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保険不適切販売問題の背景としての「政治との関係」~政府は日本郵政を一体どうしようとしているのか

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 かんぽ生命の不適切な保険の販売問題で、日本郵政の長門正貢社長、日本郵便の横山邦男社長、かんぽ生命の植平光彦社長の3人ら、グループ3社のトップが引責辞任することが発表され、昨日(12月27日)、3社長の記者会見が行われた。

 日本郵政の後任の社長には、元総務大臣の増田寛也氏、日本郵便とかんぽ生命の後任の社長にも、いずれも旧郵政省出身者が、内部昇格で社長に就任することになった。これまで民間の大手金融機関の出身者が務めていた3社のトップは、すべて官僚出身者に代わることになる。

3社長の引責辞任は当然

 今回、かんぽ生命の保険の不適切販売問題の表面化以降、私は、長門社長・横山社長などの対応を批判してきた。

 長門社長は、問題発覚前の今年4月に日本郵政がかんぽ生命株式を売却したことに関して、郵政民営化委員会の岩田一政委員長と日本取引所グループの清田瞭最高経営責任者(CEO)から、適切な情報開示がなかったことについて問題を指摘された際にも、直後に開いた記者会見で、「株式売却の際には不祥事について全く認識がなかった」「冗談ではない」と憤ってみせるなどした。保有していたかんぽ生命株式を一般投資家に売却した後、同社の保険販売に重大な問題が発生していることが明らかになって、株価が大きく値下がりしていることについて、長門社長個人としてではなく、日本郵政グループの経営トップとしての責任が問われているのに、個人レベルでの言い訳をするなど、長門社長の対応には重大な問題があった(【長門社長「冗談ではない」発言で、日本郵政株売却は絶望か】)。

 日本郵便の横山社長も、保険不適切販売の原因について、記者会見などで、超低金利など販売環境が激変し、郵便局がこれまで多数販売してきた貯蓄型の商品は魅力が薄れているにもかかわらず「営業推進体制が旧態依然のままだった」と原因を説明したが、なぜ営業推進体制が旧態依然の営業体制のままであった原因についての言及も、それに対する反省も全くなかった。(【「日本郵政のガバナンス問題」としての保険不適切販売問題~日本郵便横山社長への重大な疑問】)。

 これらの経過からしても、不適切販売の直接の当事者企業のかんぽ生命のトップ植平社長も含め、3社長の辞任は当然であり、むしろ遅きに失したと言うべきであろう。

日本郵政をめぐる根本的問題は全く解消されていない

 しかし、今回の問題は、日本郵政グループの経営トップの個人の問題ではない。民間金融機関出身の3社長は、全く弁解の余地のない、苦しい状況に晒された末に、結局、辞任に追い込まれた。民営化後の日本郵政の社長の辞任は5人目である。このような状況の日本郵政グループの経営トップに、民間企業から経営者を迎えることは困難だったために、日本郵便、かんぽ生命も含め官僚出身者3人を社長に就任させることにせざるを得なかったのであろう。

 今回の日本郵政グループ3社長が辞任し、増田氏を中心とする新経営体制に代わることで、今後、日本郵政の経営が正常化するのだろうか。残念ながら、それは、全く期待できない。「郵政民営化をめぐる根本的な問題」が解消されない限り、今後も日本郵政をめぐる混乱が続くことは避けられない。

 12月18日には、日本郵政が設置した「特別調査委員会報告書」が公表されたが、その内容は、ほとんどが一般的な民間生保会社の視点によるものであり、「日本郵政」という組織の特異性、それが一般の民間会社とは大きく異なっているという視点が欠けている。一般の民間会社で起きたことであれば、この報告書に書かれているような再発防止策も有効であろうが、日本郵政においては、それで問題が解決するとは思えない。

  横山社長は、日本郵便の保険営業の在り方に関して、「お客様本位がすべてに優先するという考えが全局に徹底すれば、ユニバーサルサービスの一環として、全国津々浦々で郵便局員が保険を適切に販売することは十分可能」とも述べた。金融庁が、金融モニタリングの基本方針として掲げているのが、「顧客本位の業務運営」であり、それは、保険を含む金融商品の販売において重要な原則とされている。しかし、日本郵政をめぐる根本問題が解決されていない以上、顧客本位の業務運営を日本郵便の保険販売において徹底していくことは決して容易ではない。

郵政民営化をめぐる政治情勢とユニバーサルサービス

  日本郵政は、小泉純一郎首相が2005年の総選挙で「郵政民営化」を公約に掲げて圧勝したことで、2007年に民営化されて株式会社となり、日本郵政を中心とする巨大な企業グループが生まれた。しかし、第一次安倍政権になって以降、郵政民営化に反対する政治勢力が勢いを回復し、日本郵政への逆風が強まっていった。そして、民主党への政権交代後に、郵政民営化は大幅に見直され、2012年に成立した改正郵政民営化法で、日本郵政には、日本郵便の完全親会社として同社にユニバーサルサービスを提供させる責務が定められた。ユニバーサルサービスというのは、「社会全体で均一に維持され、誰もが等しく受益できる公共的なサービス」という意味であり、郵便局のサービスについては、(1)利用者本位の簡便な方法で、 (2)郵便局において一体的に、(3)あまねく全国において公平に利用できるようにすることが、郵便の役務だけでなく、簡易な貯蓄、送金及び債権債務の決済の役務、簡易に利用できる生命保険の役務についても義務づけられている。

 今回の保険の不適切販売の問題が発生した要因として、かんぽ生命では、民業圧迫の懸念などから保険金の上限額が2千万円と決まっていて、一般的に保険の「転換」の際に用いられる「新旧の契約の一時的併存」ができないため、旧契約を解約した後に新契約に入り直す「乗り換え」で新旧の契約に切れ目が生じることによって問題が生じるということが指摘できる。一般の民間企業とは異なる条件による制約を受けることは、巨大であり民業圧迫の恐れが高いうえ、全国に販売網を持ち、法的にもユニバーサルサービスの確保義務を負う日本郵政グループにおいては致し方ないこととも言える。

 横山社長が言う「お客様本位の営業」を徹底しようと思えば、顧客の多種多様な立場や事情に適合する多様な商品を提供することが必要となる。しかし、ユニバーサルサービスとの関係で、日本郵政グループが取り扱う生命保険は、「簡易に利用できる生命保険」でなければならない。全国で均一な商品の提供が求められている関係で、基本的に商品の内容も単純なものでなければならない。顧客への「個別適応」を追求することには限界があるのである。

 ユニバーサルサービスの責務との関係で制約を受けることから、結局のところ、日本郵便という企業が行う保険販売の事業に、競争価値(コアコンピタンス)を見出すことは困難なのである。

 そのような制約があるにもかかわらず、投資信託や保障性商品などというコンプライアンスリスクが高い商品について、郵便局員にノルマや営業上のプレッシャーを与えながら販売実績を上げようとしていた経営方針そのものに問題があったのであるが、その背景に、2022年に日本郵政の株式をすべて売却することが法律上義務づけられ、その時点までに、日本郵政グループを民間企業として自立させることが政治的な至上命題とされているという事情があった。それが、郵便局の現場に過大な負荷をかけることにつながったのである。

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