記事

五輪で増える訪日外国人が戸惑わない〝おもてなし〟とは 在米40年のライターが見た日本独特の社会習慣 - 田村明子 (ジャーナリスト)

2020年も明け、いよいよ夏には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。アメリカに移住して40年以上になる筆者は、12月に2週間ほど一時帰国した。その滞在中、オリンピックを機会に日本を初めて訪れる外国人がどのようなところで戸惑うのか、改めて外国人の視点から考えてみた。


(Andrea Chu / gettyimages)

小料理屋での不明瞭会計

第一に挙げたいのは、高級割烹などで出される請求書だ。ちょっと気取った小料理屋などに行くと、金額だけ書かれた小さな紙切れが請求書代わりに差し出される。でも国際社会のスタンダードとしては、この習慣はとても受け入れられないものだ。

逆の立場を想像していただきたい。

ヨーロッパの某国に観光した際に、ちょっと贅沢なディナーを食べたら300ユーロと手書きで書かれた小さな紙切れが、請求書代わりに差し出された。

前菜、メインディッシュ、ワインがそれぞれいくらでデザートとコーヒーがいくらだったのか、明細が全く書かれていない。端数がないのも、何だか怪しい。

それでも黙って言われるがままに、納得をして支払いをするだろうか?

旅慣れた、英語の日常会話くらいできる人ならば、「Can we have an itemized bill?」(明細書をもらえますか?)と聞くだろう。逆に聞かなくては舐められるし、日本人観光客などちょろいものだ、という印象を与えてしまう。

後に来る同胞の日本人たちのためにも、こういうことはきっちりやっていただきたい。面倒だから、自分たちだけが我慢をすればそれで良い、というものではないのだ。

コハダが一貫1500円?

日本の特に個人経営の小料理屋、高級寿司屋などでは紙切れどころか口頭で金額を伝えられることもある。そこであれこれ聞こうものなら、無粋なお客ということになってしまうので、黙って支払う。

実を言えば筆者も1年前の帰国時に、築地のある寿司屋に入って6000円のコースを頼んだ。グラスのビール一杯、こはだ、ゲソの二貫を追加したらお勘定が1万円になっていて、えっと思ったが黙って払った。後で落ち着いて考えたら、あのこはだとゲソは、一貫1500円以上だったことになる。

一見さんだと、足元を見られたのだろう。いくら海外生活が長い筆者でも、あそこで咄嗟に「明細書ください」とは言えなかった。そこまでの金額ではなかったとはいえ、未だに思い出すと苦い思いがこみ上げてくるし、もちろんあの店には二度と行かない。

外国人の観光客だって、そのほとんどは一見さんだ。でも飲食関係の方たちにお願いしたい。特に外国人の観光客に出す請求書は、相手が納得できるように明細をつけてあげてほしい。たとえ店側にとって妥当な価格を請求したつもりでも、相手は「やられた」「ぼられた」という気持ちで店を後にするのは、そこのビジネスにとっても長い目で見れば決してプラスになることではない。いまどきは、英語で評価を書き込むことだって可能なのだ。

お通しはどう見られるか

居酒屋で頼みもしないのについてくるお通しとそのチャージについては、すでに色々と話題になっているようだ。一人500円程度だから、法外なものではないけれど、後出しされるとやはり気分は良くないだろう。

どこかのライターさんが書いていたように、「一人〇〇円のテーブルチャージがつきます、その料金には小さな前菜が含まれます」というような英語の張り紙を出す、というのに大賛成だ。ご参考までに、英訳をつけておく。

We have a table charge of 〇〇 yen per person. Small appetizer is included in this charge.

イタリアではお店によっては、パン代と称して一人3ユーロほどのテーブルチャージがつけられることもある。だからきちんと事前に説明しておけば、不快なトラブルは避けられる。

テイクアウトに対する違いは

もう一つ、日本で外国人が困る習慣の違いは、お持ち帰り、テイクアウトだ。日本ではテイクアウェイとも言われるが、アメリカ英語ではテイクアウトのほうが一般的で、take-out あるいはtakeoutとつなげてスペルすることもある。

特にアメリカでは、レストランでお客が食べ切れなかったものを包んでもらって持って帰ることは、珍しくない。たくさん残してしまうと、相手のほうからWould you like to take it home?(お持ち帰りしますか?)と聞いてきて、アルミホイルなどの容器に入れて袋に包んでくれる。

余談だが、かつてはこうして残り物を包んでもらう習慣をDoggie Bag(持って帰って犬にあげる、という意だった)と呼んだけれど、今ではあまりこういう言い方は好まれない。(だいたい犬にはやたらと味の濃い人間の食べ物を与えてはいけない、という時代になった)It was so good. I don’t want to waste it.(美味しかったので無駄にしたくないです)と言えば、ニッコリ頷いて包んでくれる。

日本の飲食店では、食べ残しを包んではくれないお店がほとんどだ。持ち帰って食べることの衛生上の責任問題になるのだろう。

幸いなことに、と言うべきか。日本の一人前は海外の量に比べて少な目に設定されている。だからよほど体調不良でない限り、外国人にとって食べきれなかった、ということはないだろう。それでも食べ切れなかったので持って帰りたいというお客には、「Sorry, we don’t have takeout containers.(すみませんが、うちにはお持ち帰り用の容器の用意がないんです)」などと説明しなくてはならない。

