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2019年読むべき小説・マンガ3選 中国の伝説的SF小説が日本上陸、漫画部門では40代の悲哀描く作品に注目

今年も残すところあと4日。BLOGOSでは読者プレゼント企画「#BLOGOS今年の3冊」を企画。「小説・マンガ・政治のいま・中国を知る・韓国の現在地」の各ジャンルで2019年に出版されたものから、注目すべき本を2回に分けて読者にお届けする。

第一弾は小説とマンガ。著書に『僕たちのゲーム史』や『文学の読み方』などがある、評論家・マンガ原作者のさやわかさんに選んでいただいた。

【小説部門】英国ミステリー、フランス社会を描いた話題作、そして中国SF小説の伝説的1冊を選出

『イヴリン嬢は七回殺される』スチュアート・タートン

『イヴリン嬢は七回殺される』-Amazon.com

ある洋館での仮面舞踏会。夜十一時になると、招待主の娘が自殺に見せかけて殺される。犯人は誰か? そもそも死は避けられない運命なのか? 主人公は同じ一日を何度もやり直して、それを推理することを求められる。

ただしいくつかルールがある。まず主人公は、やり直しのたび舞踏会の客の身体へ順番に乗り移る。また主人公の命を狙う「敵」が存在し、そいつに殺されると捜査失敗。次の人物となってリトライさせられる。やり直しができるのは7回まで。7回失敗すると、記憶をすべて失って1回目から再スタートになる。

「SFとミステリの融合か。なかなか奇抜な設定だなあ」と思うかもしれない。この本の帯にも、「館ミステリ+タイムループ+人格転移」「驚異の超絶SF本格ミステリ」などと書いてある。

だが、その見方はちょっとピントがずれている。そして上記を読んで「なんだ、それって要するにコンピュータゲームじゃないか」と思った人、あなたのほうが正しい。

つまり「やり直しができるのは7回」というのは「残機7」ということだし、主人公が来賓客の特定の人物でないのも、要するに彼は「プレイヤー」に位置するという意味だ。

ゲームに詳しい人なら、操作キャラクターを切り替えながら謎解きをするゲームが最近多いすらことすら、知っているかもしれない。この小説には、「では、来賓客を操作しているプレイヤーは誰なのか?」という、この手のゲームでお約束の展開もちゃんと用意されている。

つまり、こうした「ゲームのような」設定の小説はもう、世界的に見て奇抜なものではない。Netflixのドラマなんかを見ると、最近はこういうゲームにインスパイアされて作られたであろう映像作品すらたくさんある。

本作は、こうした作品の中でも、とにかく緻密に作られており、最近の中でもぶっちぎりで面白い一作だ。

日本でも、古くからこうした「ゲームのような小説」はライトノベルなどを中心に多数書かれてきた。むしろ日本のほうが、こうした小説にも、ゲームにも、一日の長があった時代があったはずだ。

しかしそれらを幼稚なものとして扱っている間に、海外勢のほうがこうした小説や映像作品でヒットを飛ばすようになってきた。本作にしても、本国イギリスだけで今年夏までに20万部を売り上げている。

こういう小説を日本で作りまくって世界へ大々的に売るという未来もあったはずなのに、なぜそうならなかったのだろう。現実は非情なので、7回どころか、一度もやり直すことはできないが。

『セロトニン』ミシェル・ウエルベック

『セロトニン』ミシェル・ウエルベック-Amazon.com

フランスの作家ウエルベックは、グローバル化する世界の悲劇を繰り返し描いている。

それがどういう意味かというと、フランスが舞台の作品だけれど、日本でも全く同じことが起こりうる話として読める、ということだ。グローバル化というのは、世界のどこであっても同じ、ということなのだから。

ウエルベックは今世紀に入ってから、ほぼ5年ごとに新作を発表している。前作『服従』は2015年の初頭に刊行された。これはイスラム教徒がフランス大統領選に立候補し、各地で同時多発テロが起きるという内容だ。フランス国内でのイスラム過激派の活発化を受けて書かれたものだったが、驚くべきことに刊行後わずか2日でシャルリー・エブド事件が起きる。12人が殺害された。『服従』はイスラム圏との対立が深まる欧州社会の未来を予言したとして大ヒットする。

