- 2020年01月04日 11:15
米政治学者が警告「米中は流血戦争もありえる」
1/2米中は衝突を回避できるのか。米国で長く国防長官諮問委員を務めた政治学者・グレアム・アリソン氏は、産官学の各界が連携する「日本アカデメイア」主催のシンポジウム「東京会議」出席のために来日した。「トゥキディデスの罠」という言葉の考案者としても知られるアリソン氏は、過去の歴史を例に取りながら、2つの超大国の近未来を予測した――。(第4回/全5回)

トランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席(米フロリダ州パームビーチ)=2017年4月6日 - 写真=AFP/時事通信フォト
■イデオロギー対立は、冷戦終結をもって終わったはずだった
――アリソン氏は安全保障のスペシャリストで、特に中国問題に精通している。著書『米中戦争前夜』は日本でも話題になった。そのアリソン氏は、30年前の冷戦終結時に予測した未来と現状のずれを指摘する。
冷戦の終結が宣言されてからちょうど30年です。当時、心あるほとんどのアメリカ人や日本人は、冷戦の終焉を迎えて、歓喜しました。有史以来、人類は何千年にもわたってイデオロギー的な戦いを繰り返し、それによって人間の行動が支配されてきましたが、そのようなイデオロギー的対立は終わったということです。
民主主義と市場経済、諸国間の平和的な関係が恒久的なものになると思ったのです。私たちはもうイデオロギー対立とは関係なくなり、今後はいかにして社会を統治していくかを考えればいいということです。
あちこちの国にマクドナルドがあって、それぞれの国民は(同じ)ハンバーガーを食べるのに、お互いに戦うというのは非常に奇妙だ。30年前、冷戦が終わった時、多くの人はそう思った。今では信じられないことですが……。これは我々が現在、いかに混沌とした社会に生きているかを思い出すには良い材料だと思います。
■もし米中が核戦争を起こせば、人類は滅亡する
――アリソン氏は「トゥキディデスの罠」という言葉の考案者だ。古代ギリシャで覇権国スパルタと新興国アテネが約30年にわたって戦った「ペロポネソス戦争」を記録した歴史家トゥキディデスは、新興国が覇権国を脅かすことが戦争の要因になるとした。新興国が覇権国を脅かし、お互いが望まない事態に進むことが「トゥキディデスの罠」。それは今の米中関係にぴったり当てはまる。
今は20世紀初頭の状況に近い。当時は進歩、開放、民主主義が世界を包む素晴らしい時を迎える条件が全て整っていましたが、2回の世界大戦が起こってしまった。それは今の危険な状況と似ていると思うのです。私がこれまで焦点を当ててきたのは「トゥキディデスの罠」であり、中国のような新興国が台頭して巨大な覇権国であるアメリカと対立するという点です。

――米中は戦争に至るしかないのだろうか。それは第3次世界大戦の勃発を意味するのだが……。
第1次世界大戦後に教訓はありましたが、失敗しました。第2次世界大戦後にも教訓があったのに失敗しました。私自身は第3次世界大戦については心配しています。米中間で本当に大規模な戦争が起きるのではないか、ということです。そうなると核戦争になるでしょう。
米中両国が核戦争を起こせば、誰も地球上に残らないのではないでしょうか。戦争から教訓を得て世界秩序をつくろうという人が全部、この世から去っているのではないかと思います。
■中国の躍進に日米はどう対応すべきか
(元英首相の)ウィンストン・チャーチルは「過去を遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう」と言っています。従って、この私に突き付けられた問題に対応するために振り返ってみたいと思います。日本やアメリカ、そしてその他の国々が今日の中国の挑戦に対して何ができるか、提起された問題を考えたいと思います。
具体的には2つの問題を検討しています。1つ目は、2大国対立という歴史から得られた教訓で、我々が意識すべきことは何なのかということです。2つ目の疑問が、日米は対中政策を策定するに当たって、これらの教訓から何を学ぶべきかということです。この「トゥキディデスの罠」を日米中は避けることができるかということです。
その中で、5つの疑問点について考えてみましょう。
1.大局的な問題は何なのか2.構造的な変化について。冷戦終結時の一極構造の時代以降、米中の相対的な力に一体何が起こったのか
3.米中間の対立と競争は不可避なのか
4.第3次世界大戦に発展するような流血が起こる戦争は避けられないのか
5.今日のワシントンや北京において政権は徐々に覇権争いに向かっているが、指導者あるいは国政を担っている人たちは「トゥキディデスの罠」から逃れる道を見つけられるのか
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