記事

米の「標的殺害」、イエメンでは失敗、ソレイマニ暗殺は広範な作戦の一環 - 佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

イラン革命防衛のソレイマニ司令官の殺害をめぐる米イランの緊張は双方がひとまず矛を収め、全面戦争の危機は回避された。この間、明らかになったのは司令官暗殺が米国のより広範な「標的殺害」の一環だったことだ。「標的殺害」はテロ組織の指導者らを暗殺する米国の“お家芸”。しかし、対象が非国家のテロリストから国家の要人にまで拡大した。「標的殺害」はどこまで許されるのか。

(Smederevac/gettyimages)

昨年のタンカー攻撃後から本格化

複数の米メディアによると、米軍はバグダッドで革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を無人機で殺害した3日、アラビア半島のイエメンでもコッズの現場司令官アブドルレザ・シャハライの抹殺を図ったが、失敗した。どのような作戦だったのか、なぜ失敗したのかは明らかではない。

イエメンではシーア派武装勢力「フーシ」が中央権力を掌握、サウジアラビア支援の政府軍と内戦を続けている。シーア派の盟主であるイランがフーシをどの程度援助しているか、実態は明らかではないが、シャハライ司令官は「コッズ部隊」の財務担当として知られ、ソレイマニ司令官がフーシへのテコ入れのために送り込んだと見られている。

シャハライ司令官は2007年、イラクで5人の米兵誘拐・殺害や、2011年、米ワシントンでサウジアラビア駐米大使の暗殺を計画したなどの容疑で米政府から国際手配を受け、1500万ドル(16億円)の懸賞金がかけられていたる人物だ。1957年生まれとされているが、その素顔を謎に包まれている。

同司令官の暗殺失敗を特ダネとして報じたワシントン・ポストは「ソレイマニ殺害は公表されたより大きな作戦の一環」と指摘、米国が相当前から周到な計画を進めていたことを示唆した。ニューヨーク・タイムズはソレイマニ暗殺計画が実際に始動したのは昨年5月、ペルシャ湾で日本船籍のタンカーなど4隻が何者かの攻撃を受けた直後からと伝えている。

当時の対イラン強硬派のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当、解任)は国防総省や情報機関に対し、イラン攻撃のオプション策定を命令。提出された作戦の中に、ソレイマニ司令官らの暗殺も含まれていた。その後、特殊作戦軍と中東を統括する中央軍がソレイマニ司令官の追跡と監視を始めた。

しかし、司令官はレバノンの武装組織ヒズボラと一緒にいることが多く、ヒズボラを巻き込めば、イスラエルとヒズボラの戦争に発展することを懸念し、慎重な対応を迫られていた。そうした状況下でも、シリアやイラクの米スパイ網から司令官の行動が逐一報告され、また今回は司令官とイラクの民兵組織「カタエブ・ヒズボラ」の交信を情報機関が傍受、米国への攻撃計画が進められていることをつかんだ、という。

“お家芸”の「標的殺害」

主にテロリストの指導者らを暗殺して米国の脅威を取り除く「標的殺害」はブッシュ、オバマ、トランプの歴代政権にわたって続けられてきた。その舞台は主に、イエメンやアフガニスタン、リビア、ソマリアなどで、特にオバマ政権はイエメンの国際テロ組織アルカイダに対する暗殺作戦を強化、“オバマの秘密戦争”として知られてきた。

オバマ政権が警戒したのはアルカイダ系組織の中で最強といわれた「アラビア半島のアルカイダ」がイエメン内戦の混乱を利用して勢力を拡大することだった。しかし、作戦は時折、誤爆を招き、結婚式の車列をテロ組織の移動と誤って判断し、民間人多数を殺傷する事件も起きた。

また作戦に当たっては中央情報局(CIA)と国防総省の縄張り争いも表面化し、イエメンの「標的殺害」については、国防総省の管轄に一括することとなった。アフガニスタンについては、パキスタンとの国境の山岳地帯が標的になり、より秘密性が必要となることから、CIAが無人機攻撃を担っている。

トランプ政権になってからも作戦は継続。米戦争専門誌によると、攻撃回数は2017年約125回だったが、2019年は8回と激減した。今回はこうした「標的殺害」がソレイマニ司令官やイエメンのシャハライ現地司令官に適用された。しかし、非国家のテロリストを対象としてきたこの手法が、イラン国家の要人に採用されたことに、一部から法的に問題であり、戦争の危険を招くとの批判が上がっている。今後論議を呼ぶのは必至。

トランプの発言に大きな疑問

トランプ米大統領は9日、米軍駐留のイラク軍基地にイランからミサイルの報復攻撃を受けた後、声明で武力行使を自制する声明を発表したが、極めて不機嫌だった。その理由は、「世界一のテロリスト」を殺害したにもかかわらず、議会を中心に戦争を誘発するとの批判が高まり、全面的な支持を受けなかったからだ。

こうした中で大統領は10日、フォックスニュースに対し、ソレイマニ司令官が「バグダッドを含め4つの大使館を狙っていた」と発言した。しかし、ポンペオ国務長官が「本当の脅威はあったが、いつ、どこが狙われているのか分からなかった」などと述べたように、国防長官も含め政府高官は「4つの大使館が狙われていた」事実を知らなかった。

トランプ大統領がソレイマニ司令官の脅威と殺害という成果を強調するあまり、過大に“フェイクニュース”(専門家)を発信した可能性が強い。大統領は昨年10月、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者アブバクル・バグダディを殺害した際、「泣き叫び犬のように死んだ」と述べたが、トランプ大統領以外、高官の誰一人として「泣き叫んだ」のを聞いた者はいなかった。 

あわせて読みたい

「アメリカ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    医師が勧める「孤独のグルメ」

    PRESIDENT Online

  2. 2

    コロナ不安も福島県が検査を拒否

    鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)

  3. 3

    新型肺炎の専門家見解「信じて」

    中村ゆきつぐ

  4. 4

    店員はマスク禁止 マック違法か

    田中龍作

  5. 5

    河野太郎氏 SNSで器の小ささ露呈

    文春オンライン

  6. 6

    Perfume公演行かず 命守る行動を

    常見陽平

  7. 7

    破産者マップ再びか 識者が警鐘

    町村泰貴

  8. 8

    保育士グラドルの姿は心理的虐待

    田中俊英

  9. 9

    肺炎で安倍政権が守りに 米報道

    飯田香織

  10. 10

    電通で感染者 全社員が在宅勤務

    キャリコネニュース

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。