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【書評】『中国の大プロパガンダ――恐るべき「大外宣」の実態』(何清漣・著、福島香織・訳)の衝撃

 年末年始にこちら界隈でもっとも話題になった一冊が本書で、中国のジャーナリストである何清漣さんによるルポ風味も含む渾身の取材執筆に、日本での中国事情解説の第一人者の福島香織さんの訳による怪著になっていました。



Amazonリンクはこちら『中国の大プロパガンダ――恐るべき「大外宣」の実態』

 私のYouTubeチャンネルでも、簡単な概要は述べてみましたが、ちょっと数分で語り切れるものでもないよなあという充実した内容なのが本書です。

山本一郎(やまもといちろう)YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCYngjP_3hOC-yu2A077rKbQ
<書評>中国の対外プロパガンダの手法・実態が克明にわかるおすすめ本! 『中国の大プロパガンダー恐るべき「大外宣」の実態』何清漣著・福島香織訳 https://youtu.be/7xbSVvg8428 

 一口に言えば、中国共産党・中国政府による「大外宣」つまり政府広報の仕組みを詳らかにしようというのが本書の目的であり、読み進めるごとに「これは一般的にどこの国でも、どんな企業でも自社のイメージやブランド戦略を構築するうえでは当たり前にやっていることなのではないか」という面と共に「これはちょっと踏み込み過ぎだろう」「対外的なプロパガンダとしては悪質なものも含むのではないか」という問題意識を読者に抱かせる構成になっています。

 そして、一連の手法一つひとつを見る限り、目的がはっきりしていて、しかも適法である(その国の法律には必ずしも違反していない)というのが見て取れます。プロパガンダ活動を通してその国の社会の中に浸透し、中国の影響力や物事に関する考え方を広げていって、さらにその地域に住む中国人コミュニティの活動とオーバーラップさせながら存在感を高めていこうという手法であることが分かります。

 これは、香港などアジア地域だけでなく、アメリカや欧州での洪水的な中国による浸透が、当初は人海戦術的であったものから洗練され、成功と失敗を繰り返しながら現在の中国の国力に相応しい敬意と怖れを抱かせるように展開していこうという中国共産党の「明確な意志」を感じ取るものでもあります。

 例示されている浸透の方法は具体的で、大学などの教育機関、主要業界に携わる企業や財界人、さらにテレビなど影響力を持つマスコミとそこに記事を寄せるジャーナリストまで、概ねその国の発信者に関するリストとスコアリングに基づいた関係値の中から豊富な資金力をバックにプロパガンダ作戦を展開して自国に有利な風評を確保するというのが主たるプロセスです。

 一方で、欧米で中国を良く知る有識者の中には本書の内容について手法の古さや、有効ではなく露顕した作戦だけが羅列されていて恐怖をいたずらに煽るものではないか、という批判も散見されます。また、今回オーストラリアで露顕した王立強事件のような「嘘ではないんだろうけど、何か別の意図で問題を糊塗するために自らスパイと名乗り出てきた」ケースなど、ある種の駆け引きの具にすぎないのではないかという見解もないわけではありません。

世界を揺るがす自称「中国共産党スパイ」の大暴露 香港の銅鑼湾書店事件にも関与?オーストラリアで王立強が語ったこと(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58489

 しかしながら、大筋において中国がハッキリとした意志を持ってこれらのプロパガンダに取り組んでいることがきちんと取りまとめられていて、一般書籍として堂々と販売できているということは大きいのではないかと思うんですよ。うすうす「介入されているんじゃないかな」と思っているものが、事例と共に解説されれば「そうなのかな」と感じ取れるのです。

 そして、いまやフェイクニュースやプロパガンダは単にメディア操作の問題にとどまらず、完全に安全保障の範疇に入ってきました。つまり、フェイクニュースやプロパガンダによる情報流通への介入は、民主主義への直接の影響を行使することに他ならず、アメリカでは外国勢力による選挙への介入は社会インフラストラクチャーへの攻撃と見做す動きになっています。まあ、いままで牧歌的にいろんな言論があって多様性が担保されているから民主主義だと言っていたわけですが、その民主主義の綺麗ごと部分をハックしてプロパガンダで浸透工作をするのが当たり前になってしまった以上、これへの対応策を考えるためにも単に国民に「メディアに騙されないリテラシーを身につけましょう」と言っても効果を上げないのは仕方のないことです。

 こうやって見ていけば、この本ではぽっかり例示されていない我が国日本もまた、アメリカと中国の新たな対立局面の中でプロパガンダの対象となり、いろんなメディア人や財界人、政府中枢の人物などなどが、中国からの具体的な恩恵を受けたり反権力的な思想の果てに意識的に自ら走狗になるなどして浸透工作の駒になってしまっている面はあるかもしれません。

 本書の醍醐味は、ここで記載されている事例を読みながら身の回りの中国シンパの皆さんの言動を思い返し、あの人はどうなのだろうと類推していくことではないかと思います。単にダイレクトに賄賂を貰って便益を図ることばかりが浸透なのではなく、反安倍反権力的な、あるいは反米的な、そして具体的な事例として沖縄での基地反対運動や福島第一原発事故問題などに絡んで言論を組み立てている人の何割かがピュアに己の信条のために動き、残るいくらかが日に影に浸透工作による中国共産党などからの支援を受けて活動している可能性さえも予見させます。

 いわゆる「バンブーカーテン」と言われる中国の政治気風や、今回安倍晋三総理が肝いりで進めている末期的な『第五の政治文書』問題などで、アメリカとの信頼関係を損なわずに中国との関係を強化しようという流れをどこまで是認する空気が日本に起きるのかも含めて、きちんと見ていきたい問題だなあと思う次第です。



 私としては、本書は☆5中の☆5でした。人を選ぶ本かもしれませんが、ご関心があるようでしたら是非。



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