派の政権関係者は、今回の誤射を指導部と革命防衛隊に対する政治的な攻撃材料にしてはならないと話す。「厳しい態度を取るのは避けよう。繊細な時期でみんな神経質になっていた。革命以降、防衛隊がこの国家を守るためにやってきたこを忘れるべきではない」と、この治安関係者は言う。

しかし、選挙での高い投票率がイスラム支配の正統性を裏付けるとしてきたハメイニ師は、国民が政権をそれほど支持していないことを目の当たりするかもしれない。

「なぜ今の政権に投票しなくてはならないのか。彼らをまったく信用していない。飛行機墜落で嘘をついた」と、テヘランの大学生Hesham Ghanbariさん(27)は言う。「向こうが国民を信用せずに真実を言わないのに、こちらが彼らを信用するわけがない」

2018年に米国が核合意から抜けて以降、イランは厳しさを増す制裁の下、経済的に難しい状況にある。重要な収入源である石油輸出も減っている。

<支持層が抗議活動に>

「(撃墜の)悲劇が忘れられることはないし、国外からの制裁だけでなく、国内から圧力を受ける国民がこの悲劇を克服するのは簡単ではない」と、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のサナム・バキル上席研究員は言う。「今回の件は統治に大きな欠陥があるということを明らかにした」

8年間にわたったイラクとの戦争など、イランのイスラム政権は過去にもっと深刻な状況を乗り越えてきた。しかし、ガソリンの値上げを機に発生した11月のデモで真っ先に通りに出てきたのは、これまで政府の気前良い援助を享受してきた貧困層、下流層という、盤石な政権支持者たちだった。

抗議の声はすぐに政治的なものに変わり、彼らは指導部の退陣を要求。当局が厳しく取り締まった。

<「再び国民を殺した」>

事故だったかどうかに関わらず、軍部が旅客機を撃墜したことが明らかになったことは、イラン政権にとって新たな打撃だ。乗客の多くはイラン国籍も保有していた。

ソーシャルメディアはイランの人びとからの怒りの声であふれた。イラン政府が遺族をいたわるよりも、墜落の責任を否定することに時間を割いていたという内容のコメントが多くみられた。

「国民には衝撃だった。政権は再びぞんざいに国民を殺した」と、米外交問題評議会のシニアフェロー、レイ・タケイ氏は言う。「ソレイマニ司令官の殺害が国民を団結させたとする、もともと偽りだった物語が壊れた」

2月21日は、議会選挙と並行して専門家会議のメンバーも選ぶ。イスラム法学者で構成されるこの機関は、80歳になるハメイニ師の後継者をいずれ選出する任を負う。

ハメイニ師に任期はなく、イラン・イスラム共和国を樹立したホメオニ師が1989年に死去して以降、最高指導者の地位にいる。

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