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保険不適切販売問題の背景としての「政治との関係」~政府は日本郵政を一体どうしようとしているのか

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「政治情勢の変化の影響」と日本郵政のガバナンス問題

 私は、郵政民営化後の西川善文日本郵政社長時代に起きた「かんぽの宿」問題などの一連の不祥事を受けて2010年に総務省が設置した「日本郵政ガバナンス検討委員会」の委員長を務めた。その際、不祥事の事実関係の調査、原因分析、再発防止策の策定を行い、成果として公表したのが「日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会報告書」であった。

 同報告書では、日本郵政のガバナンス問題について、「西川社長時代の日本郵政においては、政治情勢の激変の中、『郵政民営化を後戻りさせないように』との意図が背景あるいは誘因となって、拙速に業務執行が行われたことにより多くの問題の発生につながった」との基本認識に基づき、「日本郵政の事業をめぐる環境は、外部要因に強く影響される。そのため、今回の個別検証でも明らかになったが、これまでの日本郵政の経営をみると、その変化を見越し、環境が大きく変化する前に短期的に結果を出そうとして拙速に経営上の意思決定が行われ、事業が遂行される危険性を有しているものと推察される。」と述べている。

 不動産売却やゆうパック事業とペリカン便事業との統合等の経営上の意思決定に関する問題であった西川社長時代の日本郵政の不祥事と、営業の現場で発生した今回の保険商品の不適切販売に関する問題は、性格が異なる問題ではある。しかし、日本郵政グループには、とりわけ日本郵便という組織に対して、民営化による成果の早期実現を求める政治的バイアスと、全国の郵便局網を活用し、日本社会全体に対してユニバーサルサービスを提供する責務を従来どおりに維持することを求める政治的バイアスの両方が働くという「ガバナンス問題」が、事業場のコンプライアンスリスクにつながるという面では共通している。

保険不適切販売問題と日本郵政の完全民営化に向けてのスケジュール

 今回の保険不適切販売問題の背景には、株式会社化されたものの、その事業に様々な制約を課せられている日本郵政グループにおいて、その制約を無視して、日本郵政株式の全株売却という民営化スケジュールを進め、売却によって得た資金を東日本大震災の復興財源に充てることを予定していた政府の方針がある。

 まさに政治的判断によって決められていた民営化スケジュールに沿って、それを可能にする業績目標を掲げざるを得なかったために、営業目標実現のために、保険営業の現場へのインセンティブや、ノルマの押しつけが行われ、高齢者を中心とする郵便局の顧客の利益を大きく損なう結果となったのである。

 横山氏が保険不適切販売の原因としている「旧態依然の営業推進体制」は、保険営業に関する限り、日本郵政が公社であった昔から続いているものではない。2015年に、営業を担当する郵便局員の基本給を1割削減し、代わりに手当を手厚くする給与体系の見直しが行われたことで、インセンティブ中心の営業が導入されたものであり(7月24日毎日「かんぽ不正、被害拡大 暴走助長、問われる体質」)、正確に言えば、民営化された日本郵政において、民営化の成果を上げるためにインセンティブ・ノルマ中心の営業推進手法が導入されたことが、今回の保険の不適切販売につながったのである。

 それは、小泉首相が進めようとした郵政民営化の流れが、民主党への政権交代で「再国有化」されたことが原因という単純なものでは決してない。

 小泉首相による「郵政選挙圧勝」によって、「日本郵政の株式会社化」だけは、短兵急に実現した。しかし、全国の郵便局網、その全国特定郵便局長会による政治力などは、旧来のまま残っていた。それは、自民党が、民主党政権から政権を奪還し、第二次安倍政権になった後も変わらなかった。

 日本郵政に関する法的枠組みは、民主党政権時代の2012年の改正郵政民営化法以降変わっていない。それは、自民党内でも、郵政民営化に対する反対勢力が厳然たる力を持っているからである。そのために、ユニバーサルサービスの義務という、完全民営化に対しては明らかに「足かせ」になる要因が残ったまま、日本郵政の株式売却の予定は法的に義務付けられ、その方向に向かって、日本郵政の経営が行われた結果が、今回の保険不適切販売となった。

 政治的バイアスは、民営化を促進する方向にも、抑制する方向にも働く。民営化され、上場企業になったにもかかわらずユニバーサルサービスの責務を負っているというのも、まさに、両面の政治的バイアスの産物だと言える。日本郵政は、このような政治的バイアスを受けて、無理に短期的な目標設定をしたり、強引に成果を実現しようとした結果、問題や不祥事が発生するということが繰り返されてきた。

 日本郵政を完全に民営化し、純粋に民間会社として運営し、利潤の極大化という株式会社の論理を貫徹していく、というのは一つの選択である。その場合は、ユニバーサルサービスの責務は見直さなければならないし、過疎地も含め全国に残る郵便局のうち、不採算局は統廃合し、郵便局員の人員整理も行わなければならないであろう。

 一方、日本の「田舎」「故郷」の最後の砦とも言える郵便局網を最後まで守り抜いていく、というのも選択肢としてあり得る。その場合は、日本郵政の民営化の進め方も相当な制約を受けざるを得ないであろう。

 いずれの方向を指向するのか、それは、日本社会の選択であり、政治の決断である。その根本問題をなおざりにしたまま、民間会社的な考え方による「不正の再発防止」だけで、今回の問題を決着させた場合には、日本郵政グループ内で、金融商品販売をめぐる問題が今後も多発し、混迷が一層深まることにつながりかねない。

 政府は、日本郵政を、今後どうしようとしているのだろうか。

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