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オウム事件から「何も学ばなかった」日本の学者たち―宗教学者・大田俊寛氏インタビュー

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オウム問題の今後──アレフの麻原崇拝への回帰と、日本社会の不活性状態

―オウム真理教の事件が起きた1995年と同様、あるいはそれ以上に、今の社会状況は悪化しているように思います。オウムが社会的な条件・雰囲気から生み出されたものだとすれば、今後、第2、第3のオウム真理教が誕生する可能性はあるのでしょうか。

大田氏:最近私には、オウムの後継団体の一つである「ひかりの輪」代表の上祐史浩氏から話を伺う機会がありました。上祐氏と私の対談は、『atプラス』という雑誌の次号に掲載される予定ですので、詳しくはそちらをご覧いただきたいのですが、上祐氏の話で印象深かったのは、オウム真理教の後継団体の主流派である「アレフ」において、麻原崇拝への回帰の動きが顕著になっているということでした。

ですので、そのご質問に対しては、「第2、第3のオウム」が出てくることを心配する前に、オウム真理教の問題そのものがまだ完全に終わったわけではないということを、まずは強調しておかなければなりません。「オウムはもう見たくない、社会から抹消してしまえ」というのが、今の日本社会の正直な考えかもしれませんが、そうした感情論が噴出してしまうと、彼らを不用意に追い詰め、再び暴走させてしまう危険性があると思います。オウムという教団が、日本社会から生まれたその分身の一つであるということを認め、彼らとの対話の回路を開き、その動向を今後も注意深く見つめる必要があるでしょう。

先ほどのご質問は、過激な無差別テロに走るオウムのような「破壊的カルト」が、再び日本社会に登場する危険性はあるのか、ということだと思いますが、私としては、それを心配するよりもむしろ、現在の日本社会が慢性的な不活性状態にあり、年間の自殺者数が高止まりしているということを心配するべきであると思います。

先ほども述べたように、80年代から90年代の初頭にかけて、日本社会には「全能幻想」が色濃く広がっており、ある種の「躁(そう)」的な高揚感に包まれていました。バブル的な好景気のなかで、多くの日本人は、日本の経済こそが世界を支配しうるとさえ考えていたし、経済至上主義・物質至上主義に反発した人々も、宗教的な修行を積んで霊性を高めることによって、神のような存在になりうるという全能感に浸っていた。社会の主流派とその対抗勢力が、それぞれの仕方で「全能幻想」に浸っていたわけです。

しかし、前者の経済至上主義的な全能感は、90年のバブル崩壊とそれに続く不況によって雲散霧消し、後者の宗教的な全能感は、95年のオウム事件によって著しく傷つけられることになりました。経済至上主義も、宗教的な霊性の探求も、共に限界に突き当たってしまった。そしてオウム事件の騒動が一段落した98年頃に、日本社会は全体として、躁状態からうつ状態へと大きく転換したのではないかと、私は思っています。その頃から、年間の自殺者数が約二万四千人から約三万二千人へと急増し、現在でも高止まりしている状態です。オウムを生み出したような社会的高揚感は、良くも悪くも、今の日本社会からは失われてしまっているのです。

もう一度バブル期の高揚感を味わいたい、と願っている人々も多いのかもしれません。しかし私としては、日本社会はそろそろ、躁状態か、そうでなければうつ状態かという、双極的なメンタリティから脱却する方法を考えるべきであると思います。実際にわれわれは、「超人」にも「動物」にもなることはできず、どこまでも「ただの人間」であるしかない。等身大の自分自身の姿を冷静に見つめ、自分ができること、できないことをはっきりさせ、日々の地道な努力によって一歩ずつ前に進むことを目指すべきではないでしょうか。

―本日はありがとうございました。

プロフィール

大田俊寛(おおた・としひろ):1974年、福岡生まれ。宗教学者。東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻宗教学宗教史学専門分野博士課程修了。博士(文学)。現在、埼玉大学非常勤講師。主な著書に『オウム真理教の精神史』、『グノーシス主義の思想』(ともに春秋社)がある。
Twitter:@t_ota





冒頭でも紹介したように、本シリーズでは、読後にユーザーが感じた意見に対する回答記事の掲載を予定しています。コメント欄を通じて、寄せられた意見・異論・反論を基に次回のインタビューを実施しますので、議論への積極的な参加を期待しています。





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