記事

医療と介護の国・地方関係を巡る2つの逆説-分権改革20年の節目の年に - 三原 岳

1/2

1――はじめに~医療・介護の国・地方関係を巡る2つの逆説を節目の年に考える~

2020年がスタートした。筆者の関心事である医療・介護分野では今年も様々な動きが予想される。例えば、病床再編を目指す「地域医療構想」に関しては、民間医療機関の診療データが3月に開示され、9月頃までに都道府県は公立・公的病院の再編・統合について結論を出すよう求められている。さらに、2019年度中に策定される「医師確保計画」を基に、医師の偏在是正に向けた都道府県の取り組みも本格化する。介護に関しても、市町村が「保険者」(保険制度の運営者)として介護予防を進める必要性が論じられており、いずれも都道府県や市町村の取り組みが期待されている。

一方、今年は国・地方の関係を「上下・主従」の関係から「対等・協力」に変更した地方分権改革から20年に当たる。その視点で近年の動向を見ると、自治体は医療・介護分野の権限拡大を望まなかった経緯があり、「地方が望まない分野で分権が進む」という皮肉な状況が生まれている。さらに自治体に対する国の統制を強める制度改正も相次いでおり、「分権化と同時に、集権化が進む」という逆説的な傾向が見受けられる。

本稿では、地方分権改革から20年の節目の年に当たり、当時の議論を簡単に振り返りつつ、医療・介護で進む分権化の動きを取り上げる。その一方、「地方が望まない分野で分権が進む」「分権化と同時に、集権化が進む」という「2つの逆説」が生まれている理由として、「どうやって自治体の自主性を反映するか」という「自治」と、「国の政策を自治体にどこまで実行させるか」という「統治」の間で相克が見られる点を論じ、今後の方向性を探ることとする。

2――地方分権改革の概要

地方公共団体の自主性、自立性が高まることによりまして、地方公共団体が住民の意向を踏まえて行政を進めることができるようになり、住民にとっても大きなメリットがある――。当時の小渕恵三首相は1999年5月の衆院本会議で、このように述べて地方分権のメリットを強調した。

この時の国会に提出されていた地方分権一括法では、国が自治体を出先機関のように扱う「機関委任事務」の廃止などを盛り込んでいた。最終的に法律は2000年4月に施行され、国と地方の関係は「上下、主従」から「対等、協力」に変わり、自治体の事務は「法定受託事務」「自治事務」に区分された。このうち、法定受託事務とはパスポートの発給など国の仕事を自治体に委任する事務、後者の自治事務は法令に違反しない限り、自治体の判断で内容を決められる事務と整理され、本稿の主要テーマである医療行政の多くは自治事務に類型化された。

さらに「地方分権の先駆け」と位置付けられた介護保険制度も市町村を主体とし、同じ時期にスタートした(つまり、介護保険も同じく20年を迎えた。この歴史は機会を改めて詳しく論じる)。当時、政策立案に関わった有識者の書籍では「(筆者注:介護保険制度は)明確な形で分権の流れの中にあります。その最大の特色がどこに表れたかというと、保険者を市町村にしていることです」といった表記が見られる(大森彌編著『高齢者介護と自立支援』)。つまり、市町村が住民の意向を踏まえつつ、主体的に介護保険制度を運営することが期待されていたのである。

その後、国・地方の税財政関係を見直す小泉純一郎政権期の「三位一体改革」や、自治体行政に対する国の統制を緩める「義務付け・枠付け」の見直しなど地方分権改革は間断なく議論されており、近年は本稿のメインテーマである医療・介護行政に関しても分権化の傾向が一層、強まっている。ここでは医療・介護の国・地方関係について20年間の変化を簡単に振り返る。

3――医療・介護の国・地方関係における20年間の変化

1|医療行政~「都道府県化」の傾向が顕著に~
医療行政では都道府県化という傾向が顕著に見られる。例えば、提供体制改革に関しては、病床削減などを目指す「地域医療構想」が医療計画の一環として2017年3月までに策定され、病床削減や在宅医療の拡大などを都道府県単位で進めることが期待されている1。さらに、医師偏在是正や医療人材の確保を目指すための「医師確保計画」も2019年度中に都道府県単位で策定される予定だ。

