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ネットは社会を分断しない――ネット草創期の人々の期待は実現しつつある - 田中辰雄 / 計量経済学

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1.ネットが社会を分断する?

インターネット草創期の人々は、ネットは人々の相互理解を進め、世の中を良くすると期待していた。時間と空間を超えて多くの人が意見交換すれば、無知と偏見が解消され、世界はよくなっていくだろう、と。しかし、今日、ネットで我々が目にするのは、罵倒と中傷ばかりの荒れ果てた世界である。相互理解に資する建設的な会話はほとんど見られない。ネトウヨ、パヨクという侮蔑語が示すように、人々は相反する二つの陣営に分断され、果てしなく攻撃しあっているように見える。

ネットとはそういうものだという、あきらめに似た見解もひろがってきた。人間にはもともと自分と似た考えの人や記事を選ぶ傾向があり、それは「選択的接触」と呼ばれている。ネットでは情報の取捨選択が自由にできるため、この選択的接触が非常に強まる。自分と同じ意見の人をツイッターでフォローし、フェイスブックで友人になり、自分と似た見解のブログを読めば、接する情報は自分の意見を補強するものばかりになる。

同じ情報ばかりに囲まれると人々の意見は補強され、過激化していく。これはエコーチェンバー現象を呼ばれる現象で、ネットではそれが大規模に起きているのではないかというのである。もしそうなら、ネットのせいで過激な考えの人が増え、社会は極端な意見に分断されていくことになる。これは民主主義にとって望ましい事態ではない。

ネットは自由な言論の場である。その自由な議論の結果として分断が生じていることに注意しよう。誰も何も強制したわけではなく、意図したわけでもない。インターネット草創期の人々は自由な言論が広がることで、人々の相互理解が深まり、民主主義が良い方向に発展する事を期待していた。しかし、自由な言論が分断を生み、民主主義に悪影響を及ぼすとすれば嘆くべき事態である。昨今のネットをめぐる議論には、自由な議論の場が分断を生んだという悲観論のようなものが透けて見える。ネットの自由で我々が手にしたのは相互理解の世界ではなく、果てしない分断の世界ではないか、と。

しかしながら、である。ここで、ネットは社会を分断しない、と言ったら読者は驚くだろうか。罵倒と中傷が飛び交うネットが社会を分断していないとはどういうことか、疑問に思う方もおられよう。しかし、事実を詳細に分析していくと上に述べた懸念はあたっていない。ネットは社会を分断しない。以下、我々の研究を下敷きに(注1)、このことを示す3つの事実を示そう。

(注1)田中辰雄・浜屋敏、2019、『ネットは社会を分断しない』角川新書

2.分断が進んでいるのはネットを使わない中高年

まず、分断が進んでいるのは、年齢別に見ると、若年層ではなく中高年だという事実がある。これはネット原因説と矛盾する。ネットのせいで分断が進むなら、ネットを使う若い人ほど分断されているはずなのに、事実はまったく逆だからである。

このことを見るために分断の度合いを図る指標をつくろう。分断は政治的には保守とリベラルの意見の相違が極端になることなので、アンケート調査で人々の保守の度合い、リベラルの度合いを測ればよい。

アンケート回答者に対し「憲法9条改正に賛成か反対か」「原発は直ちに廃止すべきか」「夫婦別姓に反対か賛成か」など、保守とリベラルで対立しそうな10の争点について、強く賛成、賛成、やや賛成、どちらでもない、やや反対、反対、強く反対の7段階で選んでもらう。選択肢は7段階あるので、それらに-3点から+3点まで点数をふり、10の争点への答えの平均値をとる。点数を振る際はリベラルが好む方をマイナスに、保守が好む側をプラスにしておくと、この平均値はその人の政治傾向の大きさを示す数になる。プラスの値が大きいほど保守的、マイナスの値(絶対値)が大きいほどリベラルである。

図1はこの調査を10万人規模で行って得た政治傾向の値の分布である(調査時点は2017年8月、マイボイス社のインターネットモニター調査)。左にいくほどリベラルで、右にいくほど保守で、分布はきれいな山型となり、世の常として中庸な人が多い。分断とは極端な意見が増えることなので、この分布の左右の裾野の部分の人が増えることを意味する。

