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欧州議会が否決したACTAを日本が推進する理由

 欧州議会は7月4日、インターネット上の表現の自由を制限する恐れがあるとして反対運動が起きている模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement=ACTA)を否決した。このことで、少なくともEUではインターネット上の言論の自由が大幅に制限される事態はひとまず回避された。実はこの条約は日本が中心的な旗振り役を果たしてきたが、そのことすら日本人はほとんど知らない。

 この条約は、模倣品の防止や著作権物の保護を目的としたもので、署名・批准した国の間でそうした対策を共通化することが意図されているが、インターネット上の海賊版や違法ダウンロードの取り締まり権限が非常に強いことから、インターネット上の表現の自由を侵害する恐れがあるとして、世界各国で反対運動が起きていた。

 ACTAが法制化された場合、インターネットサービスを提供する会社(ISP)やフェースブック、ツイッターなどソーシャルメディアの運営者に対して、著作権侵害の恐れのあるコンテンツのアップロードや書き込みを厳しく制限することが義務づけられる恐れがある。また、実際にネット上に著作権に違反するコンテンツを公開した個人に対しても、ウェブサイトの強制閉鎖や逮捕などの強権発動が可能になると受け止められる条文が、懸念や批判の対象となった。

 EUでは加盟国27カ国中既に22カ国が、この条約に署名しているが、この日、欧州議会が478対39の大差で(棄権は165票)批准を否決したことで、署名済の22カ国もACTAを国内で法制化できないことになった。

 一方、この条約は日本、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、シンガポール、韓国、モロッコの8カ国が、既に署名を済ませており、6カ国が批准をすれば発効することになる。

 アメリカでは今年に入ってから、SOPA、PIPAなどネット上の著作権侵害を取り締まる法律が、上下両院で審議されたが、Wikipediaが1日サイトを閉鎖するなど、ネットコミュニティからの激しい抗議に遭い、両院とも採決を見送っていた。

 ところが日本はどうだろう。ほとんど何の成果もあげていない閉塞状態にある今国会でも、海賊版のダウンロードに刑事罰を科すことを可能にする法案だけは、あっという間に国会の両院で可決し、10月1日から一部施行されることになった。

 実はこのACTAという条約は2003年に当時の小泉政権が提唱したものだった。にもかかわらず、日本がACTAの旗振り役であることや、既に日本がACTAの署名を済ませていることすら、ほとんど知られていない。マスメディアもこの問題を積極的に取り上げようとはしていない。このままでは、多くの市民が知らない間に、他国に比べて政治やマスメディアの機能不全の度合いがよりひどい日本が、ネットの自由を殺す運動で世界の先頭に立つことにさえなりかねない。

 EU議会のACTA否決の理由と、日本の政治・メディアの機能不全がもたらす社会への影響を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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