保険制度に関しては、2008年度と2018年度の改正を通じて、都道府県単位にする改革が進められてきた2。具体的には、2008年度改革では中小企業の従業員を対象とした協会けんぽの保険料が都道府県単位に変更され、75歳以上の高齢者が加入する後期高齢者医療制度の広域連合も都道府県単位に設置された。さらに国民健康保険については、2018年度の制度改正を経て、都道府県は市町村とともに制度を運営する立場となった。このほか、各保険者で構成する「保険者協議会」も都道府県単位に設置され、医療費適正化などを話し合う場として重視されつつある。

このように見ると、20年間における医療分野の制度改正の特徴として「都道府県化」が一つの共通点として浮かび上がる。

1 地域医療構想については、2017年11~12月の4回連載の「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く」、2019年5~6月の2回連載「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」。(いずれもリンク先は第1回)を参照。
2 保険制度の都道府県化については、2018年8月7日「10年が過ぎた後期高齢者医療制度はどうなっているのか(下)」、4月17日「国保の都道府県化で何が変わるのか(下)」を参照。

2介護行政~予防を中心に市町村の役割強化の傾向が鮮明に~
先に触れた通り、介護保険では元々、市町村が主体性を発揮することが期待されており、近年は介護予防を中心に、その役割を強化する傾向が鮮明となっている。具体的には、要介護認定率の引き下げに成功したとされる埼玉県和光市の事例を「横展開」するため、介護予防に力を入れる市町村を支援する「保険者機能強化推進交付金」(200億円)が2018年度予算で創設された。

さらに今年の通常国会に関連法案が提出される2021年度制度改正では、高齢者が気軽に運動などを楽しめる「通いの場」の拡充が重視されている。例えば、厚生労働省は2019年3月、『これからの地域づくり戦略』を公表し、市町村が介護予防に取り組む際の注意点や先進事例を紹介するなど、介護予防に関する市町村の取り組みに期待している。

3分権化の背景にある「自治」と「統治」の側面
こうした制度改正の背景としては、地域の独自性に考慮する「自治」と、国全体の動向を俯瞰する「統治」という2つの側面が挙げられる。まず、「自治」の観点とは、人口や高齢化率の地域差が大きいことを踏まえ、地域の自主性に期待する考え方である。例えば、人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上となる2025年まで見通すと、東京都など大都市部では人口増加が続くが、殆どの道県では人口が減少する。さらに、高齢化率の格差も大きく、国一律による制度改正だけでは対応しにくくなっており、地域単位で政策を進めようという動きに繋がっている。

一方、「統治」の観点とは、医療・介護費用が増加している中、自治体にも給付抑制の責任を持たせるようとする考え方である。例えば、病床数が多いと医療費が増える傾向が見られる(医師需要誘発仮説)ため、国は地域医療構想を通じて都道府県に病床削減を進めさせる一方、国民健康保険改革で費用抑制にも関与させたい意向を持っている。この点については、2017年6月の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)が「都道府県の総合的なガバナンスの強化」を通じて、医療・介護行政の効果的・効率的な運営を進めると定めたことに表れている3

しかし、この結果として「地方が望まない分野で分権が進んでいる」「分権化と同時に、集権化が進む」という2つの逆説が生まれている。以下、2つの点を論じて行くこととしよう。

3 都道府県の総合的なガバナンスの強化については、2018年2月23日拙稿「都道府県と市町村の連携は可能か」を参照。

あわせて読みたい

「医療」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    渋谷で「一揆」補償巡りデモ行進

    田中龍作

  2. 2

    電通らが甘い汁を吸う給付金事業

    青山まさゆき

  3. 3

    コロナが炙り出す質低い大人たち

    毒蝮三太夫

  4. 4

    重症者少ないアジア 人種要因か

    大隅典子

  5. 5

    報道番組をエンタメにしたTVの罪

    メディアゴン

  6. 6

    マイナンバー遅れで残る利権構造

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  7. 7

    米で広がる分断 アジア人も下層

    WEDGE Infinity

  8. 8

    ガールズバーと混同 バーが怒り

    木曽崇

  9. 9

    学校で感染集団 予防はまだ必要

    中村ゆきつぐ

  10. 10

    米の中国批判に途上国はだんまり

    六辻彰二/MUTSUJI Shoji

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。