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「火あぶりにされたサンタクロース」~問われるクリスマスの在り方~

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現在、欧州では「脱クリスマス」を唱える声が高まっているという。

EU七ヵ国(デンマーク、ノルウェー、ドイツ、スウェーデン、英国、フィンランド、フランス)の人々に「あなたはクリスマスを楽しみにしていますか?」と問いかけた調査で、フランス国民の57%が「クリスマスは好ましくない」とする驚きの結果がでた。フランスの低迷する経済と移民不安が主な理由と言われているが、商業主義への批判や他宗教への配慮などから、EU圏ではクリスマスを見直す声があがっている。(『ベルリン・都市・未来』武邑光裕、太田出版、2018年、p.88。)

日本人がクリスマスの「本場」であると考えるEU諸国においても、見直しの声が上がっているという結果には、多くの人が驚くのではないだろうか。日本で生活していると「日本人はキリスト教徒でもないのに、なぜクリスマスであんなに大騒ぎするのだろう?」という声をしばしば聞くが、程度の差こそあれ、現代の商業主義化し世俗化したクリスマスへの醒めた気持ちというのは、国境を越えて現代の多くの大人が共有する気持ちだということなのだろうか。

・火あぶりにされたサンタクロース

実際には、このような世俗化した「クリスマス」への反感は*1、現代において突如生まれたものではない。1951年、フランスの地方都市ディジョンにおいて、サンタクロースが異端として火あぶりに処せられる事件があったことをご存じだろうか。当時、仏夕刊紙「フランス・ソワール」は次のように報じている。

サンタクロースが、昨日午後、ディジョン大聖堂の鉄格子に吊るされたあと、大聖堂前の広場において人々の見守るなか火刑に処せられた。この派手な処刑は、教区若者組に所属する多数の子供たちの目の前でおこなわれたのである。この刑の執行は、サンタクロースを教会の横領者にして異端者として〈有罪〉の判決を下した聖職者の同意のもとに決定された。サンタクロースはキリストの降誕祭を異教化し、鳩のようにおとなしそうな顔をしながら教会のなかに居すわって、ますます大きな顔をするようになったとして非難されたのである。(クロード・レヴィ=ストロース『火あぶりにされたサンタクロース』、中沢新一訳、角川書店、P.13-14。)

20世紀の半ばに、サンタクロースが処刑されるという笑い話のような事件が実際に起こった。火あぶりにされたのは当然生身の人間ではなく、人形であったのだが、カトリックの正統な教義に属さない者を「異端」として火刑に処すというのは、中世に猛威を振るった「魔女狩り」を彷彿とさせる宗教的な示威行為であり、単なる見世物ではない。この火刑は当時のフランス人のあいだで話題の種となり、カトリック教徒の間でも盛んな討論をひきおこしたという。

なぜサンタクロースは異端として火刑に処されたのであろうか。理由は、イエスの生誕が祝われるべきクリスマスの本来の意味が、サンタクロースによって捻じ曲げられ、彼のプレゼントのほうが重要になってきてしまったからだ*2

・現代のサンタクロース像を生んだのはコカ・コーラ社

たしかに今日でも、われわれ日本人にとっては尚更、クリスマスはサンタクロースが子どもにプレゼントを贈る日として意識されている。本来イエスの生誕を祝う日であったクリスマスは、いつからサンタクロースの日になったのか。岩野卓司が、諸説あるなかのひとつを以下のように紹介している。

サンタクロースの話の起源は、四世紀ごろの小アジアの都市ミラの司教、聖ニコラウスにある。この聖人は死刑囚の冤罪を晴らしたり、数々の奇跡を行ったことで名高い実在の人物であるが、次のような逸話がある。貧しさのあまり自分の三人の娘を身売りさせなければならない人がいて、その人を救うために、聖ニコラウスは暖炉から金貨を投げ入れ、それがたまたまそこに吊るされていた靴下のなかに入り、身売りは避けられたという話である。この逸話がクリスマス・プレゼントの由来と言われている。話の真偽は定かではないが、暖炉といい靴下といいクリスマスによくお目にかかるものがこの逸話には出てくる。そして、この聖(セント)ニコラウスをオランダ語で呼ぶと、シンタクラース〔Sinterklaas〕となり、それが新大陸のアメリカで訛ってサンタクロースになったのである。(岩野卓司『贈与論』、青土社、2019年、p.59。)

この逸話がサンタクロース起源の有力なもののひとつであるが、現代のわれわれにおなじみの、赤いナイトキャップを被り、白い袋を背負い、雪のなかを橇で走るサンタクロースのイメージが完成したのは、その後のアメリカでのことである。

19世紀前半に活躍した、アメリカの詩人クレメント・C・ムーアが、自身の作品のなかで「サンタクロースは大きな顔で丸い小さなおなか、元気いっぱいで陽気な、小さな妖精の太っちょおじさん」だと表現したことに端を発し、この詩が、後に多くの画家たちのサンタクロース表現に影響を与えた。さらに1930年代に入ると、コカ・コーラ社は、サンタクロースのイメージをクリスマス・キャンペーンに起用しようと考え、その創作をシカゴ育ちのスウェーデン系アメリカ人、ハッドン・サンドブロムに依頼する*3

1931年、サンドブロムの描いた人間的で温かみのあるサンタクロースが、『サタデー・イブニング・ポスト』の雑誌広告に登場したことをきっかけに、コカ・コーラ社のサンタクロースのイメージは、世界中に流布したという。つまり、現在のサンタクロースの像は、アメリカ企業の商業主義的なコマーシャルによって生まれ、世界中に拡散したのである。

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