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向井蘭『社長は労働法をこう使え!』

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リンク先を見る この本は、「経営法曹会議」という経営者側、資本側の立場に立った弁護士が書いている労働法活用本であり、タイトルのとおり、資本側への指南書にするつもりなのである。

 そうすると中身は超絶ブラックなことが書いてあるんだろうな、と思うんじゃないか。「プロ弁護士が教えるモンスター社員・ぶら下がり社員へのリアルな対応事例」なんつうカバーのアオリを見ると、いかにもそんな内容を想像できる。

 いや、見方によっては確かにその通りなのだ。

 ある見方に立てばこの本は次のような主張をしていることになる。

――日本の労働法は、工場労働者を前提にした古臭いもので現実に合わない融通の利かないものが多く、とくに解雇規制がひどすぎて、クビ切りができねーよ。労働者1人クビ切るのに2000万円覚悟しないといけなんだぜ? もめちゃう会社とかもめちゃう社員ってだいたい決まってるんだよ。絶頂期が忘れられない昭和な会社とか、ヘンにお人好しの経営者とか、給料が高い社員とか、健康不安がある社員とか。

――ぶら下がり社員は、教育・指導・配転で追い込め! モンスター社員は懲戒の積み重ねで追い込め! 残業代請求は本給を下げとけ!

 いや、弁護士なのでさすがに上記のようなことを法に触れるようには言っていない。「そういうふうに読める」ように工夫されている、と読むむきもあるわけだ。

 たとえば本書p.31~32には外資系企業で多く用いられているという「ロックアウト型退職勧奨」を紹介している。解雇は規制が多いが、退職勧奨はかなり自由にできる、という労働法の「穴」を使って、自宅待機、時間経過による退職金の目減りなどで労働者を追い詰める。

自宅待機を命じられた労働者は、周囲から冷たい目を向けられることで精神的に追いつめられていきます。また、時間をかければかけるほど退職条件は厳しくなります。そして遂にその状況に耐えられなくなって、辞表を提出するのです。(p.32)

 koeeeeeeeeeee!! ひどいじゃないかという批判に、著者の向井蘭はダイヤモンド・オンラインでいいわけしている。

退職勧奨をすることについては法的に問題ないことは事実だと考えています。また、「ロックアウト型退職勧奨」についても、手法の存在を知らしめることに意図があり、決して推奨するものではありません。

http://diamond.jp/articles/-/16733?page=3

 いやあ「退職勧奨に関する規制がゆるいことを上手に利用したリストラの手法」(p.31)って書いてあるし、どうみても「推奨」だろ。

 また、“解雇一発2000万円”というのは無茶な試算だ、という批判も多い。

これ、弁護士が書いてるの?「正社員の解雇には2千万円かかる!-社長は労働法をこう使え!」の怪しいミスと脱法行為 - Togetter

あの弁護士から回答が来たけれど…。続「正社員の解雇には2千万円かかる!-社長は労働法をこう使え!」の怪しいミスと脱法行為 - Togetter

 まあ、この論争を読むと、「ケース次第では2000万円という試算も絶対に成り立たないわけじゃないけど、わざと人口に膾炙するように大げさなこと言ってるだろ」というのが真実というところだろうか。

資本側が労働法をどう見ているか、戦術指南書

 ただ、ぼくは、資本側が労働法をどんなふうに見て、どうやって対策を練り、どんな戦術をとろうとしているか、ということを見るうえでは、かなり興味深い本であった。敵軍の作戦計画書とか読むのは「楽しい」だろ? 書物としての価値は決して低くない本だと思う。

 たとえば、話題の中心になっている解雇規制。

 それがいかにキツいか、ということが本書の主張の中心にあるわけだが、現実に起きていること、目の前のリアルな課題として何があるかといえば「首切り自由」「無法の横行」なのだ。

 

 「明日から来なくていいよ」と言われてあっさりクビを切られる――若い人に働く実態の聞き取りなんかをやっていると、こういう話がボロボロ出てくる。

 

解雇するスキル・・・なんかなくてもスパスパ解雇してますけど: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)

・10185(非女):有休や時間外手当がないので監督署に申告して普通解雇(使は業務対応の悪さを主張)(25 万円で解決)

・10220(正男):有休を申し出たら「うちには有休はない」その後普通解雇(使は「業務態度不良」)(不参加)

・20017(正男):残業代の支払いを求めたらパワハラ・いじめを受け、退職勧奨(取下げ)

・20095(派男):配置転換の撤回を求めてあっせん申請したら雇止め(不参加)

・20159(派男):有休拒否に対し労働局が口頭助言した直後に普通解雇(不参加)

・20177(派女):出産直前に虚偽の説明で退職届にサインさせた(不参加)

