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座席60点、トイレ70点……新国立競技場どうなの? 観客目線で採点してみた - 河崎 三行

 1月1日、東京オリンピック・パラリンピック2020のメイン会場「新国立競技場」で、初のスポーツイベントとなるサッカー天皇杯決勝が行われた。

 五輪本番を想定したテストイベントでもあるこの試合のチケットを、幸運にも入手することができた。座席の位置は、2層目スタンド2階北西部分。さらに詳しく説明すれば、メインスタンドから見て左サイドの手前側コーナーフラッグがほぼ眼下に見えるブロックの最前列である。


©文藝春秋

 となれば、せっかくの機会だ。オリンピック時を想定しながら、観客としての立場でスタジアムのあれこれをチェックしてきた。満員状態でのビッグマッチで“シン・コクリツ”は果たしてどんな姿を見せ、何を感じさせたのか? これからレポートしていこう。

【外観】北京五輪のメインスタジアム“鳥の巣”に勝ってる!?

 スタジアムの内外でまず目を惹くのは、ふんだんに使われた木材だ。各層から外に向かって延びるひさしの裏側に等間隔でぎっしり細長い板が渡されていたり、スタンド上を覆う屋根の梁にも使われていたりして、設計者の隈研吾氏がテーマに掲げた“杜のスタジアム”と呼ぶにふさわしい。と同時に、強く“和”を感じさせる。

 例えば北京五輪でのメインスタジアムとなった北京国家体育場、通称“鳥の巣”は、世界的な建築家ユニットの作だけあって、一度見たら忘れられない独創的な外観をしている。しかし、初めて鳥の巣を目にした外国人があの外観から中国らしさを感じられるかといえば、かなり怪しい。

 その意味で新国立競技場は、全体的なフォルムや第一印象こそ強烈なインパクトを与えるものではないが、細かなディテール部分で日本を、東京を、世界の人々にわかりやすくアピールすることができているデザインではないだろうか。

 ちなみに試合中、ピッチ脇に設置された両チームのベンチの骨格材も、スタジアムのコンセプトに合わせて木製(あるいは木目調の金属?)だった。競技場全体でデザインの統一感を持たせる上で、いいアイディアだと思った。

採点:85点(印象批評で申し訳ないですが…)

【動線】とてもスムーズ。シミズオクト、グッジョブ!

 とてもスムーズに自分の座席までたどり着くことができた。

 場内外に掲出されたゲートやブロックの案内は過不足ないものだったし、チケット判読機付きの入場ゲートは、試合後にまとめて側面の壁まで動かせるので、多くの人々が一度に素早く退出できる。

 そしてなにより感心したのは、マンパワーだった。

 都営地下鉄・大江戸線「国立競技場」駅から地上に出るとまず、目の前の歩道に左右正反対の方向へ向かって歩く二つの人の流れができているのだが、近くに立っている係員に自分のチケットに書かれたゲート番号を伝えれば、どちらに向かって進むべきなのかきちんと教えてくれる。そして場内でも目当てのブロックにたどり着くまで、どこでどの係員に聞いても、適切な誘導をしてくれた。見たところ、そのほとんどがこの試合のためだけに雇われた学生アルバイトのようだったが、事前に周到な係員教育が行われたであろうことがうかがわれた。シミズオクト(新国立競技場や東京ドームなどの施設管理を行っている会社)、グッジョブ!

 もっとも、これが五輪本番ではどうなるのか。十分な施設知識を持つだけでなく、外国語対応もできるボランティアを、新国立を含めた各競技場に揃えなければならないのだ。大会組織委員会の頑張りどころのひとつだろう。

採点:100点(あくまで天皇杯決勝時点では、の話)

【スタジアム内】シート周りの狭さとカップホルダーに要注意

・シート

 天皇杯決勝直後から一番不満が上がっているのが、シート前後のスペースの狭さのようだ。

 確かに狭い。前を人が通る際は、立ち上がらざるを得ない。ついでに言えば左右のスペースも余裕がなく、冬の着ぶくれした状態だと、ちょっと体を動かせば隣の観客に触れてしまう。それでも冬はまだいい。夏のオリンピック時、半袖やノースリーブのシャツを着た恰幅のいい人同士が隣り合ったりしたら、お互いかなりビミョーな思いをするのではないだろうか……。

 とはいえ、シート周りのスペースをたっぷり取れば、当然収容人数は少なくなり、それはそれで問題視する向きも出てくるのだろうし。

 また、各座席の前にはカップホルダーが設置されているのだが、最前列は前のフェンスに固定されているからいいものの、2列目以降では、前の席の背もたれ裏にホルダーが取り付けられている。ここに、買ったばかりでなみなみとコーヒーが注がれているカップを置くとどうなるか? 前の観客が席を立った際、座面を跳ね上げるバネの力が強すぎ、そのバンッという振動で背もたれ後ろのコーヒーがこぼれてしまう光景を周囲で何度か目にした。これ、隠れた要注意ポイントである。

