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トランプがイラン司令官を殺害した本当の理由 - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

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今回のテーマは、「トランプのイラン司令官殺害の動機」です。ドナルド・トランプ米大統領は2020年1月3日、イランの英雄ガセム・ソレイマニ司令官をイラクで無人機攻撃により殺害しました。トランプ大統領は米国に対する「差し迫った脅威」を司令官殺害の理由に挙げました。

しかし、トランプ大統領の司令官殺害の動機は一体何だったのでしょうか。本稿ではトランプ氏の動機に焦点を当てます。

2012年と2013年のツイッター

大統領に就任する前の2012年10月9日、トランプ氏は自身のツイッターに再選を狙うバラク・オバマ前大統領に関して、「オバマの支持率が急落している。彼がリビアかイランを攻撃するのを注意してみろ。彼は絶望的だ」と投稿しました。同月22日には「再選のために戦争をするというイランカードをオバマに使わせるな。共和党、気をつけろ!」とツイッターで警告を発しています。

さらに、トランプ氏は2013年9月16日、「オバマ大統領は面子を保つために、ある時点でイランを攻撃するだとう」とつぶやきました。

2012年米大統領選挙において筆者は、研究の一環として南部バージニア州フェアファックス市にあるオバマ選対に入り、ボランティアとして活動をしていました。筆者が知る限りでは、選対の中でオバマ前大統領のイラン攻撃の可能性について話題が挙がったことはありませんでした。ただ、トランプ氏は再選を狙うオバマ前大統領が投票日の直前にイランカードを使用して戦争を仕掛けてくるとみていました。

「心のブレーキ」と「最大のジレンマ」

オバマ・トランプ両氏の立場は、今逆転しています。上で紹介した3つのツイッターを読むと、再選を狙うトランプ大統領の頭の中には、自身の面子及び支持率維持のために、イランカードを切って、大規模な攻撃を加えるというオプションが存在しているとみてよいでしょう。

ただし、トランプ大統領は支持者を集めた集会で「自分は若い米兵を帰国させるために、大統領に選ばれた」と繰り返し主張しています。トランプ支持者は世界の出来事に対する米国の無関与を支持しているので、中東に米兵3000人を増派する決定は公約違反に成りかねません。

従って、イラン攻撃の決断に迫られたとき、トランプ大統領の心にブレーキがかかる可能性は否定できません。その結果、トランプ氏は「最大のジレンマ」に陥ることになります。

司令官殺害の動機

年末から年始にかけて一連の流れがあました。昨年12月19日、キリスト教福音派の雑誌「クリスチャニティ・トゥデー」が論説で「トランプ大統領は上院か次の選挙で罷免されるべきである」と訴えました。キリスト教福音派は、トランプ大統領の支持基盤の一角を構成しています。

ピュー・リサーチ・センターによると、2016年米大統領選挙でキリスト教福音派の81%がトランプ大統領、16%がヒラリー・クリントン元国務長官に投票しました。キリスト教福音派においては、トランプ氏がクリントン氏に対して65ポイント差で圧勝しました。

トランプ大統領はホワイトハウスで閣僚会議を開くとき、中絶反対のベン・カーソン住宅都市開発長官を指名して、閣僚全員で神にお祈りを捧げます。

ちなみに、カーソン氏の父親は牧師でした。トランプ大統領はこの場面を米国民に公開しています。それほど、キリスト教福音派に配慮している訳です。

にもかかわらず、キリスト教福音派から罷免発言が飛び出すと、トランプ大統領は1月3日、急遽同派の集会で演説を行いました。そこで、トランプ氏は反イランの信徒に向かってソレイマニ司令官殺害の正当性を訴えました。

要するに、再選の鍵を握るキリスト教福音派のトランプ離れを食い止めたいという強い思いが、司令官殺害の動機の1つあったとみることができます。

「第2のベンガジ」とオバマ前大統領の存在

周知の通り、トランプ大統領は常にバラク・オバマ前大統領を意識して行動します。リビア東部ベンガジで2012年9月、米領事館襲撃事件が起こり、駐リビア米国大使を含めた4人が死亡しました。このとき、再選を狙うオバマ前大統領は共和党から適切に対処できなかったと非難を浴び、米領事館襲撃事件が大統領選挙の争点になりました。

イラクの首都バグダッドにある米大使館が2019年12月31日、親イラン派のデモ隊によって襲撃される事件が起きました。仮に「第2のベンガジ」になれば、今年の大統領選挙の争点になり、トランプ大統領は民主党候補から攻撃を受けるのは必至です。従って、是が非でも第2のベンガジは回避したかったはずです。

加えて、トランプ大統領は共和党から「弱いリーダー」「何もしないリーダー」と見られたオバマ前大統領と同じ轍を踏みたくなかったことは明らかです。イランに対して報復措置をとって、オバマ前大統領よりも「強いリーダー」として見られたかった訳です。司令官殺害の動機には、オバマ氏の存在があったと捉えることも可能です。

「弾劾」の削除

イラン司令官殺害の動機をもう1つ挙げましょう。米メディアは、昨年11月に米議会下院で初の弾劾公聴会が開催されると、連日トランプ弾劾について報道してきました。トランプ大統領は紙面の1面から「弾劾」の文字を削除したかったことは確かです。米国民の目を弾劾からそらすには、対イラン政策において「極端な選択肢」を選ばなければならなかったはずです。それがソレイマニ司令官殺害でした。

司令官殺害後、米メディアは弾劾よりもイラン危機を大きく扱うようになりました。トランプ大統領は自身のツイッターに「弾劾に時間を浪費するべきではない」「弾劾は即座に終了するべきだ」と投稿し、重要な問題が他にあるとつぶやきました。「米国対イラン」の対立構図をより鮮明にして、米国民の関心を弾劾からイラン危機に向けたかったのでしょう。

結局、司令官殺害は弾劾と無関係であったとはとても思えません。

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