・20199(派女):妊娠を理由に普通解雇(不開始)

・30017(正女):有休申請で普通解雇(使は通常の業務態度を主張)(打ち切り)

・30204(非女):有休をとったとして普通解雇(使は当日申請で有休と認めず欠勤と主張)(12 万円で解決)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-a1c3.html

 その現実に照らして本書を読むと、こうした無数にあるクビ切りが、多くは根拠のない、かなり乱暴で無法なものであるということがわかる。

 たとえば、本書には期限を定められた契約社員のなかで3回以下の更新の人でも自由にクビを切るわけにはいきませんよ、と向井は言うのだ。

 向井は、日本の労働法が期間雇用の規制が「非常に甘い」(p.64)ことを認めつつ、契約社員のような期間を区切って雇う人のありようを次のように説いている。

 本来、契約社員は臨時の仕事をしてもらうための制度です。

 ところが、経済状況が悪化して正社員が雇えなくなってくると、すぐに人員を削減できる契約社員を多用するようになりました。しかし、これは契約社員制度の本来の目的とはずれているといえるでしょう。

 契約社員に臨時に発生するわけではない仕事や、正社員と同じ内容の仕事をさせており、そのような契約社員が常時いる場合、契約回数によらず雇い止め…をできない場合があります。たとえ契約を更新したのが一回だけでも、会社側が負ける可能性があります。

 裁判所は継続して仕事をしてもらう戦力として契約社員を雇ったと認定し、仕事がなくなったからといって契約を更新しないことを許しません。よく判決では「雇用継続に対する期待を保護する」などといって雇い止めを無効と判断しますが、要するに正社員と同じ仕事をさせながら、いざいらなくなったら簡単に契約を打ち切るということを認めないのです。(p.64~65、強調は引用者、以下同じ)

 まあ、会社側はこの「臨時の仕事だった」という屁理屈を用意してくることはあるんだけど、世の中であっさりクビを切られる契約社員の多くは、こんなことはふまえられていない。

 だから、乱暴きわまるやり方でクビを切っている経営者に対して、現行の労働法はいろいろと足がかりを作れる、ということがわかるのだ。

 それだけでなく、ここに示されている有期雇用のあり方は、たとえば、左派の代表格の一つである共産党の主張によく似ている。志位和夫はこんなことを言っている。

わが党の提案は最後に、労働基準法を改正して、有期雇用は合理的な理由のあるもののみに厳しく制限する。たとえば海の家のアルバイトや、ある一定期間のみのプロジェクトなどに厳しく制限することを提案しています。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-07-27/2008072704_01_0.html

 ぼくの勉強不足のせいであろうが、そんなことを会社派弁護士の口から聞こうとは思いもよらなかったのだ。「契約社員は有期雇用なんだから期間が終わればいつでもクビを切れる。更新頻度が低ければなおさらだ」みたいなことでも言うのかと思っていた。

解雇は「面倒くさい」、雇い続けて働かせよう

 そして、さっき書いたように、「モンスター社員」「ぶら下がり社員」をどう解雇するか、という指南をしているわけだけど、これがけっこう「面倒くさい」。向井は「解雇のための7つのポイント」というのを記しているけども、注意や指導をかなり長い期間やって、しかもそれは証拠が必要で、抽象的でなく、具体的な改善目標を労働者と合意しながらちゃんと持ち、それを何回もやってみたか……とか、「あちこちでクビ切られているやつの多くは絶対こんなプロセス経てねーだろ」というものになっている。

 だから、向井はあんまり解雇をおススメしていない。

 他に「いい方法」があるからだ

 残業規制は、協定を結べばどんどん残業させられるし、「上限はある」といっても罰則も強制力もない。

 人事異動の会社権限は向井が「違和感を感じる」(p.76)というほど強力なものがある。

 パワハラの訴えには、裁判所はほとんど興味を示さず、あまりおびえなくていい。

 つまり。

 日本の労働法は解雇規制は厳しいけど、配置転換や残業の規制はかなりユルい。期間雇用の規制もユルい。パワハラの訴えにもユルい。だから、企業に残して再教育したり適材適所の居場所を見つけ、できるだけ働かせてモトをとることを考えた方がいい、忙しいときには期間雇用も活用したら――と言っているのである。

 一時的な人手不足には期間雇用や時間外労働を活用する、能力不足の社員には配置転換、退職勧奨などの対策を練る、パワハラを恐れず厳しく教育指導して、社員を鍛え直す。会社にできることは意外と多いものです。

 これらをうまく利用し、解雇はできるだけ避けましょう。安易な解雇はトラブルのもとであり、トラブルが発生した場合、残念ながら使用者側はかなりの不利な立場に立たされるはずです。(p.36)

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