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「教員にタメ口」でも麻布が生徒を怒らないワケ

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■教員を心から慕っている思いがひしひしと感じられる

ちなみに、麻布の教員の中で麻布出身者は全体のおよそ8分の1程度らしい。平先生によると、麻布生たちはある意図を持って敢えて教員と対立してみせることもあるのではないかと指摘する。

9月末~10月初旬に行われる運動会。 全学年を縦割りとし、1組(赤)・2組(青)・3組(緑)・4組(桃)・5組(白)・6組(黄)・7組(黒)の7クラス対抗で行われる。/「麻布中学校 麻布高等学校」ウェブページより

「文化祭でも運動会でも生徒たちで組織される実行委員会が責任を担います。一応、教員が監督はするのですが。でも、自分たちで好きなように運営したいという思いが強い。さらには、下級生の支持も集めなくてはいけない。そういうところでポーズとして教師に『敵対』してみせるということがあるのでしょう。『教師の言いなりになんか俺はならないぜ』というのはある意味『利益的』な側面からくるのでしょう。そのポーズが内部結束につながることがありますしね」

しかし、である。麻布の卒業生たちに取材をして、在学中の思い出話をしてもらうと、そこには必ずといっていいほど、教員の固有名詞(そのほとんどが渾名)が登場するのである。彼らが教員を心から慕っている思いがひしひしと感じられたのだ。

■「舐めてかかっているように見えても絶対的な敬意を持っていた」

卒業生の一人は教員に次のような思いを抱いていた。

「麻布生を観察していて思ったのは、どんなに先生を舐めてかかっているように、あるいは、どんなにバカにしているように見えても、それぞれの先生に凄いところがあるというのはみんな分かっているので、その部分については絶対的な信頼、敬意は持っています」

何人もの麻布卒業生に取材して感じたことだが、彼らは一様に口調がフランク、悪く言えば生意気な雰囲気があったのだが、不思議なことにそれが彼ら独特の愛嬌になっていて、決して悪い感じは受けない。

そう口にしたら、一人の卒業生が微笑んだ。

「それ、言われて一番嬉しいことです。麻布生って『嫌われない程度のフランクさ』は中高生活の中で身につけるようになっていますね。どうしてだろう……」

■窃盗を繰り返した麻布生は退学にされず、京大に合格した

この麻布生のスタンスは中高時代の教員との関係の中で培われたのではないかとわたしは睨んでいる。

ある卒業生によると、麻布の生徒たちは教員たちから「守られている」という感覚を持つという。

麻布からは東大だけでなく京大へ進学する生徒も多い - 写真=iStock.com/Cedar_Liu

「麻布の先生たちって、基本的に生徒放任なのですが、失敗したときのアフターケアがしっかりしている。『俺たちが全部見ていてやるから、お前ら好きにやれよ』というスタンスです。普通の学校なら何か問題を起こしたら罰則が与えられるじゃないですか。ところが、麻布はそうではない。失敗したあとに、先生たちがはじめて親身に対応してくれるんです」

麻布の教員は生徒たちを温かく、ときには辛抱強くその成長を見守る雰囲気があるらしい。一人の卒業生は友人でもある「問題児」を例に挙げて、そのことを説明してくれた。

「先生たちに怒られることは多いですよ。でも、生徒を即退学になんかしない学校です。なんやかんやでぼくたちのことを抱きしめてくれるんだな、支えてくれているんだな、というのは当時から感じていましたね。たとえば、京大に進学した友だちは窃盗を繰り返しめちゃくちゃ長い謹慎を喰らっていました。普通の学校ならすぐ退学させられるでしょう。でも、麻布の先生は忍耐強く、そいつの更生を見守っている。そういえば、そいつはいまだに我が物顔で麻布に遊びに行っていますよ」

■現校長「悪いことをしたからと学校を追い出すのは、教育の放棄」

別の卒業生も同じようなことを口にする。

「ぼくの代の麻布では、途中でドロップアウトしたヤツはいないです。どんなに悪いことをしたとしても、学校側はソイツが更生するまで待つという姿勢でしたから。それに、麻布の先生って成績ヤバそうなヤツには補習したり再試験をしたり、結構細やかにやっていますね」

この点を平先生に尋ねると、笑顔でこう返してくれた。

「いったん預かった子はね、ウチに期待をして入ってきたわけだから、一人前の青年にして社会に送り出すのが使命だと思っています。たとえ、在学中に悪いことをしたからといって学校を追い出してしまうのは、教育を放棄することと同義ですからね。生徒がこちらの指導に従う限りは最後まで面倒をみようと考えています。卒業生たちがそういう点を感謝してくれているのは実に嬉しいことです」

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矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。
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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)

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