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東浩紀が「AIに期待しない方がいい」と話すワケ

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■AI社会でも人類は順応して生き続ける

巨大プラットフォーマーである米国のGAFAや中国のBATの成長に伴い、アリババのような企業が提供するAIによるソーシャル・スコア「芝麻信用」などのサービスが台頭する状況を指して、ドイツの政治学者セバスチャン・ハイルマンは「デジタル・レーニン主義」と表現した。

しかし東は「共産主義をAI社会のメタファーとしてもち出すのは間違いではないか」と指摘する。

「共産主義というのは、所有権を廃止するなどの人間の本性に反することをやらせる体制です。一方で現代の巨大デジタルプラットフォーマーは、人間の本性に反することをやらせていません。GAFA批判やBAT批判をしてもしょうがないんです。なぜなら彼らが提供するサービスは人間の本性に基づいていますし、プラットフォーマーが交代しても、また同じものが出てくるだけですから」

巨大デジタルプラットフォーマーの発展の先に、AIによる人類の支配を恐れるような考え方も登場しているが、東はその指摘に対しても、「今の世界と本質的に何が変わるのだろう?」と疑問を呈する。

「いまぼくたちが生きている世界は、世界の超富裕層26人が資産150兆円をもち、それは世界の貧困層38億人と同額と言われています。ごく少数の人々の意向によって世界はガラリと様相を変えている、とも言えるわけです」

■必要なのは「人間の動物性を意識した社会設計」

「それでもぼくたちは普通に生きている。だからこれからも、『AIに富が集中していておかしくないかな? でもやむなし』と、適度に対処するだけだと思うんです。ぼくらが考える以上に、人間は支配や権力に対して柔軟です。AIやロボットの登場によって、わたしたちのアイデンティティや日常的な感覚、暮らし方は大きくは変わらないと思っています」

そして、そのような人間の動物的な側面を意識した上での社会設計が求められていると、東は提唱している。

「いまや人間性は、動物性や機械性のノイズとしてしか存在しないんです。人間は基本的に動物なんですよ。ただ与えられたモノを食べ、働けと言われたら働き、何も考えずに税金を納め、選挙に行ったらなんとなく政党に票を投じるんです。ゆえに人間の動物的な部分と人間的な部分を考えたときに、どうバランスをとるかが社会設計にとって重要です」

「今後は、人々の無意識の行動がビッグデータによって自動的に政策になったり、社会的な改善策になったりするデジタル・デモクラシーも台頭してくるでしょう。そのようないわば『動物的な民主主義』と、投票による議会制民主主義をどのように調停させるか」

「ぼくが以前提唱した『一般意志2.0』のような仕組み(注:仏哲学者ルソーの概念「一般意志」を大胆に翻案した、大衆の「空気」を技術的に可視化し、合意形成の基礎に据える新しい民主主義)を考えていかなければいけません」

■人間も社会も大きく変わらなかった

情報技術と人文知の交差点に立ち、インターネットの黎明期からそのインパクトを世に伝えてきた東は、社会のテクノロジーに対する捉え方が大きく変化していると指摘する。

「昔はデジタル・テクノロジーがもつ能力が過小評価されていたと思います。でも、それはどこかで逆転したんです。今はテクノロジーへの期待がむしろ過大すぎると思います。気の利いたアプリをひとつつくったとしても、社会は変えられないですよ。でも、そう考えている人が本当に多い」

インターネットの急速な普及や、その後のソーシャルメディアの登場によるコミュニケーションの変化は人々の生活を大きく変える――かつてはそう思われていた。たとえば、2010年代の前半は「アラブの春」や「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」といったソーシャルメディアを起点とした社会運動が発生したが、結果的にはどれも失敗に終わってしまった。

代わりに台頭したのがポピュリズムであり、2016年のトランプ大統領当選以降はソーシャルメディアに託された希望も潰えていった。

「10年ほど前までは、資金やイデオロギーがなくても、ソーシャルメディアで人を動員すれば、政治的な力が作れるという夢があった。でもその果てがトランプです。ソーシャルメディアによる政治の実験は終わったんだ、と認めるべきだと思います」

「これからは今まで放置していた問題に立ち戻るべきです。単に人を動員すればいいと考えるのではなく、今の時代において政治組織とはどうあるべきなのか、新しい時代のイデオロギーや社会を導く理念はどうあるべきなのか、それらの難しい問題に立ち向かうべきだと思うんです」

■テクノロジーへの過剰な期待は止めたほうがいい

それは政治運動に限らない。コミュニケーション・テクノロジーはわたしたちのライフスタイルを大きく変えたと思われていたが、東はそのあり方にも疑問を呈する。


菅付雅信『動物と機械から離れて AIが変える世界と人間の未来』(新潮社)

「コミュニケーションのテクノロジーがいくら進化しても、人々は同じように喧嘩をし、恋愛をし、薄っぺらいカリスマに熱狂している。人々の行動パターンはあまり変わっていませんし、関心をもつことは何も変わっていない。ぼくもインターネットは少なくとも政治くらいは変えるだろうと思っていました。でも、変わらなかった。むしろ社会を変えていくためには、新しいテクノロジーについて過剰な期待をするのを止めたほうがいいんじゃないかと思います」

だからこそ東は現在、「市民社会をどうつくるか」という古い問題に関心が移っているという。

「デジタル・ガジェットに囲まれた動物的な人々が、それに飽きたらなくなったときに言葉を与える場所をどうつくるか。ゲンロンは、そういうときに社会や政治について考える人が集まる場所として育てていきたいと思っています」

「これまでは批評や哲学などの伝統を引き継いで残す場所というアイデンティティを持っていたのですが、少し方向性を変えました。今の社会の中で哲学的、文学的なことを考えられる場所にしていきたいんですよ」

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菅付 雅信(すがつけ・まさのぶ)

編集者、株式会社グーテンベルクオーケストラ代表

1964年生宮崎県生まれ。角川書店『月刊カドカワ』編集部、ロッキングオン『カット』編集部、UPU『エスクァイア日本版』編集部を経て、『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務めた後、有限会社菅付事務所を設立。出版からウェブ、広告、展覧会までを編集する。著書に『はじめての編集』『物欲なき世界』『これからの教養』等がある。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務める。下北沢B&Bで『編集スパルタ塾』を主宰。

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(編集者、株式会社グーテンベルクオーケストラ代表 菅付 雅信)

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