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M-1王者ミルクボーイ「昭和のベテラン漫才師口調」が生み出したオンリーワンの魅力

BLOGOS編集部

今年の「M-1」が終わり、エントリー総数5040組の頂点に立った新王者ミルクボーイの衝撃的な面白さが尾を引いている。番組後に「今年初めてテレビで漫才をやった」と明かしていたが、それぐらいの「低さ」から予選を勝ち上がり、かまいたちや和牛などの実力者を真っ向から制したジャイアントキリングは圧巻だった。

ミルクボーイの「リターン漫才」(ミルクボーイ自身がそう名付けている)にどうしてこんなにも笑ったのか、いったい何を見せられたのか、その記憶を整理してみる。

不安を覚えた劇場的なツカミ

7番手で登場したミルクボーイ(ボケ/駒場・ツッコミ/内海)、冒頭のツカミでボケの駒場がマイクを越えて舞台前ツラまで進み、客席からプレゼントをもらうマイム「エア差し入れ(?)」を見せ、ツッコミの内海が「ありがとうございますー、いまベルマークを頂きましたけどもね、こんなんナンボあってもいいですからね」とフォローした。

ミルクボーイ初体験の身には、それが彼らのルーティーンなツカミとは知らず、いかにも劇場的な入り方に不安を覚えた。ここは大阪の劇場ではない、お笑い界で年に一度、最大限の緊張がみなぎるM-1のスタジオなのに、と。それがこの場にふさわしいツカミに思えず、また、ベルマークというレトロワードが世代を選ぶせいか客席は半ウケ、いきなり「スベってる」という印象となった。

BLOGOS編集部

右に立つ内海は、角刈りで小太りでダブルのスーツというアクが強めのルックス。女性ファンが付きづらい時代錯誤なキャラだ。また、左に立つ駒場は薄い群青のカラージャケットに白いTシャツという無印的な清潔感で、芸人というより格闘家のような佇まい、笑いへの近さを感じる立ち姿ではなかった。

そして、ミルクボーイはネタに入った。

< 2019年12月22日 「M-1グランプリ2019」(テレビ朝日) ミルクボーイ「コーンフレーク」より >

駒場「うちのオカンがね、好きな朝ごはんがあるらしいんやけど」
内海「ああそうなんや」
駒場「その名前をちょっと忘れたらしくって」
内海「朝ごはんの名前を忘れてもうて、どうなってんねん」
駒場「色々聞くんやけどな」
内海「ホー」
駒場「全然わからへんねんな」
内海「わからへんの? いやほなオレがね、オカンの好きな朝ごはん、いっしょに考えてあげるから、どんなトクチョー言うてたかちょっと教えてみてよー」
駒場「甘くてカリカリしてて」
内海「ホーホーホー」
駒場「それで牛乳とかかけて食べるやつやって」
内海「ホー、コーンフレークやないか。そのトクチョーは、もう完全にコーンフレークやがな」

ネタに入り、すぐに耳を突いたのはツッコミ内海の声だった。ハキハキと腹からの響きを伴う内海の声は、滑舌良く、口跡がキレて、一語一語が聞きとりやすく、音響環境にムラがある幾つもの劇場で培った昭和なベテラン漫才師の発声を思わせた。会話の発声が自然なようで冷静に聴くとすこぶる不自然。何という昭和ベテラン感あふれる口調かと驚いた。

だが、その半分は呆れでもあった。いったいこの時代に何という発声で漫才をしているのだろうかと。M-1は常に、その時代の先端に立つ最も輝かしい漫才師たちが集う場だ。それが、令和最初のM-1に内海のようなトラッドな(それこそ「時を戻した」ような)スキルを携えたファイナリストが現れるとは・・・。

一方で相方・駒場の声はごく普通に現代であり、この現代と昭和の組合せがこれからどこへ連れて行ってくれるのか、まったく予想がつかなかった。

「コーンフレークやないか!」は「欧米か!」の進化版?

BLOGOS編集部

駒場のオカンが好きな朝ごはんはコーンフレークなのか、そうでないのか、漫才はその是非を行き来する肯定と否定のループへと入って行った。「コーンフレークやないか」「コーンフレークちゃうやないか」、初めから答えのあるツッコミが繰り返されるのを聴きながら、頭をよぎったのはタカアンドトシの「欧米か!」だった。

タカトシは1種類の判定、ミルクボーイは2種類の判定、これはあのフォーマットの進化なのか?

