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【106カ月目の浪江町はいま】〝復興〟一辺倒の五輪にNO!「なぜ水素工場を聖火リレー?」「町のありのまま発信して」怒り、首かしげる浪江町民。

「何が〝復興五輪〟だ。メチャクチャだ」、「あんな聖火リレーで〝復興〟をアピールされても困る」─。5日、福島県二本松市の復興公営住宅「石倉団地」で開かれた2回目の「餅つき交流会」(安達地方農民連など主催)で、今夏に開催される〝復興五輪〟や3月の聖火リレーに対する怒りの声を多く聞いた。町内では家屋解体が進み、住民の帰還も進まない。しかし、聖火リレーや五輪では原発事故後のハコモノ整備ばかりが〝復興〟として伝えられる。これまでも「希望の牧場」の吉沢さん飯舘村民の想いを伝えて来たが、浪江町民も怒っている。


【「本当は津島を走って欲しい」】

 「おかしいよね。今から何とか変えられないんですか?町役場や浪江駅の周辺を聖火リレーするのならまだ分かるけど、そんな何とか工場なんて走って〝復興〟を強調されてもねえ」

 町内で営農再開に取り組んでいる60代女性はガッカリした表情で話した。浪江町は、福島ロボットテストフィールド浪江滑走路からスタートし、福島水素エネルギー研究フィールドでゴールする約600メートルが聖火リレーのルートとして採用された。浪江町役場から徒歩で約1時間もかかるような場所を走って何が伝わるのか。福島市への避難を続けている50代女性は、まさか水素工場などを走ると思わず、聖火ランナーの募集に応募していた。

 「自己PRには『町内を走りたい』って書いたんです。当然、(津波で壊滅的な被害を受けた)請戸小学校の辺りとか町なかを走るものだと思っていましたから。〝復興〟のためではありませんよ。走る事で今までお世話になった事に対する感謝を伝えたかったんです。『おかげさまで頑張ってますよ』と。でも残念ながら落選しました」

 浪江町民と二本松市民が復興公営住宅「石倉団地」(福島県二本松市油井)の集会所に集まった。「原発避難でバラバラに離散してしまったから、こういうイベントでも無いとなかなか会って話す機会が無い」と、漬け物を持ち寄り、再会を喜んだ。中には抱き合って再会を喜ぶ町民もいた。これが2011年に起きた原発事故の現実だ。

 自治会長の田村智則さん(58)は自ら杵を振り上げて餅をつき、マイクを握って交流会を盛り上げながら、言葉少なにこんな本音を漏らした。

 「結局、オリンピックも聖火リレーも国の〝コマーシャル〟なんだね。そうとしか思えないな」

 いまだ帰還困難区域になっている津島地区から交流会参加した男性も「初めから〝復興五輪〟なんかに興味無いよ」と語気を強めた。「オリンピックにあんなにお金を使って、喜ぶのはゼネコンだけだよ」。

 本当は、世界の人々にいまだ厳しい汚染の続く津島地区を見て欲しい。戻りたくても戻れない現状を知って欲しい。だから、国道114号線を聖火リレーして欲しいという想いもある。「でも、あんな放射線量の高い所を走らせるのは人権侵害だからね」と複雑な表情で男性は話した。

 餅がつき上がった。参加者はあんこやきな粉、大根おろしにまぶされた餅を味わった。笑顔が弾けた。雪が舞い始めた。

もともと、浪江町民が考えていたのは「2050年頃にオリンピックのような国際大会を承知出来たら良いな」という構想。しかし、実際には原発事故の被害を受けた当事者の想いとは大きくかけ離れた。聖火リレーも町役場や浪江駅などとはほど遠い場所を走る。これでは多くの町民が首をかしげても無理も無い

【「なぜ『五輪で復興』なのか」】

  「まちづくりNPO新町なみえ」などが2012年8月に発表した「浪江町~復興への道筋と24のプロジェクト」の中では、数十年後のイベントとしてオリンピックのような国際大会を招致。世界に復興を成し遂げた浪江町の姿を発信したいと盛り込まれていた。原発事故からわずか10年足らずで〝復興五輪〟が出来るなど考えもしていなかった。当時の関係者が餅つき会場の一角で首をかしげた。

