1等は現金30万円が当たるお年玉付き年賀はがき。もし当選した場合、税金を納める必要はあるのか。元国税調査官で税理士・産業カウンセラーの飯田真弓氏は、「当選金は全額非課税である宝くじと違い、税金がかかる場合がある」という――。
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年賀はがき1枚でつながる関係性
小学生の頃、冬休みが近くなると授業の中で、年賀状の書き方を教えてもらった。
宛先は自宅。自分自身に1枚書き、仲のよいお友だち数名にも書いた。担任の先生が自宅の住所を黒板に書かれ、先生にも出した。個人情報がうるさく言われる昨今では、ありえない授業の風景だろう。
その先生とはいまだに、年賀状のやり取りが続いている。卒業して、40数年。年賀はがき1枚で何十年も繋がっていることを感慨深く思う。
言葉の流行り廃りの流れは速い。
あけおめ~。
ことよろ~。
という言葉も、最近はあまり耳にしなくなった。
携帯電話やインターネットの普及で、一言で、一瞬で、年始の挨拶ができる。
常に新しいものを吸収し発信する10代20代の若者が、アナログな紙媒体である年賀状を郵便ポストに投函することは、少なくなったのかもしれない。
2014年、賞品に現金が加わった
2020年のお年玉付き年賀はがきの賞品が、日本郵政グループのHPで公表されている。
ミシンから始まり、白物家電、ビデオカメラなど……。お年玉付き年賀はがきの賞品をみると、時代の流れをうかがい知ることができる。
2014年、賞品に現金が加わった。飽食の時代に突入し、誰もが等しくほしいと願うものが選び辛くなったということだろうか。賞品がゲンナマというのは、ちょっと味気ない気がするのは、筆者だけだろうか。
一方で、本来お年玉とは現金を渡すものだから、“お年玉付き年賀はがきの賞品として現金を渡すのは妥当だ”とするむきもあるようだ。
もし、1等の現金30万円が当たったら、家族で船旅でもしようか、そのまま貯金しておこうか、はたまたG1レースの本命で手堅く増やしてみようかなどなど、頭の中で、空想するのは自由だ。
お年玉付き年賀はがきに当たったら納税の義務はあるのか
さて、ここで、常に税金に関心をお持ちの読者の皆さん。お年玉付き年賀はがきの賞品に税金がかかるのかどうか、気になってきたのではないだろうか。
所得税法では、第9条の非課税所得にうたわれているもの以外は原則課税対象である。
「国民のみなさん、お金が儲かったら、国にもその一部を税金として納めてくださいよ」
というのが法律の主旨だろう。
当選した、お年玉付き年賀はがきは、そのはがきが誰あてに送られてきたものかによって課税関係が変わってくる。
1.あなた個人にあてて送られてきた年賀はがきが当選した場合
2.会社あてに送られてきた年賀はがきが当選した場合
まずは、1.あなた個人にあてて送られてきた年賀はがきで30万円が当たった場合について考えてみよう。
一時所得の税金の計算方法
個人が賞金として得たものは、一時所得に該当する。
国税庁のHPには、下記のように書かれている。
No.1490 一時所得[[平成31年4月1日現在法令等]
1 一時所得とは
一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得をいいます。
この所得には、次のようなものがあります。
(1)懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除きます。)(国税庁HPより引用)
計算方法は次の通りだ。
一時所得は、臨時的な収入が一時期に得られるため、特別控除として50万円が設けられている。
2 所得の計算方法
一時所得の金額は、次のように算式します。総収入金額-収入を得るために支出した金額(注)-特別控除額(最高50万円)=一時所得の金額(注)その収入を生じた行為をするため、又は、その収入を生じた原因の発生に伴い、直接要した金額に限ります。
3 税額の計算方法
一時所得は、その所得金額の1/2に相当する金額を給与所得などの他の所得の金額と合計して総所得金額を求めた後、納める税額を計算します。(国税庁HPより引用)
他の所得と合計する前に課税額を1/2に圧縮するのも、一時的な収入の税負担を少なくするためだと考えられる。
1等が1本当たっただけでは税金はかからないが…
では、実際に一時所得の計算をしてみよう。
1等30万円が1本当たった場合
30万円-50万円=-20万円
30万円が一口当たっただけで、他に合算すべき一時所得がないというのであれば-20万円。マイナスは0円と考える。1等の30万円が一口当たっても税金はかからないということになる。
では、2口60万円になった場合はどうだろうか。
60万円-50万円=10万円
で、一時所得の金額は10万円となる。
特等の東京2020オリンピックご招待(開会式又は閉会式ペアチケット)の場合、チケットが1枚30万円相当だとすると、ペアなので、60万円で計算することになるだろう。
同じ「くじ」でも宝くじはいくら当たっても非課税だが、年賀はがきのお年玉くじは、計算のルール上税金がかかる場合があるのだ。
収入を得るために支出した金額として、その年の年賀はがきを購入した総額を差し引きできるのだろうかという質問が出そうだが、どうだろうか。
当選することを願って、年賀状として送らず、自分で手元に持っていたということであれば、お年玉付き年賀はがきの購入費用は、その収入を得るための直接的な出費として認められるかもしれないが、現実的ではないだろう。
最寄りの郵便局に、当選した場合税金を払わなければならないのかどうか問い合わせた人がいる。
「昨年、1等でも税金はかからなかったので、今年もそうだと思いますが……。詳しいことは税務署の方にお問い合わせください」
そんな答えが返ってきたらしい。。
この対応からすると、仮に1等が2本当たった人が郵便局に行ったとしても、親切に税金のことを教えてくれるかどうかは定かでない。
ご自身が当選した場合、どんな計算になるのか。国税庁のHPには、確定申告書作成コーナーが設けられているので、実際の数字を入力して確認してみるとよいだろう。
次に、2.会社あてに送られてきた年賀はがきが当選した場合について考えてみよう。
この場合は、個人のときの「一時所得」のような特別控除はない。その法人の雑収入に計上するのが正しい経理処理といえるだろう。
家族経営の会社で、総務担当は奥さまというような場合、賞金の30万円を会社の収入には計上せず、自分の財布に入れてしまっても、バレないかもしれない。が、日本郵政グループが当選番号のはがきの宛名をリストアップしているとしたらどうだろうか。
お年玉付き年賀はがきの賞金が資料化され、税務調査の対象に選ばれるきっかけになったというのも、おもしろくないだろう。
30万円きちんと、雑収入に計上すべきだ。