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韓国人男性が「美容整形」に走る実に不憫なワケ

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韓国の中年男性は職場でも家庭でも崖っぷちに立たされている。ジャーナリストの金敬哲氏は「中年男性は迫りくるリストラの恐怖と背中合わせだ。韓国社会は人の目を過剰に意識する『体面文化』があるため、美容整形をしてでも外見を保ち、競争に生き残ろうとしている」という――。

※本稿は、金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。


※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bombaert

■「犬」と侮辱される韓国の中年男性たち

中小企業で次長を務めるファン・ソンミンさん(47歳)は、自分を典型的な中年とは思っていなかった。しかし、ある日、女性社員たちが、こっそり自分のことを「ゲジョシ」と呼んでいるのを聞いて愕然(がくぜん)としてしまった。


金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩』(講談社現代新書)

「ゲジョシ」とは、犬(ゲ)とおじさん(アジョシ)の合成語で、「品の悪い中年男性」に対して、若い世代が軽蔑を込めて使う流行語だ。ファンさんは、自分がなぜ「ゲジョシ」と呼ばれるのか理解できなかった。

失礼だという思いが頭の中を過ったが、だからといって彼女たちを呼んで問いただすわけにもいかない。ファンさんはすぐにインターネットで検索し、〈ゲジョシ・チェックリスト〉というのを見つけ出した。

「ゲジョシ」とは、40~50代の、権威的で自身の利益のためには他人の迷惑を顧みない男性のことを指す。女性や社会的弱者には強いが、立場が上の人には弱いのが特徴。次の項目のうち、一つでも該当すれば、あなたもゲジョシだ!

■これが韓国の「犬おじさん」リストだ

①コーヒー(お茶)は、女性が淹(い)れてくれたほうがうまいと思う。
②女性あるいは店の従業員が自分より若そうだと、すぐにため口を使う。
③自分が間違っていても、後輩の前ではひとまず自説を言い張る。
④地下鉄で周りの人たちを気にせず、足を広げて座る。
⑤相手をよく知るために、私生活を詳しく聞き出す。
⑥飲み会も業務の延長! 一人残らず出席すべきだ。
⑦部下に、業務以外の個人的な仕事をさせたことがある。
⑧自分の価値観を人に押し付ける。
⑨酔っぱらって、公共の場所で大声で騒いだことがある。
⑩その気になれば、自分より10歳以上若い女性とも付き合うことができると思う。

「確かにゲジョシだ」ファンさんは呆然とした。ファンさんは、月に2~3回、仕事が終わった後、部下を連れて飲み会を開いていた。すべて自腹である。一人暮らしの部下たちに栄養補給させるとともに、仕事のストレスを解消してやりたいと思ったからだ。

飲み会ではいつも部下の私生活を話題にした。

「君はどうしてまだ結婚しないんだ」「好きなタイプは?」「男っていうのはね……」「私が若いときは……」

可愛(かわい)い部下たちの相談に乗っているつもりだったが、ファンさんのこうした行動は全部、部下には「ゲジョシ」と見なされていたのだ。

■若者たちの反撃。中年男性への厳しい視線

韓国で「犬」という言葉は、相手を蔑(さげす)む接頭辞としてよく使われる。

ひどく汚れた席のことを「犬場(ゲパン)」といい、人をけなす時は「犬のような○○」「犬以下の○○」と言ったりする。人類最高のペットである犬が、なぜ韓国でこれほど冷遇されるのかという議論はさておき、犬をおじさんと合体させた「ゲジョシ」という造語の誕生は、韓国の中年男性に大きな衝撃を与えた。

韓国では、「ゲジョシ」は、既得権者である中年男性に対する青年世代の反撃の狼煙(のろし)と言われる。社会的な強者である中年男性への不満を、若者たちは自分が強者になれる「インターネット」空間で、造語の形で吐き出したのだ。

そして、これがオフラインにまで進出した。韓国の中年層が青年だった時代は、上司や年長者の権威的な行動を容認するムードがあった。かつては部長、あるいは課長、いや係長でさえも、部下たちの前で大言壮語し、気に入らない行動を指摘するのはもちろん、自分が生きてきた時代と比べて「昔はこうだった」と部下を叱った。

しかし、現在の韓国社会は、中年男性にも厳しい視線を向ける。「ゲジョシ」という言葉を作り、彼らが何気なくとってしまう行動を一つ一つ指摘するのだ。職場にお客さんが来たとき、女性社員にコーヒーを頼むと「ゲジョシ」になる。

■「犬」と呼ばれないよう若者の機嫌を伺う

部下に30分早く出勤して会議の準備をするよう頼んでも「ゲジョシ」になる。飲み会で携帯電話ばかり見ている部下を注意しても「ゲジョシ」になる。そんな世の中になったのだ。20年前、青年だった彼らが当然と思っていた上司の行動が、今や社会的な指弾を受ける「パワハラ」になってしまった。

今を生きる韓国の中年層は、「ゲジョシ」というレッテルを貼られないよう不断の努力をしなければならない。前出のファンさんも、ゲジョシからの脱却に向けて勉強を開始した。

「最近、インターネットで『アジェ・ギャグ(親父ギャグ)』を学んでいます。あと、娘や妻に、『こんな話をされたらどう思う?』と訊いたりして、女性社員に対する接し方を学んでいます。仕方ないですよ。管理職である私は、部下からも評価を受けなければなりません。若い部下たちに良くない評価でもされたら、人事で不利益を受けます。私のほうから彼らの機嫌を取るしかないのです」

■化粧品、整形手術も躊躇しない「美容男」

Kポップに続いてKビューティーが、韓流の新しい流れとして注目を集める中、韓国男性の美容ブームは、従来の「グルーミング(grooming)族」からさらに進化して、「グルダプター(Groo-dopter)族」を登場させた。

「グルーミング族」が美容やファッションに惜しみなく投資する男たちを指す造語だとすれば、「グルダプター族」はグルーミングとアーリーアダプター(early adopter)を合成した言葉で、美容のためなら化粧品はもちろん、整形手術も躊躇わない男たちを指す新語だ。

大手IT会社の役員を務めるキム・ギョンジュンさん(仮名・57歳)は、「グルーミング族」とはかけ離れた人物だった。顔が割れるように寒くて乾燥した冬でも、一度もローションを塗ったことがなかった彼が、数年前から百八十度変身し、若々しく見られるためなら整形手術も厭わない「美容男」になった。それは、40代前半の若い御曹司が会長の座に就いたことがきっかけだった。

「初めての役員会議の時、50~60代の役員たちの間に座った会長が、どんなに若く見えたか。会長を見た瞬間、自分が老けていることに恐怖を感じました」

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