 「オリンピックそのものが私たちが考えていたものと違うんですよ。僕らが考えていたのは、原発事故から30年40年経って復興がある程度形になった時点の話。しかも、支援をしてくださった世界の方々に御礼を伝えるという意味で国際大会を浪江で開催できないかというものでした。それが、いつのまにか〝復興五輪〟になっちゃった。何なんだって言いたいですよ。まあ、オリンピック自体が商業主義だから仕方ないですけどね」

 暖冬のはずが気温はグングン下がり、チラチラと舞っていた雪は本降りになった。積もるほどでは無いが寒さが肌に刺さる。男性の怒りは収まらなかった。

 「オリンピックと復興ってどう関係するんですか?野球とソフトボールが福島市で行われますが、『勇気を与えたい』とか『復興を後押ししたい』とか言っているのが新聞記事になっていました。どんなプレーが勇気を与えるのか、何でスポーツが復興を後押しするのか。何だかおかしいなと思いますよ。そんなに復興を後押ししたいのならオリンピックなどやらずに、そのお金を被災3県に寄越せば良いんですよ」

 津島地区からの避難を続けている馬場績町議は「被災地のありのままの姿を伝えて欲しいですよ。なぜそこを避けるのか。家屋解体が進む町なんか映したら〝復興〟が進んでいるというアピールにはならないからなんだろうけど。本当は津島地区を聖火リレーして欲しい。本当はね」と話した。今後、聖火リレーのルート選定に町がどの程度関与したか、確認するという。



原発事故でバラバラにされてしまった浪江町民が再開を喜び、二本松市民との交流を楽しんだ「餅つき交流会」。午後には「浪江まち物語つたえ隊」が紙芝居を披露した。あちらこちらで笑顔が弾けたが、五輪が近づき復興一辺倒の風潮に対する疑問の声も多く聞かれた=二本松市油井の復興公営住宅「石倉団地」

【「両面きちんと伝えて欲しい」】

 午後には、「浪江まち物語つたえ隊」が「大堀相馬焼き物語」などの紙芝居を披露した。アニメーション映画「無念」の上映会は500カ所を超えたという。国内だけでなく、アメリカやフランスなどでも上映された。依頼に応えたい、複数の会員が語る事で様々な視点で浪江町の現状を伝えたいという想いが強いが、交通費のねん出だけでも厳しいという。

 「つたえ隊」の小澤是寛会長(74)が怒りをあらわにした。

 「聖火リレーのルートは誰が決めたの?あんなところを走ったって仕方ないじゃない。ふざけるなって言いたいよ。浪江町を走るのなら、なみえ創成小中学校から役場まで。もしくは町役場から浪江駅までだよ。考え方が大間違いですよ。何が〝復興〟ですか。ハッキリ言ってメチャクチャだ。報道も復興一辺倒では無くて、両面をきちんと伝えて欲しいね。県も私たちの活動にもう少し予算をつけてくれたら発信出来るのに…そういうところに金を使って欲しいよ」

 交流会で、小澤会長は「バラバラになってしまった浪江町を忘れないで欲しい。避難生活など原発事故後に起きた出来事を記録に残したい。風化をさせたくないんです」と挨拶した。

 地元紙・福島民友は元日の1面トップに、東京五輪をテーマにした座談会を据えた。内堀雅雄知事や橋本聖子五輪担当大臣、山下泰裕JOC会長に加え、司会を務めた五阿弥宏安社長の写真を大きく掲載した。浪江の人々は、県と一体となって〝復興五輪〟を盛り上げるという意思の表れだったと口にした。果たしてそれが、原発事故被害者の望んでいる事なのだろうか。大いに疑問がある。

 「原発事故は忘れたいけど忘れられない出来事。私たちと同じ想いを二度と味わわせてはいけない。その一心で活動を続けているんです」

 小澤会長の想いはしかし、聖火リレーや復興五輪では伝わらない。

(了)

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