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LIBOR操作を見逃した当局の大罪

 この1週間のニュースで最大の注目を集めたのは、LIBORの不正操作では当然なく、パンダの赤ちゃん誕生の話です。それはそうです。赤ちゃんが誕生となれば、パンダでなくても皆喜ぶ訳ですから。

 一方、LIBORの操作をしたなんて言われても、多くの人にとっては何のこっちゃいな!と。

 しかも英国の出来事であり、なんか専門的過ぎて何がどう問題なのか分からないけど‥LIBORの操作によって住宅ローン金利や自動車ローンの金利に影響を与えていたと聞いて、「あっ、そう」という程度のことでしょう。

 そうでなければ、金儲けばかり考えている欧米の金融機関はここまで酷い状況にあるのか‥なんて思うだけ。まるで日本は、このような問題には全く無縁と考える人が多いのではないでしょうか。

 ついでに、「やっぱり日本はものづくりが相応しい。欧米の真似をして金融で食って行くなんていっても巧くいくはずはない」なんて思ってそれで終わり、と。

 話は本題からそれますが‥私長年、中国の偽装体質に関して、日本も含め欧米などの先進国は中国に甘すぎるのでは‥と感じることが多かったのですが、今回のLIBOR疑惑事件を知って思ったの
です。

 こんなことをしているようでは、英国は中国のことをどうこう言う資格はない、と。そしてまた、中国かは、欧米がいつも紳士面をしていても、実態はこの程度なんだからと、ほくそえんでいる気がするのです。

 それ位今回のLIBOR疑惑の根は深い、と。

 ただ、私がそう言っても、今回のLIBOR疑惑問題についてちんぷんかんぷんという方が多いと思うので、LIBORの操作とは一体何なのか、ということについて考えてみたいと思います。

 そもそも、LIBORとは何か?

 これを専門書やネットなどで調べると、ロンドン銀行間取引金利と訳されているのです。英語では、
London Interbank Offered Rate。それらの頭文字をとって、LIBORとなっているのです。つまり、市中銀行は、日常的に、業務上発生する資金の過不足を互いに調整しあって資金繰りに支障が出ないようにしているのですが、その際の資金のやりとりに関し発生する金利をLIBORと言うのです。但し、もう少し正確に言えば、offered となっているので、お金の出し手が提示した金利ということであるのです。

 まあ、いずれにしても、資金繰りに余裕のある銀行と、逆に資金繰りがタイトである銀行が、互いに資金のやり取りについて交渉し、そして取引が成立することになるのですが、そうした取引に参加した銀行のうち指定された銀行は、そうした金利に関して銀行協会に毎日報告をするのです。そして報告を受けた銀行協会は、そうした金利のうち上下数行分の金利を除外した上で平均値を算出したものが、世間に公表されるLIBORということであるのです。

 つまり、我々がネット上などで知ることのできる一定期日のLIBORは、一つの値しか示していないのですが‥これは、ロンドンの銀行間で行われるお金のやりとりに関する金利が、ただ一つしか存在しないと言う意味ではなく、いろいろな金利を平均したら、そのようになったということを意味しているのです。そして、既に言ったように、平均値を算出するに当たっては、金利が特に高いものと低いものは除外されることから、実態がそのまま正確にLIBORに反映されているということではないのです。

 ということで、改めて今回のバークレイズのやったことについて考えてみると‥

 そもそも今回の疑惑は、LIBORの不正操作と呼ばれている訳ですが、バークレイズが、仮に自行が関与した資金取引について単に虚偽の報告をしたのであれば、それが実際にLIBORにどのように反映されるかは不明であるのです。

 つまり、広い意味でLIBORの操作が行われたと言っても、世間に公表されるLIBORそのものを操作する行為と、そうではなく単に自行が銀行協会に報告する分に関して、虚偽の報告をするものとの二つがあるということなのです。

 そこで、先ず、社会的インパクトが限られると思われる自行の単なる虚偽報告について、その意味を
考えましょう。

 銀行協会に報告義務のある銀行が、銀行間の資金のやりとりに関して虚偽の報告をする場合、それは何の目的で行われるのか?
 
