母子問題に詳しい、臨床心理士の信田さよ子・原宿カウンセリングセンター所長は、こう仰っています(「」内が信田さんの発言です)。
「老いた母のことが怖いという女性は少なくありません。だったら介護なんかしなければいいじゃないか、と言われるかもしれませんが、現実はそう簡単ではないんです。まず親への期待、それから罪悪感を捨てられない人もたくさんいます」
これだけ世話をしているのだから感謝してくれるはずだ。もう少ししたらがんばりを認めてくれるだろう。あきらめや失望を感じつつ、期待を捨てられない娘は、母との関係を決定的に壊せない。
自分が見捨てれば母はどうなるのだろう。母にもいいところはいっぱいあるのに感謝できない自分が悪い。そんな罪悪感から介護を担い、あるいは介護から逃げられない人も多いという。とはいえ信田さんによると、こうした罪悪感も「母がそう仕向けている」というから厄介だ。
「親の支配とか、親が怖いというと、暴力的なことをイメージする人が多いですよね。確かにそういう親もいるけれど、母娘関係ではもっと巧妙で狡猾なんです。たとえば年老いた母親から、お願いだから助けてとか、あなたしか頼れないなんて言われたとき、それを無視すると自分のほうが悪者のような気分になりますよね? そんなふうに自分の弱さを訴えて子どもに罪悪感を植え付け、意のままに操ろうとする母親もいるんです」
この手の母親は単に力を誇示するだけではない。甘えや泣き落とし、すねたり情緒不安定になったりして実力を行使する。暴力的、高圧的な態度を取ることなく、むしろ「非力」を演出して家族の関心を集め、この人のために何かしてあげなくては、そう思わせるという。
弱さ、非力、これらは高齢になった毒親とその子どもとの関係性において重要な切り口だ。親の体力や生活力、認知機能などが弱まれば、当然介護の可能性も高まる。老いた親が経済的に困窮し、非力なパラサイトになって子どもに依存してくるかもしれない。
すぐに泣いたり拗ねたりするような幼稚な親、責任転嫁や現実逃避ばかりする親、そんな人たちに「老い」が加われば、さらに子どもを振りまわすこともあるだろう。
「毒親」に限った話ではないのですが、自分の「弱さ」を訴えることによって、相手を支配する、という事例は少なくないのです。「強く出てくる相手」であれば、頑なに拒絶することもできるけれど、「弱っている人間+自分の親」ともなれば、見捨てることに罪悪感の欠片もない人のほうが少数派でしょう。なんのかんの言っても、「世間体」みたいなものも、まだまだ根強く残っていますし。
この本には、さまざまなケースでの対処法のヒントも紹介されているのですが、「家族」の問題だけに、割り切るのが難しい、という面はあるのです。
こうやって、まさに一生を毒親に支配されるというのは、なんてキツイ人生なのだろう。
それでも、子どもは親の影響を断ち切るのが難しくて、自分も、その子どもにとっての「毒親」になってしまうことも少なくないのです。
全く無毒な親、というのも、いないのだろうとは思うけれど。
毒になる親 一生苦しむ子供 (講談社+α文庫)
作者:スーザン・フォワード
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 2001/10/18
メディア: 文庫
母がしんどい (中経☆コミックス)
作者:田房 永子
出版社/メーカー: KADOKAWA
発売日: 2012/09/01
メディア: Kindle版
子どもの脳を傷つける親たち NHK出版新書
作者:友田 明美
出版社/メーカー: NHK出版
発売日: 2017/08/14
メディア: Kindle版