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【ゴーン逃亡を擁護】”変装保釈”の担当弁護士に跳ね返る「日本司法の深刻なダメージ」 - 平野太鳳(ジャーナリスト)

 昨年末に電撃的な極秘出国を果たしたカルロス・ゴーン元日産自動車会長の脱出劇の内幕が徐々に明らかになってきた。ゴーン元会長は1月8日、記者会見を開き、日本の司法制度を大々的に批判して日本の法曹界を揺るがしたが、深刻なのは非合法グループが国内に潜入し、ゴーン元会長の「出獄」を手助けしたことだ。

【写真】高野隆弁護士と再保釈されたゴーン氏


レバノンで会見をするゴーン元会長 ©時事通信社

「保釈のプロ」高野弁護士はブログでゴーン元会長を擁護

 今夏、東京五輪パラリンピックを控えた我が国にとって、事実上の犯罪集団が密入国し、テロさえ起こりうると再認識させたインパクトは計り知れない。今回のゴーン元会長の極秘出国を教訓に、日本は危機感を募らせなければならない。

 ゴーン元会長の弁護団の高野隆弁護士は、2019年3月の作業員姿の“変装保釈”でも注目され、業界では「保釈のプロ」との呼び声も高いが、元会長の出国を受けて1月4日、久々にブログを更新し、「彼が見たもの」と題した文章を寄せた。

「彼」とは、もちろんゴーン元会長のことだ。高野弁護士はこの文章の中で、ゴーン元会長から何度も「(日本で)公正な裁判は期待できるのだろうか?」と尋ねられたと告白し、「期待できないが、無罪という結果を出してみせる」と答えたとつづった。

 また、ゴーン元会長が特に妻キャロルさんとの接触禁止という保釈条件に「絶望を感じ」ていたと指摘。このような保釈条件を許容する現在の日本の刑事制度について「本当に恥ずかしい。一刻も早くこの状況を改善するために私は全力を尽くす」と伝えたという。

  さらに、ゴーン元会長の極秘出国に関しては「まず激しい怒りがこみ上げた」としつつ、「彼がこの1年あまりの間に見てきた日本の司法とそれを取り巻く環境を考えると、密出国を全否定できない」と擁護。「(高野弁護士自身を)裏切ったのはカルロス・ゴーンではない」とし、日本の刑事司法制度そのものが今回の事態を招いたとする考えを示唆した。

「密出国を擁護するなんて法を信じる人がする行為じゃない」

 この文章に対し、反発するコメントが多数投稿された。

「今回の密出国を擁護するなんて法を信じて仕事をしてる人がする行為じゃない。犯罪を擁護してまで日本の司法に従えないと言うなら、直ちに弁護士資格を放棄して他の仕事をするか海外に移住して下さい」

「ゴーンはお金持ちだから逃げられてよかったじゃんってだけじゃん。(中略)ゴーンの事件があってようやく日本の司法のダメさ加減に気づいて裏切られた気がしたっていままでなにをやってきたんだと、本当にプロかと問いたいわ」

「(高野弁護士が批判する)司法制度に何十年も携わってきたのがあなたなのでは? あたかも他人事かのような内容に私はほとんど殺意に近いものを感じます」

保釈率が拡大する傾向に疑問を投げかけたゴーン逃亡

 この反発ぶりにも明らかなように、今回のゴーン元会長の逃亡劇は、日本の司法制度を改革しようとするラディカルな法曹人に大きなダメージを与えた。多くの国民が「保釈許可や保釈条件が甘い」とすら感じたに違いなく、今回の件は、裁判員制度の導入に伴って保釈率が拡大する傾向に疑問を投げかけた。少なくとも、刑事裁判を専門とする弁護士にとって逆風となる出来事であり、今後、裁判所はより慎重な保釈判断を迫られざるを得なくなった。

  これに対し、捜査機関側(とりわけ検察側)は揺り戻しを強めている。すなわち、森雅子法務大臣は1月6日、「被告人にGPS装置を装着させるなどの行動監視を『議題の一つ』として、保釈制度の見直しを検討している」と発言したが、当然、この法相のアイデアには法務官僚(検事)の意向が作用していると考えていい。

検察幹部は「これで裁判所や弁護人に強い姿勢を示すことができる」

 今回の逃亡劇で一番笑ったのは、ゴーン元会長に違いない。そして、ある検察幹部はこううそぶいていた。

「もちろん、ゴーン元会長が本当に極秘出国するとまでは思っていなかったが、結果的に我々が心配したようになった。おそらくゴーン元会長の公判はもう開けないだろう。検察は、今回の逃亡劇を盾に、裁判所や弁護人に保釈の運用について強い姿勢を示すこともできるようになったし、何よりゴーン元会長の無罪判決という最悪のシナリオも消えた」

 保釈を認めたことを批判される裁判所、保釈条件を守ると誓約しておきながらゴーン元会長を逃したことを批判される弁護人。唯一、批判を受けないのが検察という構図。検察側は一時、楽観的な受け止めさえしていた。今回の出国劇で、検察は得をしたのではないか。そんな観測も流れた。

 しかし、8日に会見を開いたゴーン元会長は特捜検察の捜査を強烈に批判し、「人権を無視した取り調べ」を強調した。これに対し、森法相や東京地検の斎藤隆博次席検事が相次いで記者会見し、ゴーン元会長の言い分に猛反発した。今や、法務検察は怒り心頭だ。「国際社会で恥をかかされた」と地団駄を踏んでいる。

ゴーン逃亡は「非合法集団が潜入できる日本の現実」を浮き彫りに

 ただ、今回の脱出は法曹界という一定の業界へのインパクトに限られたと思うべきではない。いわゆる民間軍事組織とも言える「警備会社」が暗躍し、米特殊部隊(グリーンベレー)での活動歴がある人物らがゴーン元会長の出国を手助けしたことが明らかになってきた。そして、その非合法集団は既に日本を離れている。

 これは、裏を返せば、日本の法律に反することをたやすくやってのける外国人グループが潜入しうることを意味している。つまり、目的が違えば、テロ行為が起こりうることを示唆している。東京五輪が始まる前に、この教訓を生かし、徹底した水際作戦とセキュリティー対策を講じなければ、「世界一」をうたう日本の安全神話は崩壊するだろう。

(平野太鳳(ジャーナリスト)/週刊文春デジタル)

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