最新作である『セロトニン』も昨今の情勢を反映しているとして、フランスでの売り上げは40万部を超えている。物語の中心は、やはりグローバル化だ。

フランスの農業は死につつある。

自由貿易の原則で、世界中から安価な農作物や乳製品が輸入されるからだ。勘のいい人なら、冒頭で書いたように、日本でも同じことが議論されているのを思い出せるだろう。

物語は、このグローバリゼーションと、主人公ラブルストが過去の恋人たちの誰とも家族になれなかったことを、うまく重ね合わせて描く。近代的な家族制度が崩壊し、恋愛が個人の自由裁量で行われるものになった現在、彼は女性とうまく関係を築くことができないでいる。

まあ、そのわりにセックスしまくっているのは、さすがフランス人は「陰キャ」であっても日本人と比べて恋愛に積極的だと言わざるを得ない。

だがそれでも彼は「個人の自由」の名のもとに、女性に対して強く出ることがない。自分のもとを離れていく時すら引き留められず、やがて一人寂しく自殺を選ぼうとする。

恋愛と農政、どちらにも言えるのは、すべてが自由になったときに自分が選ばれる理由はない、ということだ。

欧米中心主義の終わりと、男性中心主義の終わり。ふたつの終わりは、平等や自由という思想を突き詰めた先にある。それは正しいはずなのに、人々はなぜか苦しんでいる。

ざまあみろ、と思う人もいるだろう。たとえば発展途上国。たとえば女性。しかしでは今後、人は何を中心に生きればいいのか。この小説は、描いているのが「今」だからこそ、そこにとてもリアルな不安を感じさせる。

『三体』劉慈欣

『三体』劉慈欣ーAmazon.com

中国が生んだ壮大なSF小説として、ほとんど伝説的な存在となった『三体』の邦訳が刊行された。2019年の小説界隈のトピックとして、やはりこれは、挙げておきたい。

もともとは2006年に雑誌連載された作品だ。これはちょうど、中国のGDPが別次元の急上昇を始めた時期に相当する。

本国ではすぐに話題作となったが、しかしまだ世界的には中国のポジションも今ほど優位ではなかったし、必然的に、中国の小説に注目する人も少なかった。

だが中国国内ではどんどん読者は増え続け、2010年代に入ってからは多国語に翻訳される。

英訳版が出たのは2015年で、2017年には前バラク・オバマ大統領が愛読書として同書を挙げた。ちなみに、この年の中国のGDPは12.24兆ドルで、これは2006年の4倍以上の数字になっていた。

そんなわけで、中国への国際的な注目度と正比例するように『三体』の注目度は上がってきた。そんな作品の邦訳が出たのが2019年なのである。そう考えると、何となく意義深く感じられてくるわけだ。

しかも肝心の『三体』の内容だが、これがもう「中国って、でかいんだなあ」と妙な感想を漏らしたくなるほど、壮大な話だ。

簡単に言うとこれは超地球文明との対決の物語だが、いちいちスケールがでかい。小説は1967年、文化大革命における学生運動の騒乱から始まるものの、この冒頭部分から考えられないほど、マクロに、マクロに、マクロに、ひたすら物語世界が倍率を上げていく。

登場人物もアリストテレスやらアインシュタインやらフォン・ノイマンやら、歴史上の偉人たちが続々と現れ、世界史クラスのデカい議論を戦わせる。個人的に圧巻だったのは、秦の始皇帝が3000万人の兵士に隊列を組ませて規則正しく動かすことで「人列コンピュータ」を作り出すくだり。