 そういう場合、一番考えられるのは、本当は高い金利を支払っているにも拘わらず、敢て低い金利で
お金を調達したとみせかけたいということであるのです。

 何故そんなことをするかと言えば、高い金利を求められるということは、それだけ信用力が低いということであるので、なるだけ低い金利でもお金が調達できるようにみせたいということです。

 では、仮に、当該銀行が非常に高い金利を支払っていることを正直に報告したとし、そのとき公表されるLIBORにはどのような影響を与えるかと言えば、その金利が他行の取引分と比べて一番高いと言う場合には、平均値を算出する際必ず除外されてしまうので、影響はでないのです。

 では、個別の銀行の虚偽報告というレベルを越え、LIBOR自体を不正に操作するのはどのような意味を持つのでしょう?

 今回、イングランド銀行など監督当局も、こうした不正に関与していた疑惑が高まっているのですが、
では、監督当局にとってLIBOR操作はどんな意味があったのでしょうか。
 
 その前に、今、LIBOR不正操作で言われていることは、これを操作することによって住宅ローンの金利やそれ以外の様々なローンの金利が影響を受け、それによって銀行などからローンを借りている人々が影響を被ったと言われているのです。

 では、ローンを利用した人は、今回のLIBOR操作で大きな被害を被ったのか?

 私の手元には具体的なデータがないので何とも言えないのですが、仮にLIBORを人為的に低めに
操作することが多かったのであれば、ローンの利用者は支払うべき金利が軽減され、むしろ不正によって利益を得、逆に、預金者は受け取るべき金利が少なくなって損をした可能性があるのです。
 
 但し、LIBORは、そのようにローンのベンチマークになっているだけではなく、様々なデリバティブ商品にも使用されているために、そうしたLIBORの操作によってデリバティブ購入者の多くが不測の損害、或いは利益を得たことが考えられるのです。ただ、デリバティブ商品の販売者は、通常は銀行などが多い訳で、そして、その銀行自身が自行の有利になるようにLIBORを操作したということになれば、結局、そうしたデリバティブ商品の購入者の多くは損をしたことになるでしょう。

 では、何故、監督当局は、LIBORの操作を見逃すようなことをしたのか?(それが仮に事実であったとして)

 監督当局の最大の関心事は、金融危機を悪化させたくなかったということにあるのでしょう。つまり、ご承知のように英国では2007年夏のパリバショック以降、銀行の取り付け騒ぎや銀行の国有化が
発生したのですが、そうした中、少しでも危機を押さえようと、LIBORを低く見えるように偽装したことが考えられるのです。

 つまり、粉飾決算を見逃したと同じようなものなのです。

 経営危機に陥った金融機関が決算を公表する際、監督当局が、それほど厳しい資産査定をすることもない‥なんて、そんなことを日本の監督当局もやっていたのです。政治家などもそういうことを認めよと圧力をかけたこともあるのです。

 まあ、そういうことで、仮に今回のLIBORの不正操作に監督当局が関与していたとしても、それは本来、個別の銀行のようにそれによって直接利益を得る目的ではなかったと思うのですが‥しかし、一旦当局がLIBORの不正操作を見逃してくれたということが、金融街に公然の秘密として広がってしまうと‥後はLIBORに関して操作しないのがバカみたいに思えて‥何故ならば、LIBORを操作するだけで、デリバティブ取引で幾らでも利益を出すことが可能であったからなのです。

 早い話、ロンドンの金融街は、デリバティブを扱う鉄火場と化し、しかもそこではイカサマが横行し‥

 多分、この話を聞いて、だからアメリカや英国はとんでもない国だ‥なんて感じている人が多いと思うのですが‥実は、日本の方でもTIBORの不正操作事件が起こり、昨年12月、証券取引等監視委員会が、外資系の証券界会社を処分するようにと、金融庁に勧告しているのです。

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