そこで分断度合いの指標として、この政治傾向の絶対値を使うことができる。絶対値は真ん中の0の点からどれだけ離れているかを示しており、いわば政治的な過激さの指標でもある。この値が大きいほど、分布の両端にいる人が多くなるので、社会は分断されることになる。

図1



図2



この分断度合いを年齢別にわけて描いて見たのが図2である。左から、20代から70代までのバーがあり、これを見ると分断度合いは次第に上昇している。したがって、分断が進んでいるのは中高年である。言い換えると、若い人は図1の政治傾向の分布の真ん中付近に集まるのに対し、中高年は両端の裾野の部分に集まっている。

比較のために男女差をみると、20代と70代の差(0.69-0.54)は男女の差(0.69-0.52)とほぼ等しい。すなわち20代と70代では、政治的過激さの点で平均的な男女の差と同じくらいの違いがある。これはかなり大きな差である。俗に高齢者ネトウヨという言葉があり、高齢者の保守方向への過激化が話題になるが、これが統計上も確かめられる(ただし、高齢者が過激化しているのはリベラル方向でも同じである)。

そして、過激化すなわち分断が進んでいるのが中高年だという事実は、ネット原因説と矛盾する。ネットを長時間見ているのは若い層であるから、もしネットで選択的接触が起こって情報源が偏るのなら、若い人ほど過激化し、分断が進んでいなければならない。しかし、事実はまったく逆なのである。これはおかしい。ネットが原因ならこうなるはずはない。

3.ネットの利用を始めると分断がすすむのか

そもそもネットを利用すると意見が強まって分断が進む、というのは本当なのであろうか。これを確かめるために先に調査した10万人に対し、半年後に再度、同じ調査を行った(回収は5万人)。この間に少数ではあるが、ソーシャルメディアの利用を開始した人がいる。彼らの分断度合いが上がっていれば、ネットの利用開始が原因で分断が進んだことの証拠になる。

これを試みたのが図3である。ソーシャルメディアとしてはツイッター、フェイスブック、ブログをとりあげる。それぞれ週に2~3回以上見る人を利用者と見なし、利用開始前と開始後の分断度合いを比較したのが図の青い実線である。比較対照のために、どのソーシャルメディアも使っていない人の場合もオレンジ色の点線で描いてある。

この図を見ると、フェイスブックの場合、利用開始にともなって分断度合いは0.573から0.559へと低下している。ツイッターでもブログでも、利用を開始した人の分断度合いは低下している。すなわちソーシャルメディアの利用開始とともに過激化するのではなく、むしろ穏健化しているのである。冒頭に述べたこととはまったく逆方向の変化であることに注意されたい。ネットで選択的接触が起こるなら、ネットの利用開始とともに情報源が自分の政治傾向にあうものばかりになり、保守・リベラルどちらかに分断されていくはずである。それなのに、事実は逆であり、むしろ両極端から離れ、穏健化している。

一体何が起きているのであろうか。ネットでは選択的接触が強いので人々の意見が過激化するという話をしていたはずである。あれはどこに行ったのだろうか。そこで、次に選択的接触の実態について調べてみよう。

図3







4.ネットで人は多様な人に接している

選択的接触の度合いを測るため、まず、ツイッターで活発に言論活動をしており、フォロー数も多い論客を27人選んだ。アンケート回答者に対し、フォローしているかどうかを尋ね、彼らの政治傾向の平均値別に並べたのが図4である。

この図でたとえば上から6人目の安倍普三(531)の0.68というのは、安倍普三をフォローしている人が10万人の中に531人おり、その531人の政治傾向(図1での値)の平均値が0.68であったことを示す。この値は安倍普三自身の政治傾向ではなく、彼のフォロワーの政治傾向であるが、選択的接触が働いていれば、その人自身の政治傾向に近くなるだろう。実際、図4で正の値をとった上半分の人を保守論客、負の値を取った下半分の人をリベラル論客と呼んでも違和感はない。以下の分析では論客たちをそのように分類することにする。

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