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「年金制度の破綻」を黙認する安倍政権の不作為

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年金の財政基盤はすでに破綻している

12月19日、安倍政権が「最大のチャレンジ」と位置づける全世代型社会保障検討会議の中間報告がまとまった。政府の狙いは、社会保障関係の財政基盤の強化と国民の間に広がっている将来不安の解消だ。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SB

だが不安解消の道筋は見えない。「消費増税」と同じく、低所得者に負担を強いる改革案としか思えないからだ。

年金制度をめぐる改革論議を振り返ってみよう。9月2日に開かれた第1回検討会議、冒頭で首相は「全世代型社会保障への改革は、最大のチャレンジであります。少子高齢化が急速に進む中で、これまでの改善にとどまることなく、システム自体の改革を進めていくことが不可欠です」と強調した。

この発言に年金を取り巻く課題が集約されている。現行の年金制度は賦課方式といって、現役世代から高齢世代への所得移転をベースに成り立っている。現役世代が支払っている年金保険料が年金支払いの原資であり、積み立てられているわけではない。ところが少子高齢化で支え手である現役世代(20歳~64歳)は減る一方。半面、支えられる高齢世代(65歳以上)は増え続けている。

内閣府の資料(図表1)によると、1人の高齢者(65歳以上)を支える現役世代(15歳~64歳)の人数は、1950年(昭和25年)には12.1人だったが、2005年(平成17年)には3.3人に減り、50年(令和32年)には1.4人に落ち込む見込みだ。30年後には1人の高齢者を現役世代がほぼ1人で支えることになる。

高齢者をプロ野球の優勝監督に例えれば、70年前には監督の胴上げができた。それが14年前には騎馬戦になり、30年後には肩車しかできなくなる。

高齢世代人口の比率

政府は所得代替率(※1)を50%以上に維持すると国民に約束している。年金モデルが想定する現役の月額報酬は約40万円である。代替率50%ということは、月額20万円の年金を現役が負担することになる。

これを10人で負担すれば一人当たりの負担は2万円、3人だと7万円、肩車だと丸々20万円を一人で負担しなければならない。考えただけでも恐ろしい。だが、これが日本の年金が直面する現実であり、現役世代が抱えている不安の源泉でもある。

当面、年金制度が破綻することはない。政府が想定する最悪のケースでも、国民年金の積立金がゼロになるのは33年後の2052年である。時間はまだ十分にある。この間に速やかに肩車社会に耐えられる年金制度に衣替えする、

これができれば現役世代が抱えている不安は解消するはずだ。

(※1)年金の支給額が現役世代の標準月額報酬の何%になるかを測る指標。国民が受け取る年金のメドをパーセントで示している。

「改革」で経済は好循環を始めるはずが…

「改革」という言葉を使う以上、首相も年金問題の本質を理解しているのだろう。だから、あえて検討会議の冒頭で「改善」ではなく「改革」と強調した。

いますぐに実現できなくても、持続可能な年金の将来像を提起できれば、現役世代に安心感が広がり、将来の生活設計も立てやすくなる。そうなれば、必要以上に財布の紐を締める必要もなくなるだろう。預貯金を減らし消費に回す余裕ができる。

利用したいサービスも含めれば、買いたいものは山ほどある。消費が増えれば低迷する経済に活力が戻り、成長のエンジンに火がつく。人口が減っても経済が成長すれば、物価が緩やかに上り、つれて給料も上がるという好循環が始まる。

所得代替率も向上する。そうなれば、2004年に導入された「マクロ経済スライド」(※2)も生きてくる。これが「改革」を通して実現する「100年安心」のシナリオだろう。

だが、議論がスタートして早々に期待感は落胆に変わった。理由は簡単だ。「改革」の先に見えたのは高所得者の優遇と、低所得者への負担の付け替えだった。「最大のチャレンジ」がこれでは、国民の多くは納得しないだろう。

(※2)平均寿命の伸びや出生率、インフレ率など経済の変化を勘案し、年金の支給額を機械的に調整する仕組み。年金の支給額を抑制する機能をもっている。

在職老齢年金制度をめぐるドタバタ劇

それを象徴するのが在職老齢年金制度の見直しである。厚労省が社会保障審議会年金部会に提案した当初の改革案は、65歳以上の働く高齢者の年金カット基準を大幅に緩和する内容だった。

全世代型社会保障改革は、検討会議だけで行われているわけではない。経済財政諮問会議や社会保障審議会、労政審議会、未来投資会議、社会保障制度改革推進会議など、関連する審議会を総動員して繰り広げられている一大イベントなのである。

今年(19年)の6月、未来投資会議は在職老齢年金制度について「将来的な制度の廃止も展望しつつ、(略)速やかに制度の見直しを行う」との答申をまとめている。この文言は6月に決定した「骨太の方針2019」に盛り込まれた。

人手不足対策として高齢者の就労促進が大きなテーマになっている。それを阻んでいるのが在職老齢年金制度だというわけだ。

現行の基準(賃金と年金の合計)は60~64歳が月額28万円、65歳以上が47万円。この基準を超えた分の賃金が年金からカット(支給停止)される。政府は当初これを65歳以上で62万円に引き上げようと提案した。

対象者(2018年度末)は約41万人、支給停止額は約4100億円にのぼる。これを62万円に引き上げると対象者が23万人に減り、支給停止額は1900億円に減少する。つまり年金財政は差し引き2200億円の負担増となる。

人手不足が深刻になっている折、高齢者の就労促進を促すのは時宜にかなった政策だろう。だが、在職老齢年金の基準緩和と高齢者の就労意欲の関係については、はっきりとした因果関係が確認されているわけではない。

これでは年金財政の健全化どころか、就労促進という名目を笠に着た高所得者優遇策である。年金部会でも反対論が大勢となり厚労省は当初案を撤回、51万円という案を再提出した。しかし、この案でも批判は収まらず、最終的には47万円で据え置く方向で議論の収束を図ろうとしている。

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