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米国がイランに勝てないわけ

トップ写真:トランプ米大統領(左)とイランの最高指導者・ハメネイ師(右)出典: トランプ大統領(The White House facebook)/ハメネイ師(Wikimedia Commons; khamenei.ir

文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・米国とイランは全面交戦には至らず、武力対立は限定的範囲に収まる。

・無名の師をめぐる戦争は誰からも支持されず、米国に利益はない。

・そもそも米国はイランに侵攻できず、勝てない。

イラン情勢の激化には天井がある。米国とイランの敵対的対立は限定的範囲に収まる。

米国・イラン関係の緊張が高まっている。これはトランプ政権の対イラン強硬対応の結果だ。政権発足直後のイラン制裁強化、18年の核開発合意の反故、19年の原油禁輸措置における例外撤廃、有志国連合による艦隊派遣決定を経て今回の事態、イラク国内における暗殺とイランによる報復の事態に至った。

だが、その対立には上限がある。米国は対イラン全面戦争はできない。そのため今後にエスカレーションが進んでも米国とイランの全面交戦には至らない。そのため激化には限界がある。

それはなぜか。

その理由を3つに整理して示せば次のとおりである。1つ目は無名の師であり誰も戦争を支持しないため。2つ目は米国に利益は産まないため。3つ目はなによりも米国はイランに勝てないためだ。

無名の師

米国は対イラン全面戦争を挑まない。

その1つ目の理由は戦争無支持である。

米国がイランと戦争を行う。それを米国民や国際社会は支持するだろうか? 反語的に述べればそういうことだ。いずれも対イラン戦争を支持しない。あるいはトランプ政権が戦争を挑もうとしてもそれを止めさせる。

米国民からすれば無名の師である。

なによりも米国には熱狂がない。「攻撃された」実感はない。9.11との牽強付会により熱狂的支持が得られたイラク戦争やアフガン戦争とは異なる。しかも米国内には両戦争への懐疑はいまだ充満している。

大義名分もない戦争はまったく支持されない。しかもイランは強敵である。政権が進めようとしても国内各階層は全力でそれを止める。

また国際社会もそれを支持しない。そのため米国も戦争には踏み切れないのである。

それを支持する国はまずはない。サウジとUAEくらいなものだ。(*1

▲写真 日イラン首脳会談(2019年12月20日)。日本すら対イラン戦争は支持しない。出典: 首相官邸ホームページより

米国に利益はない

2つ目の理由は米国利益の皆無である。

これも反語的に理解できる。米国はイランと全面戦争をして何か得られる利益はあるだろうか?そういうことだ。

そこで見込める利益もない。

化石燃料資源も戦争の間尺に合わない。米国はすでにエネルギー自給を達成しており海外産燃料は必要としない。また石油も天然ガスも国際価格次第で世界各地から湧いてくる時代でもある。

▲写真 ヤマル天然ガス。天然ガスは地域的偏在がほぼない資源である。また国際価格次第でいくらでも湧いてくる状況にある。わざわざ中東産油国を占領してまで求める資源ではない。写真はロシア北極圏のヤマルガス田。出典: 開発合弁企業のJSC YAMAL社ホームページ

また対イラン戦争が解決策となる政治的問題もない。

核開発も対イラン戦争で解決しない。イラン現体制を完全に打倒し、全土を占領しない限りはむしろ促進する結果しか産まない。そして次に述べるように米国はイラン打倒、完全占領は難しいからだ。

そもそも米国の対イラン憎悪は利害対立の結果ではないのだ。革命後に大使館を占拠された遺恨でしかない。40年前に大国の面子を潰された。それだけが対立の原因である。(*2

つまり戦争をしても米国は具体的利益は何も得られないのである。

イラン侵攻はできない

米国は対イラン全面戦争はできない。

その3つ目の理由は米国はイランに勝てないことである。そしてこれは対イラン全面戦争がない最大の理由である。

イランは中東随一の強国であり国民は団結している。こと侵略に対しては流血を厭わずに最期まで戦う。その点で国民国家として未成熟であったアフガニスタンやイラクとは異なる。

