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嫌韓派は「やはり韓国人の歴史認識は間違いだった」と浮かれてはいけない――小倉紀蔵が語る「反日種族主義」 「反日種族主義」大論争#5 - 小倉 紀蔵

韓国人には珍しい自己批判の本――鄭大均が語る「反日種族主義」 から続く

 竹島、徴用工や慰安婦問題など韓国で通説となっている歴史認識を検証した『反日種族主義』。今夏刊行された韓国では曺国前法相が批判するなど物議を醸し11万部超、11月発売の日本版は36万部に。日韓で賛否両論、波紋を呼ぶ本書を識者が論じる。

◆◆◆


小倉紀蔵氏(京都大学教授)

 これは、すべての韓国人に読んでもらいたい本だ。

 なぜかというと、この本を読めば、歴史に対する自分たちの劣等感から解放されるからだ。

「日本はずるくて不道徳な盗賊であり、その朝鮮統治は悪辣で無法状態だった」という「物語」を韓国人が信じているかぎり、「どうしてそんな悪い無法者にわが民族は唯々諾々と35年も支配されてしまったのか」という問いに答えられない。ここに劣等感が宿る。この問いに答えられないので、「道徳的に立派な独立運動家と、不道徳にも日本に協力した親日派がいた。悪いのは日本および親日派だ」という単純な二分論に陥るしか道はない。しかし「なぜ親日派は日本に協力したのか」という謎には答えられないので、「あいつらは悪いから日本に協力した。なぜならあいつらは悪い奴らだからだ」というトートロジー(同語反復)の回路をぐるぐるまわるしかない。同語反復はニヒリズムを招く。韓国人の歴史認識はニヒリズムそのものなのだ。

 この本を読めば、日本の統治が、韓国の多くのひとたちが信じているような「物語」とは異なっていたということがわかる。合理的かつ合法的、そしてそれなりに平等主義的な統治がされた。だから当時の朝鮮人は、それにしたがってしまったのだ。

 朝鮮人が意気地なしだったわけでも、親日派が特別に不道徳だったわけでもない。必死に日々を暮らす人間として、それなりの合理的な選択をしつつ生きていた。この本の著者たちは、「韓国人は歴史に対して過度な劣等感を抱くな」と励ましているのである。

韓国人の歴史認識が暴力であることを述べた点がすばらしい

 この意味で本書は、歴史を生きた韓国人に対する敬意に満ちあふれた書物だと思う。みんな、瞬間瞬間に生を賭けてせいいっぱい生きてきた。ぎりぎりの選択をしながら歴史を生きたひとびとを、いとも簡単に断罪してしまってはならない。「韓国の民族主義は、種族主義の神学が作り上げた全体主義的権威であり、暴力です」と本書はいうが、韓国人の歴史認識が暴力であるということをはっきりと述べた点が、すばらしいと思う。

 韓国人や日本の左翼は、自分たちの勝手なイデオロギー(韓国左派の民族主義、日本左翼のマルクス主義など)、贖罪感(日本人左翼)、怨恨(韓国人や在日コリアン)などによって、やりたい放題に歴史を歪めてきた。そのことが、韓国人をどれほど苦しめてきたのか、ということを本書は告発している。現実ではない虚構を信じなければならないから、苦しいのである。

 逆に日本人、特に日本の嫌韓派は、この本を読んで「やっぱりこれまでの韓国人の歴史認識は間違いだったのだ。おれたちが正しいのだ」と溜飲を下げてはならないと思う。李栄薫氏らが自分たちの歴史について、これほど赤裸々に自己反省を展開する痛みの深さを推し量るべきだと思う。

「日本の朝鮮統治が正しかった」などとは本書は決して語っていないのである。

(小倉 紀蔵/週刊文春 2019年12月19日号)

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