(ちなみにタカトシの「欧米か!」は基本バージョンの後に、タカが「八兵衛か!」とやり返すパターンに派生している。「オウベイ」「ハチベイ」、韻を踏んだ同音フレーズでの逆襲が「欧米か!」漫才のバージョン2である。)

そこからミルクボーイは、さらに独自のフォーマットを切り拓き、笑いを稼ぎ出す。

< 同上より >

駒場「オレもコーンフレークやと思ってんやけどな、オカンが言うには、晩ゴハンで出てきても 全然いいって」
内海「ほなコーンフレークちゃうやないか! 晩メシでコーンフレーク出てきたらちゃぶ台引っくり返すよ。コーンフレークはね、まだ朝の寝ぼけてる時やから食べてられるのよ。食べてるうちに段々眼が覚めてくるから最後ちょっとだけ残してしまうねん。そういうカラクリやからね。」
(略)
内海「ほなもうちょっと何か言うてなかった?」
駒場「食べてる時に、誰に感謝していいかわからんらしい」
内海「コーンフレークやないか!コーンフレークは生産者さんの顔が浮かばへんねん。浮かんでくるのは腕組んでるトラの顔だけやねん。赤いスカーフのトラの顔だけ!」

この判定理由が、明快で、辛口で、ツボを突く、精選されたセンスのフレーズばかりだった。まるで証明の問題に最良の解を導いたような、キレッキレの小理屈。これがあまりに見事で、次々に笑いで鷲づかみにされていく。

漫才っていいな、すごいな、と、圧倒的に幸せな気分になった。

M-1歴代王者との明らかな違い

BLOGOS編集部

ミルクボーイの漫才が、頂点を極める爆笑をもたらし、M-1大会史上最高得点を叩き出した背景に、フォーマットの新しさや、ワードセンスのクオリティだけでなく、彼らの漫才に通底する奇妙なパワーがあって、その原動力こそ内海の昭和ベテラン漫才師的な口調であり、とても絶対的な役割を担っていたのだと感じた。

内海は肯定と否定を「行ったり来たり」させながら、ネタの展開に沿って中盤から後半にかけて、テンションのギアを段階的に上げていた。右肩上がりとなるツッコミのテンションはM-1漫才の理想形だ。

そしてこれはゼロ年代に、M-1の先人たちが築いてきた王者のスキルだ。ブラックマヨネーズの小杉と吉田の掛け合いであったり、アンタッチャブルの柴田であったり、パンクブーブーの黒瀬、銀シャリの橋本、多くの王者が放ってきたM-1の宝刀、膨張するボケを制圧する為、漫才というフィクションをハミ出し、あたかもドキュメントの感情をまとったようなツッコミ。怒りがツッコミを追い越す、言うなれば「怒りツッコミ」か。

しかし、M-1の先人たちとミルクボーイ内海の間には明らかな違いがある。M-1の先人たちは「怒り」の増幅を表現する為に、漫才をしながら素の自分を見せる手法をふるう。漫才から(意図的に)ハミ出すのだ。(漫才史でルーツを辿れば、やすし・きよしがそのパイオニアか)

だが内海は、テンションを右肩上がりにさせていくゼロ年代の宝刀を使い、怒りをちらつかせながらも、彼が獲得している昭和芸人的な口調から離れない。内海はハミ出しそうでハミ出さず、自身のキャラクターにとどまり続ける。この(漫才ブーム以前の)昭和のベテラン漫才師が漫才に徹し続ける「端正さ」があることで、<怒ってるけど端正>という、M-1と昭和漫才の融合のような領域に彼らは入り込んだ。

これが、ミルクボーイの漫才にオンリーワンのバカバカしさを付加した、ひとつの大きなファクターだと思ったりしている。

松田健次

聞けばミルクボーイ、あの「リターン漫才」を始め出してから10年も続け、その精度を高めていったという。彼らはなんの保証もない自らのカタチを信じて月日をそそぎ(――途中、漫才をサボってギャンブルに溺れていた時期もあったらしいが)、令和最初のM-1を、新しいフォーマットと古いスキルのハイブリッドで見事に制したわけだ。

芸の世界はやはり面白い。

とかあれこれ考えたりしながら、M-1翌日の12月23日だけ限定で、大江戸線六本木駅に貼り出されたミルクボーイのポスターを眺めたりしながら・・・。

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