これはイラン・イラク戦争の前例からも明らかである。革命の混乱に乗じて侵攻したイラクとの戦いにおいて100万の戦死者を出しながら戦いきっている。(*3

米国にとっても一筋縄で勝てる国ではない。

▲写真 イランのNasr対艦ミサイル。写真のようにトラックにさおだけ屋式に載せた運用がなされる。誘導設定は光学系が多くLOSと呼ばれる直接照準射撃が本則となるため電子戦には強いミサイルである。さおだけ屋と同じようにまずは潰れない。出典:イランのYOUNG PHOTOJOURNALISM AGENCYより。撮影:Mohammad Sadhgh Heydari (CC BY 4.0)

そもそも軍事的勝利そのものも難しい。米国は戦闘においても湾岸戦争やイラク戦争のような鮮やかな勝利を得られるかは疑わしいのだ。

なぜならイランはここ40年間、対米戦準備を徹底しているためだ。

対イラン苦戦の可能性は米海兵隊の機関紙でも指摘されている。米軍が依存するGPSへのジャミング、それに伴う誤爆を利用したyoutube等における宣伝戦、また非GPS依存のイラン・ドローンの脅威を指摘する内容だ。(*4

これは米海兵隊が「対イラン上陸戦は不可能である」といっているようなものだ。

もちろん、米軍はイラン本土上陸までできる。事前にホルムズ島ほかを占領する。そこから支援の下で本土に橋頭堡を形成するまではもっていける。

だが、米上陸軍はイラン人海戦術で圧倒される。

まずイランは海空戦力で米軍を混乱させる。GPSジャミング、自律ドローン、水上/半潜没/水中特攻艇を同時に繰り出し海空軍や沿岸砲兵も全力攻撃を行う。それで1晩を挟んで2日の時間は作る。

そしてその間に陸上戦力を前進させる。動員可能な全壮丁、例えば全人口の1%80万人を米軍橋頭堡に向けて前進させる。米軍が長所を活かせない機関銃、小銃、手榴弾による接近戦を挑む。

そうすればどうなるか?

米上陸軍は溶けてなくなる。上陸部隊、ざっと3万から5万人は死傷あるいは捕虜となる。米国はそれには耐えられない。なによりも無名の師であるためだ。

もちろんイランは青壮80万人を喪うかもしれない。だがそれにより侵略者を打倒できれば躊躇しない。なによりも100万人の戦死を出しながらイラクとの戦争を戦い抜いた国である。

つまり、米国は最終的勝利を得られない。これが米国は対イラン全面戦争はできない3つ目の理由の骨子であり最大の要因である。

(*1) 日本ですら対イラン戦争支持は厳しい。政権は支持したいかもしれない。国益よりも政権維持を優先する風があり「米国への赤誠的献身により国内政治権力は獲得できる」「米国に尽くせば国内政権支持は向上する」とも考えているからだ。だが、経済界や官僚ほかの実務家がそれを許さない。イランとの関係断絶は将来の化石燃料入手先と市場の喪失である。あるいはサウジ衰微以降のありうべき中東秩序からの排除を意味するためだ。だから現政権は対イラン強硬論には乗れないのである。

(*2) 結局は核開発もその裔である。米国の強硬態度がイランを核開発に走らせただけの話だ。関係が正常化すれば核開発は止まる。あるいはペースダウンする。これはオバマ政権の政策をみれば明らかである。

(*3) イラン国民は一致団結してイラクと戦った。その団結には革命への態度が疑われていた国軍以下のセクターや社会階層も含まれている。そして短時間で巻き返しに成功しその後も圧倒的逆境の中で戦争を戦い抜いた。

(*4) Gentry, Keil R “Land the Landing Force” “Marine Corps Gazette”103.10 (Quantico:Marine Corps Association & Foundation) pp.68-69.

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