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カルロス・ゴーンが大統領になる日、「逃げ」の損得勘定と本質 - 立花 聡(エリス・コンサルティング代表・法学博士)

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ついに逃げた。日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告はプライベートジェットに乗ってレバノンに逃亡した。大手メディアから個人SNSまで世間は騒然とした。嵐のような報道を眺めていると、やはり「逃げ」というキーワードに世論の関心が集まったようだ。あえて善悪論を別として、少しばかりアングルを変えて、ゴーン氏の事例を引き合いに、「逃げ」を経済学的な大所高所までいかなくとも、ビジネス界あるいは個人の損得勘定といったところから、2、3の観点を提示したいと思う。

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「逃げ」はプロの仕業である

まず、大方の関心が寄せられているゴーン氏の「逃げ方」。

楽器の箱に隠れてとか何とか、ゴーン氏の逃げ方がどうであれ、まず日本はザルのような危ない国であることだけは証明された、という意見があるが、概ね同意する。世界を旅しいろんな国に行っているが、日本ほど「性善説」的な国はほかにない。この話を取り上げると長くなるので、別の機会に譲りたい。

とはいっても、一国の出入国検査をすり抜けて国外に逃亡するわけだから、相手が堂々たる国家公権力であるから、そんな簡単なことではないはずだ。

ゴーン氏は保釈中で東京の住所が監視下に置かれている。そのうえ、彼は外国人で特徴のある人相をしており、しかも超有名で渦中の男である。自宅から抜け出すだけならまだしも、東京から関西空港までの540kmの距離をどう移動するか。飛行機や新幹線といった公共交通機関は使えない。車の移動だと、6~7時間もかかる。

さらに関西空港では飛行機に乗るための諸手続にも時間がかかる。離陸してから日本の領空から出るまでの間に大きなリスクを抱えている。いざ自宅から失踪したことが露見した場合、当局が直ちに緊急措置を取るだろうから、そこで脱出計画が水泡に帰す可能性もある。飛行機が離陸してからの通過空域も関連国当局と日本の連携があった場合も大きなリスクだ。もちろん、乗り継ぎ地のトルコも安心できない。

だから、楽器箱に隠れてプライベートジェットに載せられて逃げたとか、そういう簡単なことではない。プロ軍団の助けをなくして逃げることができない。報道では「民間警備会社」が係っていたとされているが、一民間警備会社がこの逃亡計画を見事に遂行し、成功させるとはとても思えない。逆にそれがある種のカモフラージュなのかもしれない。

ゴーン氏は以前ルノー内部のDPGという部門に係わっていたといわれている(1月3日付、仏ル・ポワン誌)。「DPG」とは、「集団保護部」で企業のなかにある、CIAとFBIが合体されたような組織(部門)である。メンバーは、国家情報機関のOBといったプロから構成されているという。まさに「プロ軍団」。逃亡事件はもちろん、国家は関与しないわけだが、しかし国家級のプロが民間レベルで係わることが可能であろう。

思うに、楽器箱とかそういう興味本位のネタは、本当かもしれないし、嘘かもしれない。真実を闇に葬らせるために、意図的に流したカモフラージュ的な偽情報という可能性もある。だとすれば、情報操作担当のプロも欠かせない。

「逃げ」のコストと損得勘定

プロには金がかかる。ゴーン氏が逃げて、保釈金の15億円が没収されることは確かにそうだが、「逃げ」のコストはそれだけでは済まない。プロ軍団はリーダー格の人物や傭兵のような実働部隊メンバーをも入れると、数億円以上の報酬を払う必要があろう。というのは、数日だけで終わる仕事ではないからだ。企画段階から予行演習、そして本場までの所要期間は最低でも1カ月以上はかかるだろう。何よりも、違法行為だから関係者が後日法的責任を問われ、裁判や収監など多大なリスクに直面するから、その分たっぷり報酬を用意しなければ引き受けてくれないだろう。

さらに、オリジナル計画が途中で頓挫したときに備え、「プランB」の準備にもコストがかかる。没収される保釈金に、プロ軍団の報酬や飛行機のチャーター費用、諸々のコストを加算すると、ゴーン氏の逃亡コスト総額はおそらく25億円から30億円くらいではないかと推測する。

一般の日本人からすれば、とんでもない高額な「逃亡費用」である。ゴーン氏にとってこの費用は何を意味するか。単純計算だと、ゴーン氏の年収総額約19億円(2018年度分)。資産総額は未公表だが、約1000億円(推定)としよう。脱出所要費用は年収分以上にあたり、資産総額の約3%。たとえば、3000万円の資産をもつ人なら、100万円弱の出費になる。

この出費の合理性を判断するうえで、脱出しなかった場合のコスト試算も必要になってくる。脱出しなかった場合、裁判は控訴や上告も含めて確定するまで、ゴーン氏は今後1~2年日本に留まらざるを得ない。下手すると実刑で収監された場合、数年分の収入の少なくとも一部が吹っ飛び、経済的損失はざっと100億円規模に上る。さらにキャリアの中断や加齢といった不利要素、諸般の機会損失を折り込むと、損失がさらに拡大する。この損得勘定を天秤にかければ、自ずと結論が見えてくるだろう。

ここまでの試算は、純粋たる数字の世界で、容疑がかかったままの逃亡であるから、金銭的な計算だけではすまない。

まず法律面をみると、出入国の問題を別として、ゴーン氏の出国は逃走罪に当たらない。勾留中に逃走した場合は、逃走罪(刑法97条)が成立する。逃走罪の対象になるのは、現に刑事施設に勾留されている者だけ。保釈中は刑事施設で勾留されているわけではない。たとえ逃亡しても、逃走罪は成立しない。

では、ゴーン氏の弁護士・身元引受人に監督責任があるのか、これらの関係者に迷惑がかかるのかというと、身元引受人が被告人の監督を誓約していたとしても、法的責任までは負わない。そのため身元引受人が裁判所や捜査機関から責任を追及されることはない。一応、大きな迷惑はかからないということである。

次に必ず出てくるのは、「逃げ」に対する道徳的な判断である。ゴーン氏は卑怯な「泥棒」と批判する人もいるが、泥棒が重犯罪扱いにされたり、他の泥棒が罪不問だったりしていると、さすがに泥棒も逃げるだろう。「逃げるが勝ち」だから。逃げた場合、潔白も証明できなければ、法的なクロも確定されない(見なされるかもしれないが)。ある意味で永遠の容疑者であり続ける。故に、天秤にかければ、逃げが最善の選択肢になる。

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