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素敵なファン感謝祭 『男はつらいよ おかえり、寅さん』

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シリーズ50周年を飾り、23年ぶりに製作された『男はつらいよ  おかえり 寅さん』は、旧来のファンが同窓会のようなムードが漂う、素敵な感謝祭となっている。

今よりはるか以前、本作の企画を聞いたとき、たしか、現実に思い悩む満男(吉岡秀隆)が、長い間帰ってこない寅さんを追想し、おじさんならなんて声を駆けてくれるだろうか、というようなコンセプトだったと思う。そのときは、「おお、これはもしかしたら『ゴドーを待ちながら』的な名作になるのではないか」という期待が湧いたものである。

結果的に見れば、少々その期待からは逸れたものの、ファン大満足の仕上がりではないか。その証拠に、ぼくは比較的客層が年配のTOHOシネマズ日本橋で鑑賞したのだが、上映中はときおりすすり泣くような音がそこかしこから聞こえた。クライマックスだけではない。それほど、全編において老人が「エモい」と感じてしまう場面が多かったのではなかろうか。

そんな本作の大きな特徴は、過去49作を回想シーンとして余すことなく、使いまくっているところだろう。ときにそれは過剰とさえ言える。さらに不自然な点もある。というのも、基本的にはストーリーは満男のナレーションで進むのだが、回想シーンの中には満男が登場しない、もしくは、満男が生まれる前のシーンさえある。誰がそのシーンを見ていたんだ。

そのほか、回想シーンの使い方の過剰はあるものの、目をつぶりたくなるのもまた、回想シーンが理由だ。というのも、本作を見て改めて思ったのは、『男はつらいよ』シリーズは、コメディーとしてもレベルは決して低くないのだ。ただの人情噺ではない。本作で白眉だったのは、回想に出てくる「満男の運動会」のシーン。こんなおもしろい会話劇を書ける脚本家が、現代にどれだけいるだろう。

先述したように、『ゴドーを待ちながら』的な要素は薄く、わりとストレートに、中年になった満男が、かつての寅次郎の台詞によって突き動かされる、という展開である。

本作を見ていて気づいたのだが、結局、『男はつらいよ』というシリーズにおいて、寅さんという存在はいつまでも不変であって、成長はしない。そんな彼を中心軸にするかのように、妹のサクラはひろしと結婚し、満男が生まれ・・・というふうに、周囲の人間は彼と対照的に、いや、彼の普遍性を掛け金にするかのように、人生が変化していく。

寅さんが不在でも成立する『男はつらいよ』。実はそれは、これまでの『男はつらいよ』シリーズの本質なのかもしれない。

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