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なぜ長嶋茂雄とイチローは「変わっている」のか

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■室内で銃を乱射し、バーボンを飲みながら雪道を爆走

奇人変人の大打者としてまず頭に浮かべるのは、9年連続首位打者、三冠王、打率4割などの記録を残した、メジャーリーグ最高の打者、タイ・カッブだ。

トミー・リー・ジョーンズがタイ・カッブを演じた。『タイ・カッブ』(原題「ザ・カッブ)という映画がある。自伝執筆の代筆――ゴーストライターの依頼を受けたスポーツライターである、アル・スタンプが、晩年のカッブに会いに行くところから物語が始まる。そこで彼が見たのは、黒人の使用人に人種差別の言葉で罵倒、室内で銃を乱射し、バーボンを飲みながら車のハンドルを握り、雪道を猛スピードで走る、性格破綻者の姿だった。アル・スタンプはカッブの死まで、彼の狂気に付き合うことになる――。

しかし――。

後年の調査で、スタンプがカッブに会ったのはほんの数日間のみ、この作品及び原作で描かれたことはほとんど捏造であったことが分かった(不幸なことに、この作られたカッブの像が定着し、後に製作された『フィールド・オブ・ドリーム』などにも反映されることになる)。

人は自分の信じたいことを信じるものだ。カッブのような並外れた成績を残した打者は、常人離れしていると思い込みたい、という心理が働いたというのもあるだろう。

そして、実際にカップは一風変わっていた。観客に殴りかかる、あるいは打撃、走塁技術に強い拘りを持っていたことは事実である。

■理屈がないと消化不良になる

日本に目を向けると――。

長嶋茂雄の有名な話として、球場に連れて行った長男の一茂を忘れて帰ってきたというのがある。打撃のことに入れ込みすぎて他のことを忘れてしまったのだろう。これは長島の“天然”な面として微笑ましく捉えられているが、普通では考えられない。

また、監督時代、他人に理解できないオノマトペを多用した指導など、彼の愛嬌あるキャラクターがなければ、変人である。

また、長嶋の同僚であった王貞治も同じである。

ぼく個人は彼がフロント入りした後の穏やかな姿しか知らない。ただ、当時を知っている人からは、王の激しい気性、打撃に対する思い入れは聞かされたことがある。そもそも彼のトレードマークとも言える一本足打法を掴んだのは、日本刀を使っての練習であることは有名である。その練習を強いた荒川博も、それを疑うことなく従った王も奇人である。

近年、最高の打者であるイチローもそこに加えていい。

『イチロー・インタビューズ』で著者であるスポーツライターの石田雄太はイチローに丹念に話を聞いている。その中にこんなやり取りがある。

〈――自分自身で、“鈴木一朗”って、どんなヤツだと思っています?

【イチロー】うーん……どんなヤツだろう。まあ、つきあいづらいヤツだろうね(笑)。どっちかというと、理屈で話を進めていくタイプだから。理屈じゃないところが多い人って、けっこういるじゃないですか。僕はそこを突いていっちゃうわけですよ。そうすると、「やなヤツだなあ」って思われるでしょう。それは、つきあいづらいですよね。そうじゃないと納得できない性格だから。理屈で理解させてくれないと、消化不良な感じがするんです〉

ぼくはイチローと親しかったスポーツライターの永谷脩の担当編集者だった時期がある。そのため、ぼくは彼と軽く接触したことがある。彼の自己分析通り、どこか他人を突き放したような印象を与える男だった。

■衝突を厭わず渡り歩く浪人

前出の佐伯も取材嫌いで知られている。

ぼくは佐伯の恩師である尽誠学園の監督だった大河賢二郎を通じて、彼に連絡をとった。しばらくして、佐伯からぼくの携帯電話に連絡があった。伊良部さんについてはまちがった情報ばかりが出ているので話したくない、しかし、監督からの頼みなので会う、話すかどうかは会ってから決めてもいいか、という。取材に対してこうした返事が来たのは初めてだった。

横浜の繁華街の彼の指定した店の個室で会うことになった。最初、彼は半ば喧嘩腰だった。ぼくが伊良部について丹念に取材を続けていることを説明すると、次第に表情が柔らかくなった。そして話が止まらなくなった。4時間ほど話を聞いた後、彼は駅までぼくを車で送ってくれた。取材中、酒を一滴も飲まなかったのだ。ぼくにとって最も印象に残る取材の1つになった。自分のバット――刀一本に拘り、衝突を厭わず渡り歩く浪人のような男だと思った。

いい打者のSIDは「奇人変人」的な「求道者」的性格なのである。(続く)

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田崎 健太(たざき・けんた)

ノンフィクション作家

1968年3月13日、京都市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。『週刊ポスト』編集部などを経て、1999年末に退社。スポーツを中心に人物ノンフィクションを手掛け、各メディアで幅広く活躍する。著書に『W杯に群がる男たち―巨大サッカービジネスの闇―』(新潮文庫)、『偶然完全 勝新太郎伝』(講談社)、『維新漂流 中田宏は何を見たのか』(集英社インターナショナル)、『ザ・キングファーザー』(カンゼン)、『球童 伊良部秀輝伝』(講談社 ミズノスポーツライター賞優秀賞)、『真説・長州力 1951-2015』(集英社インターナショナル)『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』(光文社新書)など。

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(ノンフィクション作家 田崎 健太)

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