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コモディティ化し泥沼化する成熟の罠から抜けだせ

フィナンシャルタイムスがソニーがテレビ事業の赤字がなければ株価が7割上昇かというサブタイトルまでつけた記事を掲げています。ソニーのテレビ事業は、韓国や台湾勢の攻勢を受け、また液晶テレビの価格下落に歯止めがかからず、8年連続の赤字となっています。

しかも世界の液晶テレビへの需要が伸びるのは途上国、先進国では二台目、三台目の小型テレビへと移るので、価格はさらに下落していくのでしょう。いまや世界でトップシェアを誇るサムスンも、2011年第2・四半期決算で液晶パネル部門が2期連続の赤字となりました。

普通で考えれば、このレッドオーシャンとなってしまった市場から撤退することが正解でしょうが、2つのこだわりがそれを躊躇わせているのでしょう。ひとつは、かつてのトリニトロンによる成功という過去に、もうひとつは「ものづくり」を極めれば市場が評価するという幻想でしょう。

しかし、過去の栄光がどうであれ、この記事が伝えるように「日本メーカーは現在、薄型テレビの中核部品である液晶パネルの10%足らずしか生産しておらず、この技術が1990年代に最初に商品化された当時のほぼ100%、10年前の50%から大きく低下した」という現実は、すでに勝負はついてしまったことを物語っています。

また次期CEOの有力候補とされる平井一夫副社長が「多くの作業が自動化されている今の時代でも、モノづくりは芸術だ」とおっしゃっているそうですが、確かにソニーはこれまでも美しいデザインの製品を生み出してきたし、それはアップルのものづくりにも通じるところです。
しかし誤解してはいけないのは、「ものづくり」はもはや市場を牽引する主役の時代ではないことです。求められているのは「顧客づくり」、「市場づくり」、そのための「価値づくり」であって、「ものづくり」はそれを支える一つの要素でしかありません。

過去の栄光にこだわる、ものづくりだけに過度にこだわるというのはソニーに限ったことではありません。

確かに、いまとは比較にならないぐらい円安の時代に、ものづくりで日本は圧勝した歴史があります。高い品質の製品を廉価で欧米市場に送り込み、大成功し80年代には、ドイツとともに世界を制覇したのですから。

その過去の成功パターン、また栄光を捨てきれず、多くの人が間違ったメッセージを発信しつづけています。やはり日本は「ものづくり」だと。もっと「ものづくり」を極めるべきだと。しかし、残念ながらそれが競争力となるのは、素材や部品といった分野に限られています。おそらく、素材や部品でも、ものづくりの技術だけで競争力を維持することは難しくなってくるでしょう。いつまでも韓国や台湾の製品の部品のほとんどが日本からの輸入だという状態が続くという保証はありません。すでにiPhoneの部品のほとんではサムスンが供給しているというのが現実です。

日本には、ドラッカーのファンが多くいます。しかし、それだけ多くの人がドラッカーに親しんでいるはずなのに、イノベーションがいつのまにか「技術革新」と誤訳され、それが平気でまかりとおっています。ドラッカーはこう言っています。

イノベーションは技術に限らない。モノである必要さえない。それどころか社会に与える影響力において、新聞や保険をはじめとする社会的イノベーションに匹敵するものはない

日経BPで、技術に偏ったイノベーションに懐疑的な記者が、英アームホールディングスのチューダー・ブラウン社長の話を聞いて、イノベーションを「儲かる仕組み」をつくることと理解して違和感がなくなったというコラムがありました。
先に触れたように、イノベーションは新しい「価値をつくる」、「顧客をつくる」、「市場をつくる」ための新しい発想やアイデアだということです。

「イノベーション」を目標にするな:日経ビジネスオンライン :

韓国や台湾は日本の企業を目標にひたすら「ものづくり」の技術で追いつくことを目指してきました。そして「ものづくり」に「マーケティング」を加えたことで、いまでは液晶、半導体、携帯などの分野で日本の企業を追い抜きました。しかし、その代表格の勝者とされるサムスンも、市場の成熟によるコモディティ化には勝てないのです。
北米でトップシェアの液晶テレビでも、台湾資本のVIZIOの猛追を受け、ウォルマートもVIZIOを主力に置くことを決めています。今はサムスンの稼ぎ頭であるスマートフォンも近い将来に先進国では普及しつくし、ハードの需要先も途上国に移って行き、ハードは価格しか効かないコモディティ化にむかっていくものと思います。サムスンの売上だけで韓国の名目GDPの1割を占め、サムスングループ全体では2割を占めている状態は、サムスンこけたら国も揺らぐ状態で、そうとうリスクが高いといえます。

日本がめざすべきはサムスンからシェアを奪い返すことではなく、次のステップに向かうことです。むしろ日本にはまだまだイノベーションを起こすチャンスが残っているとも言えそうです。

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