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ゴーン被告人国外逃亡が生み出した皮肉な状況

 明けましておめでとうごさいます。

 年末年始の日本に衝撃が広がったゴーン被告人の国外逃亡。これは、日本の刑事司法にとって衝撃的な大事件ではあり、そしてめったにお目にかかれない皮肉な事態であったといえます。いうまでもないかもしれませんが、保釈条件に反して、いわば易々と国外に逃亡したという、日本の司法のメンツに関わるような違反行為によって、問題が指摘され続けている日本の刑事司法の病理ともいえる「人質司法」が白日の下にさらされることになったからです。

 マスコミが逃走の手段や責任について、まず切り込むのは、ある意味、想定できることではあります。裁判所が保釈許可の是非、条件の甘さといった切り口では、今後の保釈運用への影響、GPS装着といった議論への発展も予想されています。裁判員制度導入以来の保釈の運用が、全体的に緩和から厳格化に向かうのか――。そういう論点で、むしろ今回の事件が炙り出した前記皮肉な状況を覆い隠すようなムードも、既にあるようにもとれます。

 ただ、その意味では、最もこの皮肉な状況を反映した立場に立たされたのは、ゴーン被告人側の日本の弁護士たちといえるかもしれません。前者の国外逃亡による日本司法への違背という観点からは、裁判所とともに弁護士の責任を問う論調もみられました。

保釈を求めること自体が問題であるわけもなく、もちろん直接逃走に加担した事実があるわけでもない。また、四六時中被告人を監視することを期待されているわけでもない、弁護士たちの側からすれば、弁護団関係者がメディアに語っているように、彼らも「裏切られた」側であることは間違いありません。

 この論調が出てきた直後から、ネット界隈の弁護士からは、責任論に対する「とんでもない」という反応がみられました。弁護士として適正な行為に、いちいち責任論を被せられたならば、やっていかれないといった声です。しかし、ある意味、こうした彼らにとって理不尽といえる批判の的にさらされるのが、今の弁護士の現実であり、社会でのその立場を象徴的に表しているともいえます。そこには、大マスコミのリテラシーといった問題もあることに改めて気付かされます。

 それはともかく、ゴーン弁護団メンバーは、事件発覚後、前記皮肉な状況をまさに反映した、複雑な表情を示しました。昨年12月31日に、囲み取材のなかで弁護団メンバーの一人である弘中惇一郎弁護士は、ゴーン被告人に対して、「裏切られた部分もある」がそうした感情的アプローチになることはないとしたうえで、同被告人は日本の裁判を信じていないが、彼の目から見て、無理からぬものも多々あると思う、とし、具体的に逮捕のやり方、証拠の集め方、面会禁止、証拠開示といった問題を列挙しました。

 記者から、前記皮肉な状況について「(弘中弁護士にとって、ゴーン被告人の今回の行動は)許されない行為か、それとも理解的できる行為か」と問われると、「日本の司法に対する裏切りというか、違反行為でいけない行為だが、いけないことの気持ちが全く理解できないことかは別問題」と述べました。

 1月4日に、やはり弁護団の高野隆弁護士がアップしたブログは、さらに日本の司法に絶望していたゴーン被告人の姿と、弁護団の置かれた状況を切々と伝えるものでした。

同被告人が日本の司法制度へ批判を口にしたのは、彼が逃亡後に発した声明が初めてではなく、東京拘置所に拘禁されているときから、彼は日本のシステムについて様々な疑問を懐き続けており、それは高野弁護士いわく、「日本の司法修習生よりも遥かに法律家的なセンスのある質問をいつもしてきた」のだと。また、公正な裁判への不安を口にする同被告人に対し、その都度、弁護士は自分の経験に基づいて説明し、憲法や法律の条文と現実との乖離についても話した、としています。

 そして、高野弁護士はこう書いています。  
「一つだけ言えるのは、彼がこの1年あまりの間に見てきた日本の司法とそれを取り巻く環境を考えると、この密出国を『暴挙』『裏切り』『犯罪』と言って全否定することはできないということである。彼と同じことをできる被告人はほとんどいないだろう。しかし、彼と同じ財力、人脈そして行動力がある人が同じ経験をしたなら、同じことをしようとする、少なくともそれを考えるだろうことは想像に難くない」

 「それは、しかし、言うまでもなく、この国で刑事司法に携わることを生業としている私にとっては、自己否定的な考えである。寂しく残念な結論である。もっと違う結論があるべきである。確かに私は裏切られた。しかし、裏切ったのはカルロス・ゴーンではない」
 「ゴーンショック」ともいえる、今回の事件の波紋は現在も広がっており、今後どういう展開を示すのかは、予断を許さない状況にあります。ただ、今いえることは、今回の事件が浮き彫りにした皮肉な状況への、この社会の感性はまだまだ不足しているように感じることてす。

メディアは今回のことで、「人質司法」ということには一様に言及していますし、今後、国際的な批判にさらにさらされる可能性を指摘するものもあります。しかし、彼らの取り上げ方も、そしておそらく社会の受けとめ方も、弁護士たちの言をストレートにとらえるものではない。あくまで日本司法への軽視、ゴーン被告人の逃れられないと悟った罪からの逃走のような描き方に上塗りされかねない状況にあるように見えます。もちろん、そういう形でこの件を片付けたい方々の意向に沿う形で。

 弁護士も当然、制度的な提案をしますし、こう言う時こそ弁護士会が存在感を示し、いち早く言うべくことがあるように思います。その半面、高野弁護士の指摘にもあるように、あくまで弁護士の仕事は現在の刑事司法の土俵のうえで、闘わなければならない、限界もあるといえます。

 この皮肉な状況を越えていくには、やはりメディアだけでなく、社会の、刑事司法の現状に対する理解力と感性が問われるくるように思えます。本質的に、まず、そこのスタートラインに立てるのかどうかの問題といわなければなりません。

カルロス・ゴーン被告人の国外逃亡と日本の刑事司法について、自由なご意見をお聞かせ下さい。司法ウオッチ「ニュースご意見板」http://shihouwatch.com/archives/8373

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