安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・ゴーン脱出で、プライベートジェットの大型荷物検査義務化へ。
・脱出手伝った元グリーンベレーのテイラー氏、レバノンに強い人脈。
・ゴーン被告、8日に会見。メディア戦略の後手に回ってはならない。
■プライベートジェット
カルロス・ゴーン被告は、プライベートジェットに積み込まれた荷物の中に隠れて国外に脱出したとされている。プライベートジェットはビジネスジェット、エグゼクティブジェットとも呼ばれ、数人から十数人程度を定員とする小型のジェット機のことをいう。主に、企業経営者やセレブリティが使う。
プライベートジェットの主なメーカーには、ブラジルのエンブラエル、米のガルフストリーム、セスナ、カナダのボンバルディアなどがあり、日本では本田技研工業のホンダジェットが有名だ。2017年には、世界の超小型機(パイロットを含めた乗員が10人未満)市場で世界首位に立った。
その国別保有台数を見てみると、2016年時点で米国が19,153機でトップ、次いでドイツ592機、フランス438機、英国393機、インド243機、中国157機、と続く。日本は57機にとどまる。
一方、プライベートジェットの発着回数は着実に伸びている。2018年に5,719回、5年で約1.7倍になった。今回ゴーン被告が飛び立った関西空港は年間716回と余りプライベートジェットは発着していない。ターミナルの人員配置も羽田空港などと比べて多くはなさそうで、敢えて関空を使ったのはその辺も関係しているだろう。一部報道では、関空のX線スキャナーが大型貨物に対応していないことも事前に調査されていたという。
■ゴーンが隠れていたとされる楽器用ケース
マンガのような話だが、ゴーン被告は大型の楽器用ケースに隠れて関西空港から脱出した。そのケースの写真はウォールストリートジャーナルが入手し、公開している。
NEW: Plotters in Ghosn's escape scouted 10 Japanese airports before finding hole in Osaka security. (He escaped in case below.)
— Mark Maremont (@MarkMaremont) 2020年1月6日
Other new details:
10-15 plotters
20+ trips to Japan
Plot months in making@Nick_Kostov @RoryWSJhttps://t.co/PBKUjvgORU via @WSJ pic.twitter.com/LrABLrNYF8
▲出典 Wall Wall Street Jounalのシニアエディター、Mark Maremontのツイート
今回、ケースは自前で事前に準備したと思われるが、人が隠れるに十分な大きさのケースは航空会社から借りることもできる。コントラバスなどの大型の楽器を入れるケースがそれだ。実際の大きさはというと、(内寸)長さ:206/196cm 幅:74/64cm 高さ:48cm なので、小柄なゴーン被告が隠れるには必要にして十分な広さではある。

プライベートジェットの貨物は保安検査が義務付けされていないので、ゴーン被告が忍び込んだ巨大な箱は難なく機内に積み込まれたわけだ。
「え?検査がないの?」と思った方。確かにプライベートジェットは、不特定多数の人間が登場する大型旅客機と比べ、ハイジャックされる可能性が小さいので義務付けしなくてもいい、という理屈でそうなっているのだそうだ。わからないでもない。しかし、危険物が入っているかもしれないし、密輸にだって悪用されかねないわけだから、プライベートジェットに荷物検査なしはおかしいと思うのは筆者だけではあるまい。
現に、今回の問題を受け、6日以降、羽田、成田、中部、関西の4空港で空港施設の管理側の責任で大型荷物検査を義務化した。当然だろう。今回の事件で、世界中に犯罪者であっても日本の空港からいとも簡単に国外脱出できることが白日の下に晒されてしまったのだから。
また、「貨物室は寒いだろうに」との書き込みも当初ネット上にあったが、今回使われたプライベートジェットは貨物室と乗客室の行き来が可能だったようで、ゴーン被告はジェットが飛び立ったらさっさと窮屈な箱から抜け出して悠々と優雅なフライトを楽しんだことだろう。