 カップが小さなコーヒーだから、まだ靴の前にこぼれるぐらいで事なきを得ていたものの、夏の観戦時の、大きなカップに注がれたビールだとしたら……オリンピック本番では、スタンドのそこかしこで阿鼻叫喚の声がこだましそうな気がする。

採点:60点(より多くの人々の観戦機会と、各座席での心地よさのどちらを優先させるかは、本当に頭を悩ませる問題なわけで……)

トイレは素晴らしいが、一つ問題が……

・座席までの階段通路

 これも不評だったが、確かに狭い。新国立完成後初のスポーツイベントとあって、スタンドの階段通路部分に二人並んで記念撮影をしている観客も少なくなかったが、そう立たれてしまうと前後の通行者が前をふさがれ、通り抜けることができなくなってしまうのだ。

 緊急時の避難路として考えても、オリンピック、パラリンピック後の改修工事で階段横の座席を縦1~2列取り払うぐらいの荒療治が必要ではないか。

採点:30点(惨事が起こってからでは遅いのです)

・Wi-Fi

 新国立は全席で無料Wi-Fiを利用できる。「Nationalstadium_Free_WiFi」にアクセスし、表示されたURLに自分のメールアドレスを入力して送信するだけでOKだ。速さも充分。日本人はもちろんのこと、海外からの観戦客にはうれしいサービスだろう。

採点:100点(インバウンド観戦客を、海外ローミングでのパケ死から救ったね)

・トイレ

 約6万人収容の新国立には、最大7万2000人を収容する横浜国際総合競技場の倍以上の男女トイレが設置されているという。そのおかげか、一緒に観戦していた編集者は、ハーフタイムでトイレの列に並んだ後、さらにフードコーナーに並んで買い物をしても、後半キックオフのかなり前に戻ってくることができた。トイレの床面積も広く、当然ながらまだ隅々まで清潔そのもの。

 ただひとつ気になったのは、大小とも便器が“低い”のだ。

 身長171センチ、自他ともに認める短足の私にして、小便器はちょうどよい高さ。確認のため座ってみた大にいたっては、少し座面が低くて使いづらそうだと感じた。障がいを持った方用の個室は別に用意されているから、もしかしたら子供の使用を想定してのことかもしれないが、だとしたら一部の便器で対応すればいいのではないか。スタンドのシート同様、こちらも大柄な欧米人観戦客の使用を考えていないように感じられた。まあトイレの場合は「低は高を兼ねる」から、放出角度を下方修正してもらったり、ちょっと我慢した姿勢で座ってもらえばいいのかもしれないが……。

採点:70点(でもやっぱりあれ、低いって!)

・ゴミ箱

 こちらも過不足ない数が設置されている。試合後には、ゲート外で袋を持ってごみの投入を呼びかける係員もいたので、試合後のスタンドやコンコースに紙コップなどが散乱するようなこともなかった。それでも五輪時には、文化の違いからごみを座席下に置いたままにしたり、場内の床にポイ捨てしたりする外国人観戦客もいるのだろうが、そこは目くじら立てないことが肝要かも。

採点:100点(オリンピックでもサッカーW杯のように、日本人観客の“ゴミ拾い隊”が出動するのだろうか?)

・ピッチ乱入者対策

 世界的なスポーツイベントとなると時折、神聖な勝負の場に乱入して雰囲気をぶち壊そうとする愚か者が出てくる。

 それを防ぐために他の競技場同様、新国立のスタンド前にはピッチに飛び降りることができないよう、ピット(掘り下げられた壕)がぐるりと巡らされている。

 しかし見たところ、わずかに死角があるのだ。ゴール裏スタンド両端の最前列あたりだと、横方向は機材などの搬入口に接しているのでピットがない。しかもそれほどピッチレベルからの高さもないため、飛び降りられないこともないのだ。1人、2人なら取り押さえられるだろうが、数人が連続してことを起こすとどうなるか……。

 あそこは警備員を多めに配置するなど、策を講じた方がいい。

採点:70点(広い世の中には、想像を絶するバカがいることも計算に入れておかなければ)

 スタンドの階段通路とシートは改善の余地ありだったが、新国立競技場は総じて、快適な観戦体験を提供できるスタジアムだと感じた。今後もラグビー大学選手権決勝などのテストイベントを経て、様々なフィードバックが行われていくのだろう。

 この東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場が、世界中から訪れた人々の心に残る競技場となってくれればいいのだけれど。

(河崎 三行)

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