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「教員にタメ口」でも麻布が生徒を怒らないワケ

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都内私立中高一貫校で「男子御三家」といえば、開成、麻布、武蔵だ。このうち麻布は教員を「●●先生」とは呼ばず、「●●さん」と呼ぶ。それどころか、名前を呼び捨てにして、「タメ口」で話す生徒も多いという。なぜなのか。中学受験塾代表の矢野耕平氏が解説する――。

※本稿は、矢野耕平『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)の一部を再編集したものです。

「麻布中学校 麻布高等学校」ウェブページより

■「先生なんてやめろ。さん付けで呼べ」

開成・武蔵と並ぶ「男子御三家」の麻布の卒業生に取材を重ねると同校特有の「生徒との教員の距離感」が浮かび上がってくる。「特有」と言い表したが、これは「特異」と言い換えてもよいかもしれない。

卒業生の一人は麻布に入学早々、教員とのその独特な距離感に戸惑いすら覚えたという。

「入学してすぐ担任の先生と話をしていたんです。まだ小学生の延長くらいの頃でしたから、『●●先生』って呼んだのです。そしたら、『先生なんてやめろ。「さん」付けで呼べ』って叱られたんです(笑)」

そして、彼はおそるおそる教員を「●●さん」と呼ぶようになるが、その名から「さん」が抜け落ち、タメ口を叩くようになるまでにはさほど時間がかからなかったと笑う。

「職員室へ遊びに行ったときなどは、『おい、●●(呼び捨て)、お前仕事しろよ!』なんて感じで会話していました(笑)。なんだか、親しい友人に『バカヤロー』なんて軽口を叩く感じ。先生たちとは対等。若い先生だから距離が近いというわけではなく、むしろ逆でベテランの先生であればあるほど、何だか友だちみたいな感覚が強くなっていく。あれはどうしてだろう? 不思議だったな」

■「おい、●●! なんだよ、言っていること全然分かんねえぞ!」

別の卒業生はこう口にする。

「職員室はしょっちゅう入り浸っていました。というより、校舎の構造上、職員室の前を通らないと行けない、つまり、ぼくらの動線部分にある。職員室でどんな会話をしていたか、ですか? うーん……どうでもいい雑談ばかり……。たとえば、机の汚い先生のところを通ったときは『いい加減に掃除しろよ』とか」

自身もOBである麻布の校長・平秀明先生によると、この生徒と教員の距離感は古くから変わらないらしい。

矢野耕平『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)

「職員室には確かに多くの生徒たちがやってきます。教師に議論を吹っ掛けにやってくる子もいれば、ただ単に駄弁りにくる子もいます。あと、授業の質問にくる生徒もいますね。教師も職員室に積極的にくる子に対してとても親切に対応していますね。普段、寡黙なタイプの子が職員室に訪れてくれるなんて嬉しいこともありますよ。まあ、昔から生徒と教員の距離は近いですね。高名な教師をニックネームで呼んだりしてね。たとえば、頭が禿げているおじいちゃんの先生は『ワットさん』とかね……何でも百ワットの明るさだとか(笑)。そう考えると、昔のほうが傑作な渾名が多かったように思うな」

ある卒業生によると、乱暴な口を叩ける教員であればあるほど、生徒たちからの信頼は厚いという。

「麻布の先生とは本当に友だちのような関係。たとえば、●●先生という人がいたのですが、普通に生徒たちから『おい、●●! なんだよ、言っていること全然分かんねえぞ!』とか授業中に野次が飛ぶ。で、そう言われた先生は『これから説明すんだよ。うっせえよ!』なんて返ってくる。そういう先生であればあるほど授業内容は素晴らしいし、生徒たちに心から慕われているんですよね」

■「こいつをのさばらせていいのか?」クラスが一致団結

ところが、新任の教員がこの距離感を解さないでふるまうと、生徒たちから酷い仕打ちを受けることがあったという。

一人の卒業生はある教員について懐かしそうに思い出す。

「20代の新任の数学教師に対する扱いなんて酷かったな。この人、こともあろうに授業中に『うるさい、静かにしろ!』と言い放ったんですよ。『これはちょっと麻布ってものをこいつに教え込まなければいけないんじゃないか? こいつをのさばらせていいのか?』ってクラスが一致団結しました(笑)。その先生を廊下に連れ出して、そこで論戦を吹っ掛ける。『なんで授業中に静かにしなければいけないんですか?』とか。高二のときだったな。●●という先生なんですけど、当時ツイッターで『●●BOT』が出回っていましたね(笑)。でも、ぼくらが卒業するころは、麻布にすっかり染まっていて、何だか丸くなっていたな(笑)」

■「歌え! 歌え!」教室内で教員が歌うまでは静かにしない

この話を平先生に振ってみた。

「新しい先生が着任すると生徒たちから『洗礼』を浴びせることがあります。『歌え』コールが起こって、歌うまでは静かにしないとかね。『歌え! 歌え!』というコールが職員室まで聞こえるんですよ(笑)。ああ、また何かやられているなあと」

さらに、平先生はご自身の若かりし頃を思い出し、苦笑した。

「昔、ぼくが最初に担任を受け持ったクラスの話です。ある時、生徒たちが盛り上がって、わたしは歌を無理やり歌わされました。それだけではありません。そのあと生徒たちに胴上げされながらずっと校内を移動し、そのまま階段を下りていって、最後はプールに投げ込まれた。ま、何人かはプールに道連れにしてやったんですがね」

そんなとき、平先生はどのような気持ちを抱いたのだろうか。

「ぼくはそのとき嬉しかったですよ。生徒たちから(麻布の教員として)『承認された』と誇らしい気持ちになったのでしょう。いまの若い先生なら多分怒っちゃうかもしれませんが」

■「自分たちのほうが教員より優秀だと思っている」

麻布の生徒たちと教員の関係性はかなり特異であることが分かるだろう。「長幼の序」に重きを置く人はこれに違和感を抱くばかりか、生徒たちの言動に対して眉をひそめてしまうかもしれない。

麻布中学の合格発表時の掲示板

なぜ、麻布の生徒たちは教員に対しタメ口を叩き、ときには教員にとって酷なふるまいを見せるのか。

卒業生は言う。

「麻布生ってみんな俺たちは何でもできるぜっていうプライドを無駄に持っている」

平先生はこう分析する。

「自分たちのほうが教員より優秀だと思っているんじゃないですか。ぼくらは入学試験を受けて合格したけれど、先生たちはそうじゃないでしょ、という思いがあるんじゃないですかねえ」

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