このコンピュータ上で動作するOSには起動画面があり、プログレスバーがあり、高度な計算が行える。すべて、広大な大地に並べられた3000万人の兵士の力で。

この例だけでも、『三体』という小説のバカでかさがわかるだろう。そう、今いみじくも書いたが、これはもう「バカ」である。

「デカすぎてバカ」であり、「バカぶりがいっそ気持ちいい」のが、『三体』の魅力のひとつになっているのは間違いない。2019年の邦訳を読みながら、これが中国で15年近く前に書かれていたこと、その後の中国経済の無闇な拡大ぶりを思い返してみたい。

【マンガ部門】 40代独身女性、異世界転生、現代の青春 今年読むべきマンガ3選

『あした死ぬには、』雁須磨子

『あした死ぬには、』雁須磨子-Amazon.com

日本の漫画史で、現実的な人生の問題を、中心的に、直接的に、扱ってきたのは、やはり女性作家たちだろう。

つまり彼女たちは、「少女」として扱われていた女性が「嫁」になったり「母」になるような、人生のそれぞれの時期におけるステージのあり方をテーマにすることが多い。

そうしたテーマを追い求めることには、むろんジェンダーへの意識がある。だがそれに付随しながら、彼女たちはかつて自分の側にいた別の女性と同じ立場、つまり自分の「母」や「祖母」や「姉妹」たちと同じ存在になるか、ならないか、という視点も持っている。

だからこそ『あした死ぬには、』のような作品があり得るのだ。

これは40代に入り、更年期を迎えた独身女性を描いている。40肩、情緒がコントロールできなくなること、発汗など、更年期のさまざまな症状に悩まされながら、主人公は仕事のハードさや将来について漠然と考えている。

その考えはまとまらない。しかし周囲の人々と話しても、同世代はそろそろ死」に直面していたりするし、若者の考えはどんどんわからなくなっていく。

これはヒーローやヒロインが登場するような、ファンタジーとは違う。しかし社会が不安を抱えているときに描かれねばならないのは、こうやって絶対に現実から逃げずに、描き切ろうとする作品なのだ。

雁須磨子はそれがわかっているから、これを描いている。人生に向き合おうとする、力強さがある。

『ライドンキング』馬場康誌

『ライドンキング』馬場康誌-Amazon.com

アニメやマンガの世界で「異世界転生もの」というサブジャンルが席巻して、もうずいぶんになる。

異世界転生ものとは、何か? まず現実世界の人間が、突然『ドラクエ』のようなファンタジー世界にいきなり放り出される。しかしファンタジー世界の住人は知らない、現代人ならではの知恵をもって、その世界でうまく立ち回り、魔王を倒したり、商売をやったり、呑気に暮らしたりする。

そういう物語が、それはそれは大量に作られている。もう、ありとあらゆる人間が異世界に転生し、ありとあらゆるパターンで異世界で過ごすさまが描かれている。

もはや、描かれていないパターンはないのではないか。そんな異世界転生ものに、彗星の如く現れたのが『ライドンキング』である。

主人公は、某ロシアの大統領を100倍マッチョにした究極格闘家みたいな大統領。征服感を満たすため馬からバイクから戦車から、あらゆるモノに「騎乗」することを好んでおり、日常的な移動でトラに乗ったりする。

そんな彼が異世界に転生。ファンタジー世界ならではのドラゴンやらケンタウロスやらに乗りたい! と思いつつ、次第にその世界で人助けをし、国を興していく……という物語だ。

バカな話である。ところどころ『キン肉マン』やら『ガンダム』やらのパロディも散りばめられており、これはつまりちょっとギャグっぽいマンガなのだ。

だが他国との戦いや交渉においては、民族問題や貧富の差が極めてシリアスに描かれる。まさしく今の世界情勢と同じ問題に、某ロシアの大統領に似てる人が直面するのだ。

現実世界の知識を活かして、ファンタジー世界を救う。その異世界転生もののフォーマットを活かして、必然的に、現実世界への処方箋をも考える作品になる。意外とと言ったら失礼なほど、今日的で、奥深い作品である。