お持ち帰りをやっていないのならば

もっと困るのは、日本のレストランの大多数はそもそもテイクアウトを請け負わないという現実である。

アメリカでは、ファストフードだけでなくほとんどのレストランでテイクアウトの選択をすることができる。注文時にテーブルにつかずに受付で「テイクアウトで」と言えば、スープ、サラダ、ステーキ、パスタなど何でも容器に入れて、さらに手提げ袋に入れて持たせてくれる。そんな国から来ると、日本では通常のレストランではテイクアウトができない、という事実をそもそも想像もしていないのだ。

築地にまだ魚市場があった当時、アメリカ人の友人を案内して入った海鮮丼の店で、若い外国人の男性が一人ぽつんと腰掛けていた。店員が「お待ち!」と丼をテーブルに出すと、男性は当惑したように「No, I ordered to take-out.」(テイクアウトでお願いしたんだけど)と言う。店員は「Yes, Yes」と答えながら奥に入ってしまった。

聞けば一緒に日本に来た友人が体調を崩し、ホテルで待っているという。

「こちらの方は、お持ち帰りでお願いしたそうですけれど」

筆者が奥にそう声をかけたら、驚いたことに先ほどYes, Yesと答えた店員が「うちは持ち帰りはやってないよ!」とつっけんどんに怒鳴った。

それなら一体何がYes, Yesだったのか。

こんな店で食べるのはやめよう、と友人と、ついでにその外国人男性と連れ立って外に出た。築地の場外の小さな寿司屋、海鮮丼屋で軒並み聞いてみたのだが、どこも似たような答え。テイクアウトはやっていないという。

ようやく見つけたテイクアウトを扱ってくれるお店は、「すしざんまい」だった。きちんと英語で対応できる店員さんが、彼の注文をとってくれたのを見届けて、我々も席に着いた。彼はようやくホテルで待っていた友人にお寿司を持ち帰ってあげることができただろう。たまたま筆者が居合わせなかったら、彼らはきっと日本に対して苦い思いを抱えて東京を後にすることになっただろう、と思う。

築地のような観光地の寿司屋のほとんどは、外国人観光客にビジネスを支えられているはずだ。ダメならダメで壁に「No Takeout」の注意書きくらい貼っておくのが、親切というものである。

タトゥーお断りの公衆浴場

最後に、これも何度も日本のマスコミで取り上げられてきた、銭湯、温泉での「刺青、タトゥーお断り」のルールである。

国や文化によっては、刺青がその民族のアイデンティティだったり、名誉の証になることもある。また今では若い女性の間でも、ファッションタトゥーがピアスと同じくらい一般に浸透している。

いったい日本社会はいつまで、刺青イコール暴力団関係者と一からげにして締め出していくつもりなのか。

筆者は個人的には刺青にもタトゥーにも全然興味がない。でも出入り禁止にするからには、1)他者に危害を加える危険がある。2)衛生上の問題がある。といったような、実害を伴った理由がなくてはフェアではないと思う。

外国人などどう頑張っても組関係者ではないことは明白なのに、とにかくルールはルール、刺青はお断り、という頑なな態度は先進国として情けないことだ。

個人的に言わせてもらえば、腰まである長い髪を泡だらけにしてそこらじゅうに泡を飛び散らしながらシャンプーしている女性、あたり構わず、大声でおしゃべりを続ける人たちのほうがよほど迷惑だと思うのだけれど。

刺青=おそらく暴力団=治安が悪くなる=周りの客を不安にさせる、という回りくどいルールはいい加減やめにして、いっそのことはっきりと「暴力団関係者の出入りお断り」と書いたらどうなのか。

「反社会的な行為、他人に迷惑をかける行為はすぐに通報します。妥協はしません」というルールにすればいい。

東京オリンピックを機会に、政府は日本をさらなる観光大国にしようと計画している。そのために、何でもかんでも欧米化する必要はない。でも違った文化背景を持つ人々を受け入れる柔軟な心、日本の習慣になじみの薄い相手の立場を理解しようと努力をする姿勢は、ビジネスオーナーたちにとって今年はますます必要なことになってくるだろう。

あわせて読みたい

「外国人観光客」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    河野大臣が表情変えた記者の質問

    BLOGOS しらべる部

  2. 2

    韓国の国際法無視 強行なら好機

    木走正水(きばしりまさみず)

  3. 3

    大阪うがい薬推奨に医師らは呆れ

    中村ゆきつぐ

  4. 4

    玉木氏に横柄? 枝野代表の狭量さ

    早川忠孝

  5. 5

    臨時国会逃げる政府 終焉近いか

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  6. 6

    テレ朝のPCR巡る報道に医師怒り

    中村ゆきつぐ

  7. 7

    スタバと違い常連扱いないセブン

    内藤忍

  8. 8

    文科相が一部大学の授業を批判か

    BLOGOS しらべる部

  9. 9

    うがい薬巡る不正確な報道に苦言

    青山まさゆき

  10. 10

    春馬さん「結局カネ」家族に悩み

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。