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《チョグク氏逮捕状請求》自ら抜擢の「切り札」に足元をすくわれる文在寅大統領 韓国検察と全面戦争へ - 名村隆寛(産経新聞ソウル支局長)

 妻ら家族の不正疑惑により辞任した韓国の曺国(チョ・グク)前法相が、ついに逮捕か否かの瀬戸際に立たされている。

【写真】日中韓ビジネス・サミットで出席者に手を振る各国代表

 政府高官の監視と司法を担当する大統領府の民情首席室特別監察班が2017年、柳在洙(ユ・ジェス)前釜山副市長の汚職の監察を打ち切った疑惑をめぐり、韓国検察が職権乱用容疑で、当時の民情首席秘書官だった曺氏の逮捕状を請求したのだ。

 12月26日に逮捕状発付の審査を行う裁判所の判断は不明だが、大統領府は逮捕状請求に猛反発している。対する検察は、「検察改革」を進める文政権に真っ向から挑み、大統領のかつての最側近を逮捕する構えだ。韓国の大統領府と検察の対立は、露骨になっている。

検察から逮捕状請求された曺国・前法相 ©AFLO

“鬼”のいぬ間に逮捕状請求

 曺国氏の逮捕状が請求されたのは12月23日。ちょうどこの日、文在寅大統領は日中韓3カ国首脳会議に出席するため、中国・北京に向かった。この絶妙なタイミングでの逮捕状請求。虚を突いたもので、大統領府を刺激するには余りあるものだった。

 柳・釜山前副市長は、金融委員会に在職していたころの15~16年に金融業者など複数から計4950万ウォン(約470万円)相当の金品などを受け取り、便宜を図った収賄罪などで今年11月に逮捕。12月13日に起訴された。かつて盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の随行秘書などを務めた柳被告は、盧政権では、当時大統領府民情首席秘書官だった文在寅大統領の部下だった。その人物の汚職の監査を、文大統領の盟友である曺氏が打ち切った疑惑が持たれているのだ。

 これまで検察は12月中旬に2回、曺氏から事情聴取した。曺氏は「政務的な最終責任は私にある」と、監察打ち切りを認めながらも、「把握できた不正は軽微なものであり、正常な手続きに従った」と法的責任は認めていないという。検察としては、曺氏が内部監察で重大な違法容疑を把握し、「裁量権を超えた職権乱用に該当する」不正と捉えている。

 一方、大統領府は23日、いかなる措置を取るかについては「大統領府の権限であり、そのような決定の際、いちいち検察の承諾を受ける機関ではない」と検察の逮捕状請求を批判するコメントを出し、強い不快感を示した。

 また、大統領府は「民情首席室は、柳被告の同意があれば監察調査をできたが、(柳被告に)拒否された」と監察中断に至った理由を説明。確認した違法容疑を柳被告の所属機関に通報したともいう。

「検察改革」への報復なのか

 与党「共に民主党」は、曺氏の逮捕状請求について「検察改革に対する報復だ」と反発しているが、この「検察改革」こそが、曺氏の疑惑捜査を見る上でのキーワードだ。

「検察改革」は文大統領の公約であり、大統領任期中に実現したいと考えている念願である。検察が強大な権限を握る韓国では、捜査指揮や起訴などの権限が検察に集まるため、外からの監視は受けにくい。つまり、その時々の政権の意に沿う「政敵への捜査」も、過去の政権ごとに行われ、歴代大統領の多くが退任後に検察の捜査を受けている。

 文大統領が大統領秘書室長や民情首席秘書官として仕えた、師匠で盟友だった盧武鉉元大統領は、親族の不正資金疑惑で検察の事情聴取を受ける最中に自殺した。文大統領は、この盧氏の死を、当時の李明博(イ・ミョンバク)政権による「政治報復」と認識している。文大統領の検察への不信感は根強い。その経験が、文大統領の検察改革に対するこだわりにつながっているのだ。

「身内」に足を引っ張られ……

 文大統領の狙いは、検察の権限を削いで“骨抜き”にすることだと指摘される。10月、法相辞任の直前に曺氏が発表した検察改革案は、検察特捜部を廃止し捜査権を縮小、法務省の検察への監察権を強化するというものだ。

 特捜部廃止など検察への制限は、文大統領が指名した文武一(ムン・ムイル)前検事総長の時代から進められ、10月初旬に文大統領の指示を受けた尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長が1日で提出した案だ。これを最終的にまとめたのが曺氏だった。

 文大統領が検察改革の切り札として9月に強行任命したのが曺氏。その曺氏の疑惑で大統領府を捜査し、逮捕状を請求した検察のトップも文大統領が今年6月に検事総長に指名した尹氏だ。

 尹氏は13年に、朴槿恵(パク・クネ)前大統領が当選した前年に大統領選での情報機関の介入疑惑の捜査を指揮した際、上層部と衝突し、地方高検のヒラの検事に左遷されたが、16年に朴前大統領の友人、崔順実(チェ・スンシル)被告の国政介入事件を捜査する特別検察官のチーム長を務めたことで名が知られるようになった。翌17年5月の文政権発足後にソウル中央地検トップの検事正となり、収賄容疑で李元大統領を、徴用工訴訟への介入疑惑で梁承泰(ヤン・スンテ)前最高裁長官を、それぞれ逮捕・起訴した。

 保守政権の李明博・朴槿恵両政権の不正捜査を指揮した尹氏は、「積弊清算」を叫ぶ文政権に功績を評価され、尹氏は検事総長の任期制度の導入(1988年)以来、高検トップを経験せずに就任した初の検事総長に抜擢された。異例の人事だった。

「社会に残る不正腐敗の根を抜き取り、検察改革を遂行すると期待している」

 検事総長指名の際には大統領府からこんな表現で歓迎され、文大統領の期待を背負った尹氏。皮肉なことに、文大統領は、自ら起用した曺氏という「側近」に足を引っ張られ、尹氏という自ら抜擢した「切り札」に足元をすくわれようとしているのだ。

検察はまだカードを持っている

 曺氏には、検察が狙う、もう一つの疑惑がある。昨年6月の南東部、蔚山市長選挙への介入疑惑だ。

 当時の蔚山市長で、保守系の金起炫(キム・ギヒョン)氏の側近らが業者との不正疑惑で選挙3カ月前に警察の捜索を受け、選挙1カ月前に送検された。その結果、金氏は直後の市長選で落選し、左派で文大統領と親交がある与党系の宋哲鎬(ソン・チョルホ)氏が当選した。落選した金氏の側近らには今年3月、「嫌疑なし」との判断が出されたことから、政権側の何らかの関与があったのではないかとの疑惑が持たれている。

 曺氏は、当選した宋氏が2012年の国会議員選挙に出馬した際の後援会長だ。検察は蔚山市長選介入疑惑の捜査も進めており、地元警察も関与しているとみて捜査にしている。任期2年の尹氏が残る1年半、自ら検察トップから降りる可能性はなさそうだ。

 不在の隙を突き、検察による曺氏の逮捕状請求を許した文大統領は24日、中国・成都で安倍晋三首相との1年3カ月ぶりの日韓首脳会談を終えるや、真っ先に帰国の途についた。北朝鮮問題や日本との関係改善など外交的な課題を抱える文大統領だが、韓国国内でも課題が山積している。

(名村隆寛(産経新聞ソウル支局長)/週刊文春デジタル)

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