『夢中さ、きみに。』和山やま

『夢中さ、きみに。』和山やま-Amazon.com

最近のサブカルチャーでは「青春」はテーマになりにくい。

なぜかというと、まず若者の数が減っている。それに、昔ながらの青春ものが描きがちなわかりやすい成長や進歩、そして切なさなどは、今の時代の若者が生きる物語としてリアリティがない。

したがって、今の物語として青春を描いても、どこか不自然になる。そして当の若者だって、読んでくれないわけだ。

ところが一方で、学校を舞台にしたり、10代の友人関係を描いた作品は全く減っていない。教室を描いたり、部活を描いたり、とにかく多い。増えた印象すらある。

なぜか。

実はそれらの作品は、もう成長を軸にするような物語を描いてはいないのだ。それらが描いているのは、実は「関係」なのである。

いろんな可能性を持った人間がたまたま集って、関係を築いていく。関係の構築とは、かつての青春ものが描いた成長とは、似ているようで違う。成長しない時代にも、関係を築こうと頑張っている若者たちの美しさはあるのだ。

今の時代が求めているのは、そういう物語である。そうした世界を描くのに、学校という舞台は使いやすい。ということで、そこを舞台にした作品の数は減らない。

『夢中さ、きみに。』も、学校を舞台としている。しかしこれは昔からある青春もののような端正かつ繊細な絵柄でありながら、関係を築くことに重きを置いた「今」の物語を描いている。

つまりこれは、かつての青春ものをアップデートしたように見える。最も現代的にハイブリッドされた学校ものとして、青春ものにあった切なさと、今日的な関係を築く作品の暖かさの両方を噛みしめることができる。

さやわか
評論家、マンガ原作者。著書に『僕たちのゲーム史』、『一〇年代文化論』『文学の読み方』(星海社新書)、『AKB商法とは何だったのか』(大洋図書)、『キャラの思考法』(青土社)など。近著に『文学としてのドラゴンクエスト』『名探偵コナンと平成』(コア新書)。マンガ原作に『キューティーミューティー』(LINEコミックス、作画・ふみふみこ)。TwitterのIDは@someru。

名探偵コナンと平成 - Amazon.com

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「今年の3冊」をプレゼント

今回取り上げた「小説」3冊と「マンガ」3種を抽選でそれぞれ1名様にプレゼントします。下記をご確認のうえ、奮ってご応募ください。

◆応募方法◆

・BLOGOS編集部の公式Twitterアカウント(@ld_blogos)をフォローし、以下の投稿に欲しいセットをリプライ。

BLOGOS編集部の公式Facebookアカウント(@ld_blogos)の該当投稿に欲しいセットをコメント。

◆応募受付期間◆

2019年12月27日(金)〜12月30日(月)中

当選者確定フロー

当選者発表日:12月31日(火)
・当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し) のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
・当選者発表後の流れ/当選者様にはBLOGOS編集部から12月31日(火)中に、Twitterのダイレクトメッセージでご連絡させていただきます。2020年1月5日(日)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。

キャンペーン規約

・本キャンペーンにご参加いただくには、このキャンペーン規約(以下「本規約」といいます。)にご同意いただく必要があります。ご同意いただけない方はご参加できず、当選したとしても無効といたします。
・本キャンペーン実施期間中にBLOGOS編集部のTwitter、Facebookアカウントの該当投稿に対し、コメントされている方が抽選対象となります。
本キャンペーン開始から当選連絡までに投稿の削除した場合は、抽選対象外となります。
・ダイレクトメッセージを受信拒否設定している場合、当選連絡をすることができないため、応募対象外となります。
・当選連絡のダイレクトメッセージ記載の締切日までに配送先の入力がない場合、当選を無効とさせていただきます。
・複数回応募されても当選確率は上がりません。
・本キャンペーン当選賞品発送先は日本国内のみです。
・商品の発送は一度限りになります。お客様の諸事情により商品を送付できない場合(氏名・住所・電話番号等の記入漏れ、誤り、ご不在等によりお受取りいただけなかった場合等)、当選を無効とさせていただきます。
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