- 2019年12月28日 15:45
英BBCはお手本になるか? 英国でN国党がない理由は「公共のため」を信じる国民がいるから
2/2ーこの「公への奉仕(サービス)」という考え方をもう少し、説明していただけませんか。
社会の他の人のためにサービスを提供する組織の存在に信頼を置いている、ということです。
例えば、BBCにはラジオ3という放送局がありますね。クラシック音楽を流す放送局ですが、リスナーは限られた人々です。でも、多くの人が、BBCがこうしたサービスを提供するべき、と考えています。
アジア系音楽を専門に流す、BBCのラジオ局もあります。アジアに関係がない人、そんな音楽を聞かない人もいるのですが、それでも、BBCの業務の一つとして存在することを、人々は支持しています。
自分には関係なくても、他の人が利用するサービスを支援するという考え方なのですね。
ーそういう考え方はどこから生まれたのでしょう?
さて、どう説明したらいいでしょう・・・集団主義的考え方と言えるでしょうか。社会民主的なアプローチです。集団のために何かを行う、ということ。欧州的かもしれません。
2016年、EUを離脱するか残留するかの国民投票がありました。
離脱に反対した理由の1つは、英国の価値観が欧州の価値観に根ざしたものだと残留派市民が考えたからではないかと思うのです。市場や個人主義に大きな価値を置く米国とは異なるのだ、と。米国では、自分のためにお金を出し、欲しいものを得る、と。欧州のように集団のためにお金を払う、という価値観ではない、と。
英国にはこの集団のための善行という考え方があると思います。あなたの質問は、非常に面白いですね。
ー欧州諸国では、公共サービス放送の強い伝統がありますよね。
確かに、そうです。
「10年後も、BBCに対する英国民の見方は変わらないだろう」
ーBBCはこれからどうなると思いますか?今後10年、あるいは20年で、人々のBBCに対する見方は変わるでしょうか。
私は、変わるとは思っていません。
BBCに対して、敵意が募っている、あるいは反感が高まっている感じがしないからです。
ブレグジットをめぐる報道では、確かにBBCに対する不満感はありますが。
BBCが、離脱を推進したい政府の意見に追従しがちなのではないか、という批判があります。心配ではありますが、だからと言って、BBCに対する反感が強まっているとは思いません。
英国に住む人は、ライセンス料は払う価値があると思っています。
もしBBCに危機が訪れるとすれば、ネットフリックス、アップル、アマゾンなどによる有料ストリーミングサービスの人気ではないでしょうか。
でも、こうしたストリーミングサービスが何を提供しているか(注:ドラマ、ドキュメンタリー、エンタテインメントなど)を見ると、もしこうしたサービスだけになってしまったら、集団の善のために何かをやることや、社会を構成する人全員に同じサービスを提供すると言ったことが、崩れてくると思います。
ーBBCは心配しているようですよね。ネットフリックスなどに自分たちが呑みこまれてしまうのではないか、と。
確かにそのようですが、でも、私は過去40年ほど、BBCをウオッチングしていますが、BBCはいつも何かを心配しているんです!
BBCが「心配している」という時、実は将来に歩を進めようとしていることを意味します。これから大きな変化が生じてくるので、BBCとしてはどうしたらいいのかを考えているのだ、と。ストリーミングサービスがさらに人気になった時、BBCとしてはどのような存在であるべきか。いかに、人々の生活に欠かせない存在であり続けるか。
これまで、創業から約100年の間、BBCは常に人々の日常生活において、欠かせない存在となってきました。ニュース、ドラマ、子供向け番組、スポーツ番組などを提供してきたのです。これまでは、成功してきたわけですが。
ー言論空間について、お伺いしたいのですが、近年、政治的な議論において中道の行き場がなくなってきたと言われています。懸念をしていらっしゃいますか。BBCはニュース報道において、不偏不党が義務ですよね。すると、ブレグジットのような話題では、どちらも満足させることができなくなります。両方から批判が来る・・・。
懸念はしています。
ブレグジットは特別な現象です。こんな状況は今までに見たことがありません。国が離脱派と残留派の2つに大きく割れていますよね。
BBCは妥協点を見つけるのがうまいんです。どこかに落とし所を見つけます。でも、今回は難しい。国民は、2つの方向にますます離れていってしまいました。
BBCとしては、報道が非常に難しくなりました。離脱派からも残留派からも批判されます。特に、政府に近すぎるとさえ言われました。BBCとしては、全ての側の見方を紹介しようとしてきました。でも、非常に難しい。まだブレグジットは終わっていませんが、将来的に全てが終わった時、何らかの形での修復が必要かもしれません。
ライセンス料制度は続くのか?
ーこれからも、ライセンス制度は続くでしょうか。今のところ、今後5年先までは維持することになっていますが、その後のことは決まっていませんよね。
数年先までしか決まっていないというのは、普通です。いつもそうでしたから。
BBCの存立を規定する「王立憲章」ですが、これの有効期間は今回は11年間です。10年後にはBBCはないだろうという人もいましたが、今は少なくとも2026年度までは存在することになります。5年後にライセンス制度の見直しをする、というのは合理的だと思いますよ。
私の予想では、結論を先延ばしにするだろうと思います。そしてまた「5年後に見直す」となるのではないでしょうか。
ーBBCについて、心配していることはありますか?
資金繰りですね。緊縮財政を敷いてきた政府が、(ライセンス料の値上げ凍結という形で)BBCの収入を事実上削減したことで、大きな損害が発生したと思います。もっと資金を投入するべき分野があると思いますし、その一例はニュース報道だと思います。
フェイクニュースの蔓延も懸念しています。BBCがこれにどう対応するか。
ーネットフリックスやアマゾンなど、有料購読制による動画視聴サービスの影響はどうでしょう?特に、若者層はテレビではなく、ネットでコンテンツを消費する傾向が高いので。
負の影響が出ることもあり得ますが、この市場は動きが大きい市場ではないかと思っています。ディズニーも参戦しましたし、アップルもあります。複数のサービスが有料動画市場で戦っているわけです。みんなが視聴者からお金を取りたがっていますが、負債を抱えながらの経営ですから、それほど大きな利益を得ることができないのではないでしょうか。赤字の場合もあるでしょう。
いつか、自然淘汰が起きるでしょう。そのうち、購読料を上げざるを得なくなります。
公共サービスとしての放送業には安定性があります。質の高い番組を作っていく限り、市場のどこかにひっそりとでも生息し続けるのではないでしょうか。
ーそれでは、BBCの将来がどうなるかと案じて、眠れない夜を過ごす必要はないわけですね?
まだそうする必要は、ないでしょう。



