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自衛隊の「調査・研究」能力は十分か?

 アメリカが、イラクのバグダッド空港において、イラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を殺害する作戦を遂行した。イラクのイスラム教シーア派(Shiite)武装勢力の連合体「人民動員隊(Hashed al-Shaabi)」に属する親イランで知られるイラクのシーア派民兵組織「カタイブ・ヒズボラ(KH)」(神の党旅団)の指導者のアブ・マフディ・ムハンディス(Abu Mahdi al-Muhandis)氏も同時に殺害されたと伝えられている。

 大変な事態である。ソレイマニ司令官は、イラン強硬派の象徴的存在であり、イラクに対するイランの影響力の拡大においても大きな役割を持っていたとみなされている。

 攻撃に先立つ1月2日、アメリカのエスパー国防長官は、「状況は一変した」と明言し、さらなる攻撃を防ぐための先制攻撃を辞さない、と明言していた。その数時間後、米軍は、ソレイマニ司令官殺害作戦を遂行したわけである。

 年末から1月1日にかけて、首都バグダッドにあるアメリカ大使館に抗議デモの参加者が攻撃を仕掛けるという事件が起こっていた。大使をはじめ、多くの大使館員が休暇中だったとされるが、イラク国内の親イラン勢力の介在と、イラク治安当局の黙認が指摘されていた。そもそも抗議デモは、12月29日にアメリカ軍が「カタイブ・ヒズボラ」のイラクとシリアの拠点5カ所を報復空爆し、少なくとも戦闘員ら25人を殺害したとされる事件によって発生していた。アメリカ軍の攻撃は、12月27日にイラク北部キルクークに近いイラク軍基地が攻撃された際、米軍の請負業者の米国人1人が死亡し、米兵4人が負傷した事件を受けたものであった。

 「テロの連鎖を標的殺害で断ち切ることは不可能だ」、といった第三者的な言い方が、日本では好まれる。だが、ソレイマニ司令官ほどのカリスマ指導者を失ったことの衝撃は、イラン革命防衛隊側にも大きいだろう。ソレイマニ司令官が、KH指導者とバグダッド空港にいた、という事実それ自体が、アメリカが予防したい事態が近づいていたことを示唆する状況であったとは言える。だがいずれにせよ、今後の湾岸地域情勢は、予断を許さない。

 日本の海上自衛隊が周辺海域に派遣されることが、12月27日の閣議で決定された。「安全確保に向けた情報収集態勢を強化するため」で、防衛省設置法4条の「調査・研究」に基づく派遣となる。哨戒ヘリ搭載の護衛艦「たかなみ」1隻、ソマリア沖で海賊対処に当たるP3C哨戒機2機が、投入されるという。活動海域は、オマーン湾、アラビア海北部、イエメン沖バベルマンデブ海峡東側のアデン湾の公海だとされる。

 アメリカの呼びかけに応じながら、イランを刺激しないようにした活動領域で、「海上警備行動」発令をにらみながらの「調査・研究」活動という、恐ろしく曖昧な位置づけの派遣である。霞が関在住数十年の「言語明瞭味不明」な玉虫色の文書を大量生産する能力に秀でた官僚群は悦に入っているのかもしれない。現場の自衛官は複雑な思いだろう。

 政治指導部が、非常事態には迅速に明瞭な判断を下すことができる権限付与を、事前に現場に与えておくことが必要だ。もっともこのようなことを言うと「武力行使」の「なし崩し的拡大」を目的にした派遣だ、といった批判を浴びることを霞が関の役人群は恐れるのだろう。もちろん「武力行使」は「目的」ではない。 ただ不測の事態への準備だけは必要である。

 むしろ「調査・研究」が目的であることを徹底して、派遣体制を強化する体制がとられているか、心配だ。「安全確保に向けた情報収集態勢を強化」などといったわざとらしい言い方で、あたかも情報収集が言い訳にすぎないかのように誤魔化すことがないようにしたい。

 宇宙軍を創設したアメリカが無人機による標的殺害やサイバー攻撃を仕掛けてくるのに対して、敵対勢力もそれをかいくぐった攻撃態勢をとってくるのが、中東の現実である。護衛艦が浮いていれば、それで敵対勢力が怯えて行動を控える、といった幻想にとらわれることだけはないようにしたい。

 時代に合致した情報収集分析能力の整備が決定的に大切だ。

 アメリカ軍から情報を仕入れることは必須であり、自衛隊も「バーレーンにあるアメリカ海軍の司令部に送ることを検討」している、などと伝えてられている。いささかのんびりした印象を受けざるを得ない。情報収集のための装備品を配備していくことに、いささかも躊躇があってはならない。

 たとえば自衛隊が保有する無人機のレベルは国際的に見て高くない。この機会に「情報取集」に不可欠な装備品を充実させていく視点も大切だろう。

 なお自衛隊の派遣に対して、野党系の勢力や護憲派系のメディアなどが、「自衛隊のなし崩し的な海外派遣と武力行使に反対」する態度をとっている。

 的外れすぎる。

 日弁連会長は、「中東海域への自衛隊派遣に反対する会長声明」を出した。https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2019/191227.html そこで日弁連会長は、今回の派遣には「自衛隊の活動に対する歯止めがなくなり、憲法で国家機関を縛るという立憲主義の趣旨に反する危険性がある」と主張する。そして「米国等有志連合諸国の軍隊との間で情報共有が行われる可能性は否定できず、武力行使を許容されている有志連合諸国の軍隊に対して自衛隊が情報提供を行った場合には、日本国憲法第9条が禁じている「武力の行使」と一体化するおそれがある」、などと論じている。さらに、「海上警備行動や武器等防護(自衛隊法第95条及び第95条の2)での武器使用が国又は国に準ずる組織に対して行われた場合には、日本国憲法第9条の「武力の行使」の禁止に抵触し、更に戦闘行為に発展するおそれもある」と主張している。

 日弁連会長は、「憲法で国家機関を縛る立憲主義の趣旨」とかいう抽象的で曖昧な超法規的原則に訴えるのではなく、法律家らしく、具体的な憲法条項のどこに「自衛隊の調査研究活動を禁ずる」という文言があるのか、はっきり示すべきだ。

 日弁連会長は、芦部信喜先生の学説が聖書のように絶対だということだといわんばかりの時代錯誤も甚だしい憲法観を振り回し、憲法学「通説」の意味不明な「武力の行使」概念を唯一絶対の心のよりどころにするのではなく、憲法のどの条項に、なぜ自衛隊の「海上警備行動」を禁止することが書かれているのか、しっかりと丁寧に説明するべきだ。そうしてくれれば、研究して反論する。

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