記事

世界最大の児童ポルノサイトを運営していた「両親と同居」22歳韓国人青年の正体 - 高月 靖

 カルロス・ゴーン日産自動車前会長のレバノン行きで、にわかに話題を集めた “犯罪人引き渡し条約”。日本は米韓2カ国とのみ条約を結んでいるが、韓国の締約国はアメリカ、日本をはじめ計28カ国に及ぶ。

【写真】閉鎖された児童ポルノサイト「Welcome to Video」

 その韓国でいま犯罪人の引き渡しを巡り注目されているのが、20代前半の青年ソン・ジョンウ。世界最大といわれた児童ポルノサイトを運営し、アメリカ、イギリス、ドイツ、韓国など32カ国の司法当局から捜査対象とされた人物だ。昨年10月に捜査の詳細な結果が公表され、少なくとも18カ国でサイト利用者337人が検挙されていたことなどが明らかとなり、国際的に大きなニュースとなった。そのうち223人が韓国人だったことから、とりわけ韓国国内で重く受け止められている。


若者で賑わうソウルの繁華街。今回の事件で摘発されたのは当時22歳の男だった ©文藝春秋

 ソンは韓国で行われた昨年5月の控訴審で懲役1年6カ月の実刑判決が確定し、現在服役中。出所は今年4月の予定だ。だが同時にアメリカでも児童ポルノの宣伝・頒布など9つの容疑で起訴されており、米当局は出所後の引き渡しを求めている。

 アメリカでは児童ポルノ製造が最高で懲役30年、頒布などが同じく20年と量刑が重く、引き渡された場合は終身刑に等しい懲役を宣告される可能性もある。韓国の法務部(法務省に相当)は現在のところ、引き渡しに応じるか否かまだ公表していない。

ビットコイン4000万円分を荒稼ぎ

 ソンが運営していた児童ポルノサイトの名前は、“Welcome to Video (W2V)”。2015年6月の開設から2018年3月に逮捕されるまで、128万人ものユーザを集めた。ユーザはビットコインで料金を支払うか、代わりに新しい児童ポルノを投稿することで、見たいコンテンツにアクセスできる仕組みだ。ソンはこうして犯行当時約37万ドル(約4000万円)相当のビットコインを手にしていた。

 ソンの自宅寝室からは動画約25万点など、データ容量にして8TB分の児童ポルノを収めたサーバが押収されている。そのうち45%は、米当局がまだ存在を確認していない映像だった。捜査を経て、アメリカとヨーロッパの当局はサイト利用者に虐待されていた少なくとも23人の児童を保護。被害児童のなかには、生後6カ月の赤ん坊までいたという。

 ソンの事件が韓国社会で注目される理由は、もう1つある。問題の児童ポルノサイトが、通常の方法ではアクセスできないインターネットの領域 “ダークウェブ” で運営されていたことだ。

 韓国でも薬物や不正入手した個人情報の売買などダークウェブ絡みの事件はそれまで起きていたが、“世界最大の児童ポルノ事件” の舞台となったことで一気にその知名度が高まった。昨年11月10日には、警察庁長官がダークウェブの捜査態勢を拡大すると宣言。また12月19日には女性家族部(省庁の1つ)長官が “ダークウェブ違法情報追跡システム” を開発すると述べた。

“足がつかない”ネット領域に集う人々

 ただしネットワーク上で情報の発信源を突き止めるのは、極めて困難とされているのが実情だ。

 通常のインターネットは、端末ごとの識別番号=IPアドレスの記録を手がかりに発信者の身元が特定される。専用ツールによる通信でこれを隠蔽し、違法な情報やファイルのやり取りをしても “足がつかない” サイト群が、ダークウェブの実態だ。

 IPアドレスの隠蔽に用いられる代表的なツールに、“Tor(トーア)” がある。Torはネットワーク上の端末をランダムに3回経由しながら暗号化された通信を行い、発信元の特定を防ぐ。互いの素性を知らない運び屋たちが、“ブツ” を道端のゴミ箱などに隠しながら順番に受け渡していくようなものだ。

 Torの土台となったのは、90年代に米海軍調査研究所が取り組んでいた匿名化技術。後にインターネットの匿名性を追求する非営利プロジェクトとして、開発が進められた。2010~12年の “アラブの春” や2013年の “スノーデン事件”、またウィキリークスの運営にあたって、情報発信者の保護に活用されてきた経緯がある。

 一方でその匿名性の高さから、犯罪にも悪用されてきた。ダークウェブは児童ポルノ、ドラッグ、銃、クレジットカード情報などの違法な売買が横行していることでも有名だ。日本も例外ではなく、直近では2019年11月にマンガ家の男が児童買春・ポルノ禁止法違反の疑いで摘発された。

アメリカでは捜査が及んだ2人が自殺

 ソンもTorを利用し、自分のサーバのIPアドレスを隠蔽していた。にもかかわらず摘発に至った決め手は、ビットコインの決済情報だ。米当局の調査官らは情報提供を元に、囮の会員アカウントを作って実際にビットコインを送金。その行方を解析した結果、アメリカの両替所に行き着いた。そこに登録されていた個人情報から、ソンの身元が判明したわけだ。ソンの逮捕でサイト運営は止まったが、当局は一時的なシステムの更新と偽ったまま捜査を続けた。

 ソンは2018年3月時点で22歳。韓国中東部・忠清北道のマンションで、両親と暮らしていた。韓国の裁判所はソンが不遇の成長期を過ごしたこと、また2019年4月に結婚したことなどを勘案し、懲役1年6カ月という軽い刑を言い渡した。

 だが欧米で摘発されたサイト利用者への刑罰は容赦ない。377ドル(約4万円)相当のビットコインを支払って2686点の動画をダウンロードした米ワシントンD.C.のシェフは、15年の懲役を言い渡された。動画のダウンロードと視聴それぞれ1回で摘発されたテキサス州の元政府機関職員は、70カ月の懲役に加えて計4万5000ドル(約490万円)の支払いを命じられている。また米司法省によれば、捜査令状を発行された容疑者2人が自殺したという。

 20代のソンもアメリカに引き渡され、重い刑罰を受けるのか。韓国法務部の対応が注視されている。

(高月 靖/週刊文春デジタル)

あわせて読みたい

「児童ポルノ禁止法」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    橋下氏 コロナめぐり識者に苦言

    橋下徹

  2. 2

    独善的な告発医師の下船やむなし

    中村ゆきつぐ

  3. 3

    クルーズ船で横浜の飲食店が悲鳴

    田中龍作

  4. 4

    安全無視? 日本の危機管理に呆れ

    ESQ

  5. 5

    夫の性犯罪発覚で妻が味わう屈辱

    幻冬舎plus

  6. 6

    サブウェイの対面注文が「怖い」

    幻冬舎plus

  7. 7

    韓国人観光客が消えた対馬の窮状

    NEWSポストセブン

  8. 8

    3日で5倍 韓国のコロナ感染急増

    木走正水(きばしりまさみず)

  9. 9

    中居正広「登る山を探している」

    SmartFLASH

  10. 10

    「神」の不倫に困惑した少年時代

    いいんちょ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。